ナンパより難しいナンパの話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ朝コース)
「すみません。簡単なアンケートなのですが、お願いできますか」
「今、時間がないんで」
その女性は、さらに足を早めて去っていきました。また、最初からです。
「すみません。ちょっとお時間いただけますか」
平成も30年になったある日の午後、
商店街で知らない人に声をかけまくっていました。
「ちょっとでいいんです」
ほとんどの人は足を止めてくれませんでした。
「5分くらいならば、大丈夫ですよ」
やっと答えてくれる人が現れました。
「ありがとうございます」お礼を言う声に、自然と力がこもります。
そして、心の中で震えました。「これは大変なことを引き受けてしまった」
仕事に余裕ができた3月後半のことでした。好奇心から、知人の調査会社が請け負ったアンケートを手伝うことにしたのです。とある市から業務委託を受けて、3日間でできるだけ回答を集めて欲しい、というものでした。
「知らない方にアンケートをとるなんて、面白そう」と応募したのでしたが、いざはじめてみると、世間の冷たさが身にしみました。もう3月も後半なのに、日差しも暖かいのに、人は冷たかったのです。
いや、正確に言えば、みんな忙しいんですよね。
近寄るだけで、体をよける人。声を聞いて、睨みつける人。何も反応しない人。
開始30分で、もう心そのものが消えかかりました。
折れる、というよりも、心がなくなっていく感じでした。
ナンパの方がまだ楽かもしれないと思いました。
ナンパなら、睨まれるか、にやにやされるか、無視されるか。
いずれにしても、声をかけた自分の下心が評価されるわけだから、
自己責任です。納得がいきます。
しかし、これは行政のアンケート。「無関心」がなんだか痛かったです。
おそらく自分も、忙しかったら、答えるか、微妙でした。
街をよくしよう、とか、街についてこう思う、という気持ち、ないのでしょうか。それどころではない、余裕のない方がこんなにたくさんいるのでしょうか。
それでも立ち止まってくれる人はいました。多くは高齢者の方々でした。
「昔はよかった」「緑があった」「活気があった」
遠い目をして答えてくれました。
ちゃっかりしているようですが、これをきっかけにして、
年配の方を中心に声をかけ始めました。
アンケートの数が順調に増えてくると、少し余裕ができてきました。
再び、他の年代の方々にも声をかけることができるようになりました。
声の掛け方に余裕がでてきたせいか、立ち止まってくれる方が増えてきました。
答えてくれそうな方の特徴もわかってきた気がしました。
ゆっくり歩いている方。何度か往復している方。
表情が穏やかな方は、よく止まってくれました。
うん、やはりナンパの要領に近いのか。少し浮ついた気持ちになりました。
そのうちに、何か言いたそうな顔をして、自分の方を向いている方に気づきました。このタイプの方はすぐに答えてくれました。
そのかわり。話がとてもとても長かったのです。
「これでアンケートはおわりです。他に何かありますか」
堰を切ったように人が話すのを初めて見ました。
「どうして、こんなに治安が悪くなったのか」
「家の近所の病院が移転する。どうしてくれるんだ」
メモするだけでアンケート用紙が真っ黒になるくらい、
沢山の話をしてくれました。
決して途中で遮ることはしませんでした。
ぜんぶ、聴きました。そうするべきだなと思っただけです。
やがて、それを見た人が、自分から声をかけて答えてくれるようになりました。
話を聴く、やはりナンパの要領か。
おかげで、40人ほどのアンケートをとることができました。
ところが、夜になって、事態は変わりました。誰も答えてくれなくなったのです。
歩いているのは、帰宅途中のビジネスマンと中高大学生ばかり。声がけを無視か、チラッと見る程度でした。
浮ついた自分を反省しながら、僕は作戦を変えることにしました。
最初の声がけです。
「お仕事おつかれさまでした」
「学校おつかれさまでした」
そうです。みんな疲れているのです。
無視していた人たちが、お辞儀をしてくれるようになりました。
結局、5人が答えてくれました。
昼間に比べたら、少ないけれど、声がけが伝わったかなと思った瞬間でした。
興味半分で応募したアンケートの仕事でしたが、
ナンパより難しいナンパでした。
人にお願いするときの伝え方に苦労しました。
でも
思った以上に、人の暖かさにも触れることができました。
人の怒りにも悲しみにも触れました。
数字からだけでは見えてこない声、気持ちを書き留めました。
そのアンケート用紙がどう使われるのか、僕にはわかりませんが
誰かが目を留めてもらえたら、嬉しいなと思います。
市民の声なんて、簡単にはわからない。
でも、みんな声はある。声を上げる人も。声なき声も。
そんなことを思って、この文章を書きました。
かきおわったら、自分の街のこと考えなきゃ。
あ、ナンパはしませんよ。
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