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お母さん、事件です!


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【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:白須絵里子 (ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
息子の元気が小学校1年生10月も終わりの頃だった。私はいつものように夕方5時半頃帰宅した。玄関のドアを開けると、リビングにいるはずの元気の姿が見えない。
 
普段は
「ママ~、お帰り~、お腹空いた!」と、飛びついてくる。だが、この日はしんと静まりかえっていた。
 
2階にいるのかもしれない、そう考えて玄関の横にある折れ階段をトントンと上がった。突き当たりの部屋がベッドルームだ。
9畳の部屋にセミダブルとシングルベッドをくっつけて並べている。ふたつ並べたその横に30㎝くらいの通路をもうけて、さらにもう1台シングルベッドがある。
 
つまり、9畳の部屋に川の字に3台のベッドを並べて、そこに小学生の息子ふたり、夫、私が寝起きしているのだ。
 
私が一番奥に寝て、その横は下の息子の元気だ。その横に夫、上の息子と続く。
 
「あー、しんどかった~」そう呟いていつもの場所にゴロンと横になった。
 
その時やっと、一番奥のベッドと、その横にあるはき出し窓との隙間、30㎝ほどの間に元気が小さく折りたたむように横たわっていることに気がついた。
 
いつも賑やかな元気なのに、しゅんとしてうなだれている。
アレ? どうしたのだろう、熱でもあるのかなぁ~ 
 
「どうしたん? 元気ないね」
 
「うん、何もない」
 
いったいどうしたんだろう? と思っていると、固定電話のベルが鳴った。
「もしもし、白須です」
電話の主は元気の通う小学校の先生からだった。
担任ではないが、子育て、教育のこと、なんでも相談出来るとても信頼している先生だ。
 
「お母さん、落ち着いて聞いて下さいね。
実は今日、学校の近くにあるコンビニから電話があって、
元気くんが、ハイチューをお店から黙って持ってでようとしたと連絡があったんです」
 
「え~! それって、万引きやん」
 
「先生、どうしたらいいですか?」
頭の中が真っ白になった私は、思わず受話器のむこうにいる先生に向かって叫んでいた。
 
「まず元気君を連れて、お店へ出向き、謝ってください!」
 
私は虫歯になるのが心配で、子どもたちが小さいときから甘いおやつは制限してきた。ケーキ、アイスは時間を決めて与えたが、口の中に長く留まる甘い物、アメ、ガム、ハイチューは与えたことがなかった。
 
カラダに悪いものは食べさせない、安心、安全なものを食べさせたい。
おやつに限らず、食べ物は安全なものが手に入るので、ほとんど生活協同組合で購入していた。カタログを見て注文、翌週品物が家に届く。代金は銀行引き落としだ。
近所のスーパー行き、子連れでおやつを買うことはほとんどなかった。
 
あとからわかったことだが、元気は小学校へ入ってから、お友達のところでハイチューをいただいたことがあったそうだ。
だが、家では買って貰えないと思っていたのだった。
 
ここで頭ごなしに叱っても仕方がない。自分の頭に血がのぼって、怒鳴り散らすだけで終わってしまう。それでは教育上よろしくない。
 
とにかく、夫に早く帰ってきてもらおう!
夫の携帯に連絡を入れ、手短に事情を話した。
 
帰宅した夫が元気に言った。
「お店のモノを黙って持ってきたら、泥棒やで。したらあかんことや。
今から一緒に謝りに行こう!」
 
なんて言って謝ればいいのだろうか、私はそう思っていた。
 
夫が先頭に立ち、元気、私と続いてコンビニへ入った。
お店の店員さんを探した。
 
夫が、
「先ほどは息子がご迷惑をおかけして、ほんとうに申し訳ありませんでした。
今後はこんなことがないように、よくいいきかせます」
深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。申し訳ないです」
私も一緒に深々と頭を下げた。
 
両親が揃って頭を下げる姿を見た息子は、自分のしでかしたことの重大さに気がついたのか、泣きながら
「ごめんなさい! もうしません」
と謝った。
 
店員さんが、
「その時の様子が防犯カメラに写っています。見ますか?」
と、言ってくださったので、
見せてもらうことにした。
 
カメラに写った映像は思ったよりもずっと鮮明だった。
元気はハイチューを手に握りしめ、あたりをきょろきょろしながら、そっとポケットに手を突っ込んだ。
 
ああ、間違いない!
 
最後に店員さんが、「これからは更正してください!」
と言った。
 
その夜、夫と私は夜遅くまで今日の出来事について話し合った。
 
以前、子育ての本でこんなことを読んだことがあった。
 
5,6歳から小学校1年生くらいまでは、自分のもの、他人のものとの区別が曖昧だそうだ。
この年齢でだまって人の物を持ってくる、お店のものを持ってくることはよくあることだ。だからこそ、自分が所有している、他人が所有している、“所有する”という考えをしっかり教えることは大事なことだ。
 
今回の事件は確かにそういう一面もあるだろう。
だが、私が、
実際にお金を払ってモノを買う、
という体験をさせていなかったことも、悪かったと反省した。
 
歯に悪いからと、闇雲に厳しくすることも考え物だな~と気がついた。
 
その後、元気を連れてスーパーにお菓子を買いにいくようになったことは言うまでもない。
あれほど欲しかったハイチューだが、いつでも手に入ると思うと欲しくなくなったようだった。
 
子育ては親育てだ、本当にそう思う。

 
 
***

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2018-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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