逃れられないスイーツ攻め 認知症の行方はいかに
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:布村さわ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
始まりはいつも朝。出勤後の机の上を見た時が勝負。時々、机の上に無造作に置かれるスイーツ。パート先の職場での光景。スイーツのおすそ分け。大好きなスイーツ! 本来なら、テンションがあがり、「よし! 今日も仕事がんばるぞ!」となるはずなのだが……。
あれは、2年前。就職で、家を出た息子が最後に言った一言。「お母さんが認知症になったら、めちゃくちゃ面倒。十分気を付けて」家庭の事情で散々迷惑をかけた息子。これ以上、面倒はかけたくない。しかも、自分でも自覚はある。神経質で几帳面。仕事以外に趣味も少なく、家にこもりがち。心配されて当然だ……。
その日から、やたら、認知症の事に目がいく。中でも、糖と認知症についての記事が衝撃的だった。そうか、糖を摂り過ぎると認知症になるリスクが高まる! 予防のためには糖質制限が一番! その日から、私の食生活は一変した。
主食になるご飯やパンを減らし、おかずや野菜を中心にする。ご飯の代わりは、納豆に。パンは、週2回の仕事に行く時だけ許す!でも、夜のリラックスタイムのおかきやあられはやめられない。その変わり、スイーツは一切食べない! そんな生活が始まった。
それなのに……。予想外の事が起こる。最近、職場で、スイーツのおすそわけが増えたのだ! しかも、限定品や特産品! もともと、甘いものに目がない私にとっては悪魔の誘惑。目の前に置かれていなければ、考えずにすむのに……。
以前も、スイーツをもらう事はあったけど、その頃は、子供達も主人も家にいた。家に持ち帰れば、誰かが喜んで食べてくれた。今は、子供達も独立。主人は単身赴任。持ち帰るスイーツは1人分。自分しか食べる人間はいない……。
職場では、人数が少ない女性限定でスイーツが配られる。管理職の配慮らしい。「これ、女子限定。そっと食べてね」と言われる。男性の同僚に食べてもらう事も出来ない。机に置かれたスイーツの行先は……。自分で食べる? もったいないけど捨てる? その二択。
それにしても、いつから、こんなに贅沢になったのだろう? 親が借金まみれで、仕送りが少なかった学生時代。パン屋でパンの耳を1袋10円で分けてもらい、生活をしのいだ。めったに入る事のない喫茶店。ケーキなど食べようものなら、天にも昇る気持ちだった!
そんな生活を送っていた自分が、もらったスイーツを迷惑に思う日が来るなんて……。
「スイーツ、大好き! お腹いっぱい食べたい! でも、カロリーも気になる。健康にも悪そう……」気ぜわしい生活の中で、スイーツをいただく時間は、つかの間の心の休養。自分の生活を豊かにしてくれる時間。本当は、スイーツのあるひと時は、かけがえのないもののはず。おいしく楽しく食べればいいだけの時間。それなのに、その時間は、いつも罪悪感と隣り合わせ。まるで、忙しい時期に職場で有給休暇をとるみたい。
4月からスイーツとの葛藤の日々に、さらに追い打ちがかかる。春にオープンした娘のプリン店。月に数回、お店をのぞく。戦いの火ぶたが切って落とされる。新作のケーキ。残りもののケーキやプリン。いろいろなスイーツが、目の前のテーブルに置かれる。
「いらない」と断る? 持ち帰る? この場で食べる? 誰かにあげる? どうする?
頭の中で、いろんな考えがぐるぐる回る。目の前のスイーツは、どれもあっさりした上品な甘さ。前に食べた口溶けの感覚がよみがえる……。葛藤の末、いつも、糖質制限の固い決意は消え去る……。
出されたプリンやケーキを食べている最中の幸せな気持ち。ドリップコーヒーとのハーモニー。娘のうれしそうな顔。そして、食べ終わり……。空になったお皿の数々。心の中でわきおこる後悔。「今日も、完食してしまった……」
セラヴィ。意味は「人生は、こんなもの」娘の店の名前。これを見るたびに思う。何という皮肉。九州の山奥で育ち、はいからなスイーツなど口にする事も無かった子供時代。今のように、いろいろな所でスイーツを食べられたら、どれだけ幸せだっただろう。なのに、今は、素直に喜べない。
今日も、いろいろな人がスイーツを前に葛藤を抱えているかもしれない。目の前に置かれた時の喜び、甘い香り、口溶け、食感……。その全てが愛しい。今は、コンビニのスイーツも侮れない。安くて質も良く、新製品も目白押し。でも、スイーツは糖のかたまり。糖は、認知症だけでなく、糖尿病や他の病気との関連も大きい。
中高年にとって、スイーツは、がんばっている自分へのご褒美やお付き合い。おいしいスイーツが、いつでもどこでも手軽に手に入る。自分で買わなくても、いただく機会も多い。誘惑に負けず、自分なりにバランスを取る事が必要。時には断る勇気も大切。老後に後悔しないために! それなのに、今日も葛藤は続く。持ち帰った娘の店のクッキーを前に……。
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