「弱者」ぶって「上から目線」な妊婦様
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記事:チミモン(ライティング・ゼミ朝コース)
ああ、肩身が狭いなぁ……。
電車に乗る度にそう思う。
私は今妊娠中だ。
どこからどう見てもお腹は出ているし、「妊婦マーク」も付けている。
「一体私は電車のどこにいれば皆様の迷惑にならないのだろう」
こんなことを考え始めたのは、前回の妊娠後「妊婦マーク」についていろんな意見を持つ人がいることを知ったためである。
「不妊治療している人にとっては自慢にしか見えない」
「席を譲れという圧力を感じてイヤだ」
「立っていられないくらいなら、家の外に出るな」
など、辛辣な意見も多くて驚いたものだ。
「妊婦様」という言葉も残念ながら一般的になってしまった。
「妊婦様」とは、弱者の立場を逆手にとって自分を優遇してもらおうとする妊婦のことを指すらしい。
そういう妊婦もいるのだろうが、ほとんどの妊婦はそんなつもりはさらさらないと思う。本当にしんどかったり辛かったりするだけなのに、それを「わがまま」と取られてしまうなんて、なんと世知辛い世の中になってしまったものか。
だから「席を譲ってもらう」=「優遇」ととらえる人にとっては、妊婦マークを付けていることさえ「妊婦様」扱いになってしまうのかもしれない。そう思うと、電車の中での振る舞いに困ってしまった。
優先席の前に立てば、「譲りなさいよ」と解釈されてしまいそうだ。
一般席の前に立てば、「優先席行けよ」と思われてしまいそうだ。
ドアの前に立てば、お腹+カバンの体積で乗り降りの邪魔になってしまう。
正解がわからない。
妊娠初期は妊婦マークを隠し、優先席に座れたときだけそっと出していた。見た目でわかってしまうようになってからは優先席の前に立って、スマホを見るなりしてできるだけ「譲って欲しい」オーラを感じさせないように努めるしかなかった。
ある日、電車に乗ると優先席の前が人でいっぱいで、しかたなく一般席の前に立った。
目の前の若い女性がすぐに気がついて席を譲ってくれた。「ありがとうございます」とお礼を言って座らせてもらった。その女性は、席に座っているもうひとりの女性と立っている男性の3人組のようだった。
しばらくすると、3人の会話が日本語ではないことに気がついた。おそらく中国語だ。
私はびっくりしてしまった。
「中国人なのに譲ってくれた」と瞬間的に思った。
そして5秒くらい経ったところで「中国人は譲ってくれない」と思い込んでいたことに気がついたのである。
なんと、無意識に人を差別していたのだ。
恥ずかしさで顔をあげられなかった。
振り返ってみると、妊娠してから今までずっと、そんなふうに自分勝手に他人をカテゴライズしてきたように思う。
「若い男性は譲ってくれる人が多い」
「おばさんは意外と譲ってくれない」
「おじさんは気が付かないふりをする」
「そもそも福岡の人はあんまり譲ってくれない」
「若い男性」も「おばさん」も「おじさん」も「福岡の人」も、一人ひとりは違う人間なのに。
怪我をしているのかもしれない。
失恋したばかりかもしれない。
仕事で大失敗したのかもしれない。
私のようにわかりやすい「弱さ」ではなく、外からは計り知れない事情がそれぞれにあるのかもしれないのだ。
私としては「分析」をしているだけのつもりだった。
だがその「分析」は、知らず知らずのうちに「差別」や「侮蔑」の気持ちに変化していた。
妊婦をひとくくりにして「妊婦はわがままだ」という人となんら変わらないではないか。
私は「弱者」であることを逆手に取って、上から目線で他人を分類しては勝手な評価をしていた。さらに差別の心までしっかり持ち合わせていた。これだって十分「妊婦様」だと思った。
正直を言えば、電車の中で立っているのが辛いこともある。
「席を譲って欲しいな」という視線で座っている人を見ていないとは言い切れない。
今までは「全然気づいてくれない」とか「気づかないふりしてるな」とか、マイナスの感情が生まれがちだったが、今は「この人は今どんな辛いことを抱えてるんだろう」と思うようになった。
余計なお世話かつ気持ち悪い妄想であることは十分に理解しているが、「こいつめ」と思うよりはずっと良い。
席を譲っていただいた時は、前にも増して丁重にお礼を申し上げている。誰もが諸事情を抱えていると思うと、その優しさが身にしみて感謝の気持ちが自然と倍増するものだ。
妊婦生活もあとちょっと。
他人が与えてくれる優しさをダイレクトに感じられる幸せをもう少し味わいたいと思う。
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