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病気はギフト


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森脇 千晴(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「あれ? 何かあるな……」
「コブみたいなものがある……」
 
カーテン越しに医者はそうつぶやいた。
 
婦人科の検診。
いつまで経っても私は、これに慣れない。
グイーンと上がっていく、あの診察椅子。
カーテン越しに聞こえるカチャカチャいう音。
開けっぴろげになった両足には いつだって力が入ってしまう。
 
「コブみたいなものがある……」
その一言は、さらに私を固くさせた。
 
子宮頸がんの検診だった。
ポストに届いていた無料の検診クーポン券を持って婦人科に出向いた夏の日。
婦人系の病気とは無縁だと思い込んでいた。
「私は大丈夫だ」という妙な自信があったのだ。
 
それなのに……。
 
病名は「子宮筋腫」だった。
子宮筋層に出来るコブのような良性腫瘍。
実際、女性には珍しい病気ではなく、成人女性の4人に1人が持っているとも言われている。
 
そうは言っても不安になった。
子宮に出来た「コブ」について……というか子宮そのものについて、私は何の情報も持ち合わせていなかった。
これ以上ないくらいの不安感に襲われた。
 
真っ先に頭をよぎったのは「子ども」のことだった。
結婚はしておらず、その予定もなかったのに……だ!! (自分でも驚いた)
 
「子ども、いらないと思っていたのになあ……」
「心の奥底では欲しいと思っていたのかなあ……」
 
子宮筋腫は不妊や流産の原因にもなり得ると医師は言っていた。
まとまらない想いが胸の中で好き勝手に暴れている。
私は、声を出して泣いた。
 
何かに救いを求めるかのように、健康本を読みあさった。
 
「子宮は神社」
 
ある日、1冊の本からこんなフレーズが目に飛び込んできた。
 
子宮は子が宿る「お宮」。
赤ちゃんは産道(参道)を通って生まれてくる。
女性は自分の体に、そんな神聖な神社を持って生まれてきているのだという。
 
……自分の体に「神社」がある?
 
だとすれば……私は自分の神社を全然大切に出来ていないじゃないか!!
肌や髪のツヤ、洋服にメイク……外から見える部分にばかり重きを置き、外から見えない部分には全くの無関心であった。
 
「無視し続けてごめん」
「冷やしていてごめん」
「ちゃんと見ていなくてごめん」
 
子宮への謝罪文句は次から次へと溢れてきた。
 
「女の我慢は子宮に溜まる」
 
科学的根拠はないが、妙な説得力がある一節だ。
自分にも思い当たる節がある。
筋腫が出来る前の数年間は、結構、がむしゃらに働いていた。
常に苛立ち、不平不満を口にしていた。
そんな状態が心身にいい影響を与えるはずがない。
 
「心とカラダはひとつ」
 
私にはこのことを証明出来る実体験がある。
小学6年生のときのことだ。
こんなことを書くのは、いかがなものかと思うが、思い切って書くことにする。
初めて初潮を迎えた日、小学6年生の私は激しく動揺した。
生理になることは恥ずかしいこと、からかわれること……そんな風に思っていた。
皆、未熟だったのである。
ショックで一晩中泣き続けたら、なんと、その日限りでピタリと止まってしまった!!
心の反応が見事にカラダに表れたのである。
全くめでたくない私の初潮……。
未熟だったとはいえ、私は、自分の「性」を受け入れられなかった。
 
……子宮の立場になって考えると、これって結構悲しい話だ。
 
そんな出来事から20年以上が経ち、私の子宮にやってきた「コブ」。
 
このコブ達は一体何を私に伝えようとしているのか?
 
明確な答えは出なかったが、本を読み、インターネットで子宮に関する情報を検索し続けるうちに1人の女性にたどり着いた。
心と性のことを扱うセラピストだった。
 
「性とは心を生きると書きますよね」
 
京都の狭い町屋で数名の女性に囲まれながら、柔らかい笑顔で彼女はそう口にした。
 
「心を生きる」
 
思えば、これが「転機」だった。
 
私はどう生きたいのか。
どう在りたいのか。
そんなことばかりを自分に問いかけるようになった。
 
そして、子宮のコブが発覚して1年が経過したころ。
あのときと同じ夏の日に、私は完全にコブとお別れした。
 
この手術が終わったら、何かが変わる。
そんな予感がしていた。
 
「性とは心を生きること」
 
あの日この言葉を届けてくれた彼女のもとで、学びたいと思っていた。
私も人の心に寄り添う仕事をしてみたい。
そんな想いが日に日に大きくなっていっていた。
 
数時間に及んだ手術は無事に終わった。
病室のベッドの上、私は天井を見上げている。
まだ点滴の針が刺さったままの腕で、携帯を握り、私は新たなステージへの参加表明ボタンを押した。
 
思えば、あれが「転機」だった。
 
暗闇のような出来事の中にも、私たちには、きっと一筋の光を見つけられる力がある。
「闇」の中だからこそ気付ける光が……きっとある。
 
「コブちゃんのおかげ」
お腹についた傷を撫でながら、私はお礼を言う。
 
病気はギフト。
あれから3度目の夏が来る。

 
 
***

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2018-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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