メディアグランプリ

天狼院書店ライティングゼミと謎の声


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺ことり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
天狼院書店メディアグランプリへの掲載をめざし、毎週2000文字程度の課題を提出している。
 
内容は幼少期のいじめ体験とか、中学時代の文化祭で「ミス不細工」に選ばれたこととか、適齢期に笑わない女と言われて上司受けが悪かったことなど、できれば他人に知られたくない恥ずかしいことばかり。
家族にさえ秘密にしていた、惨めな話がほとんどだ。
 
課題のテーマは個人に任されている。
それなのに自分でもどうしてここまで己の恥をさらけ出すのか不思議に思う。
そもそも小説を書いている私にとって、ブログやSNSは主戦場じゃないという意識があり、普段から当たり障りのない発信を心がけている。
52歳のどこにでもいる地味な主婦の経験談なんか、どう考えても需要はないだろう。
だから第1回目の講義を受けている間中、私の頭の中に浮かんでいたのは、いつものブログ記事に使っているような、ありきたりなネタばかりだった。
 
それなのに。
 
1本目の課題に取り掛かっている時、耳元で「おいおい、ぬるい記事書いてんじゃねーぞ」という不思議なささやき声がした。
「えっ?」
周りを見回してみたけれど誰もいない。
エディタに並んだ文章を見ると、確かにパンチが足りなくて、私は書いていたものをゴミ箱に捨て、別なエピソードに変更した。
2本目の課題の時は「はあ? そんなんで俺が満足すると思ってんの? 舐めんな」と声がした。
書き直すと、「それが正解だ。よく出来ました」と褒め言葉が降ってくる。
調子にのった私は、心の鎧を1枚ずつ脱ぎ捨てていった。
「そう。その調子だ。もっと来いよ」耳の奥で鳴り響く謎の声に導かれ、ネガティブな思い出をネタにした記事が、いつの間にか5作、積み上がっていた。
 
ここに来て、私ははっと我に返った。
いったい私は何をしているんだろう。
 
普段からポジティブシンキングを心がけていて、仲間たちと「ポジティブの会」まで作っている。
過去のトラウマを掘り下げることより、未来について語るほうがよっぽど楽しい。
こんな私が、さらけ出し系の記事を書くなんてありえないのだ。
私は混乱した。
 
そんな時、短大時代の友人、梨衣《仮名》からメッセージが届いた。
それは、いじめ体験の記事を読んでのメッセージだった。
 
「こんな感想がふさわしいかどうかわからないんだけど、面白かった。ものすごく内面をさらけ出してるけど、卑屈じゃない。続きを書いて。子供の頃のあなたにもう一度会いたい。そして友達になりたいの」
 
あの記事のヒロインだった3歳の女の子は、今や52歳のおばさんだ。
もう部屋の隅で泣いてなんかいない。年相応に図太くなって、女性のストレスフリーナンバーワンと言われる地方都市で、のんびりと暮らしている。
それなのに梨衣は、幼い頃の私が、今もどこかにいると感じているようだった。
そして涙を拭いてあげたいと思ってくれているようだった。
優しい梨衣らしい考え方だ。
でも、ヒロインを救うことは彼女にはできない。それができるのはただ一人。
 
私だ。
 
「お前な、今頃そんなことに気がついたのかよ」
 
いつもの声が鳴り響き、頭の中のモヤモヤが一気に吹き飛んだ。この声が誰のものなのか、なぜネガティブなネタばかり、無意識にチョイスしていたのか、すべての謎が一気に解けた。
 
物語で人を救いたい。
いつもそう思っていた。
しかし救うべき人は想像以上に近くにいた。
自分自身だ。
強いと思い込んでいた私の中には、今も泣きべそ顔の子供がひそんでいる。
そのことに気づくために、一度裸にならなきゃ駄目だったんだ。
52歳のどこにでもいる地味な主婦の日常なんて、誰も興味を持たない。
だからこそ、本音をさらけ出す必要があった。
でなきゃ、人の心は動かない。感動は生まれない。
そのことを声の主は知っていたのだ。
 
さて、謎の声の正体は、天狼院書店店主、三浦さんである。
私にとって三浦さんは、乙女ゲームに出てくるドSキャラだ。
元々私の頭の中には「今のままのお前でいいよ」と言ってくれる包容力キャラがいた。
それを「どけよ。そんなんじゃこいつが成長しないだろ」と押しのけて、居座ったのが三浦さんである。
頭の中の三浦さんは「今のままじゃダメだろ。もっと狂えよ。自分を出せよ」と容赦なく私のお尻を叩く。
そのおかげで、夏休みの宿題はやらずに済ます派だった私でも、課題を落とさずここまで来れた。
ちなみに実際の講義では、「こんな記事を書きなさい」なんて、全然指示されない。
それなのに、他の受講生の書くものも、次第に己をさらけ出したものになっていく。
きっとみんなの頭の中にもドSな三浦さんが住み着いているに違いないと、私は密かに信じている。
 
この記事を書いているあいだに梨衣から新しいメッセージが届いた。
「娘もあなたの記事が面白いって言ってた。続きが出たら教えてね」
ドSキャラに促され、己をさらけ出した結果、大切な読者が二人も増えた。
それはとっても素敵なことだと、私は心から思っている。

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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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