加齢とともに増えていく道具たち
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記事:山下直子(ライティング・ゼミ平日コース)
「いや、もう歳だしね」
そんな言葉をいつからかよく聞くようになった。
「もう若くないから無茶出来ない」
「おじさんだし、もう新しいことなんて始められないよ」
29歳頃から、昔話ばかりに花が咲くようになっていた私と友人たちは、「歳とったね」「もう若くないね」なんて口癖のように使っていた。そんな私も気づけば35歳。
30歳間近だった頃の私は、自分より若い子たちを見ると羨ましくて、自分の人生はもう下り坂に差し掛かっている、なんて思っていた。せめて30歳のおばさんになるまでに、自分の好きなことをやり尽くさなければと、生き急いだように色々なことに挑戦していた自分がいた。
自分が老いていくのを感じたのは、母からのこんな電話のせいもあった。
「お見合いの話があるんだけど。公務員でしっかりした人だよ」
この言葉には思わず笑ってしまった。私も、結婚しなければならない年齢になってきたのかと強く思わされたのだ。もちろんそのお見合いは断ったものの、「おばさん=The End」という波が、すぐそこまで来ていることを嫌というほど痛感させられた瞬間であった。
「もうすぐ30代だしね」
その頃からだろうな、周りからもこの言葉を頻繁に聞くようになったのは。
私も同じように使っていた言葉。でも実際30歳になった時、私の中で年齢の概念はなくなっていた。
30歳になった私は、20歳以上にやりたいことだらけだった。そして、20代の時よりもいわゆる“若い”と言われることばかりしていた。踊りたくなったら夜な夜な1人でクラブに踊りに行くし、膝上丈のスカートだって履く。音楽フェスも大好きで、ただゲストとして行くだけじゃ飽き足らず、スタッフとして参加する時もある。そんな私は、どう考えても昔より今の方が若いと感じていた。
「私ね、今度こんなことがやりたいの!」
好奇心の強い私は、知らない世界を知る度にやりたいことが増えていって、A4に書きなぐっていた“やりたいことリスト”は決してゼロになることはなかった。
「お前は若いな。でも俺たちもう30代だぜ?」
「30歳を超えた人で、こんなにやりたいことを言われたのは初めてです!」
30代の仲間や20代の若い子たちにこんなことを言われた。痛いヤツだと思ったのだろうか。その言葉を聞いたときの私は、少し忘れかけていた自分の年齢を思い出した。
自分が10代、20代の時って、確かに30代はもうすでにおばさん・おじさんだった。20歳になって初めてクラブに行った時、そこで知り合った30歳後半の女性たちに、少し痛いげな目をしていた私を思い出し、「あぁ、自分は今同じように思われているのだ」とハッとしたのである。
いわゆる普通の人なら、30歳くらいには家族がいて新しい挑戦などせず、平和な人生を歩み始めるのだろう。いや、こう話している私もそう思っていたのだ。年齢には勝てない、体力的にも衰えていくのだから、10代、20代の時のようにはいかない。だから生き急ぐかのように、A4に書いた“やりたいことリスト”に一生懸命横線を引き続けていたのだ。
でも実際30歳になった時、20代となんら変わらない私がいることに気がついた。むしろ20代の時よりも、やりたいことも、そのことを実現する能力も昔より勝っていたのである。それは年齢を重ねることで、自分の未来を楽しむために必要な道具の種類も数も増えていたからではないかと思っている。
昔の私といえば、“若さ”という勢いでやりたいことを実現してきたところがある。全てが経験で、無駄なことなんて1つもないとは思っているが、当時の私は知識やスキルのなさに大きく遠回りしていた時期がある。お金の稼ぎ方も知らず、キャリアもなかった昔は、「がむしゃら」という言葉そのままの毎日を過ごしていた。
でも今はどうだ。30代の私はあの頃と違って知恵もキャリアも経験も、いろんなジャンルの仲間もいる。昔のようにサイズの合わないドライバーで、時間をかけながら家具を組み立てたりしていない。今は自分のやりたいことに対してのアプローチの仕方を知っているから、どのシチュエーションにはどの道具を使えばいいか分かっている。
体力的には年齢を感じているところはあっても、心が老化することなんて気持ち次第なんだって思う。年齢を重ねることで増えていく素晴らしいものがある。歳をとることは決して「The End」なんかじゃないのだ。
そこに気がついた時、自分の中で年齢を重ねることに不安や絶望を感じることは消え去っていた。今は、“加齢”に対して喜びすら感じている。おばさん、万歳だ。
そんな35歳である私が今1番やりたいことは、天狼院書店企画である“秘めフォト”で自分のセクシー写真を撮ってもらうこと。若い子にはない魅力を存分に発揮したいと思っている。
今の私には沢山の道具が揃っている。その道具を使って、これからもこうやって自分の人生を謳歌していくつもりだ。
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