メディアグランプリ

球場で見つけた、もう一つの〇〇


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川泰央(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ナイスプレー!」
「ナイスラン!」
 
ダイナミックな投球フォームから繰り出されるエースの剛速球。内野ゴロを野手から野手へとテンポよくボールを連携してアウトにするダブルプレー。投手のモーションを盗んで一瞬の判断でスタートを切るランナーの盗塁。豪快な打者のスイングから放たれた打球が弧を描いて外野席に飛び込む値千金のホームラン。
これぞまさに、ファインプレー。野球の醍醐味だ。観ている多くの人たちは、その躍動する選手たちに思わず大きな声援を送りたくなるのではないだろうか。
 
40年以上の野球を観てきた私もそんな野球ファンの一人だ。
しかし最近では、あることをきっかけに、野球の見方が変わった。というより、楽しみが増えたと言った方が正しいかもしれない。
 
「ナイスプレー!」
「ナイスラン!」
 
この言葉は、必ずしも選手だけに向けるものではない。思わずその言葉にかけたくなる人たちが選手の他にも同じグラウンドにいることに今さらながら気づかされたのだ。
ただ残念なことに、その人たちの姿はテレビではほんの一瞬しか映らない。もしかして映っていることすら見逃してしまっているかもしれないのだ。
 
その存在に気づかされたきっかけは、数年前のある日のことだった。息子の少年野球の関係で、ある講習会を受講することになった。それは、少年野球の審判員なるための審判講習会だった。少年野球の審判員はみなボランティアだ。1試合行うためには最低4人の審判員が必要なため、実は人数を確保するのも大変な状況なのだ。ましてや試合が多い日には同じ人が何試合もこなさなければならず体力的にも厳しい。そこで、少しでも審判員の担い手を増やそうと、少年野球をやっている子供たちの父兄に講習会を受けるよう声がかかるのだ。
 
私もご多分に漏れずその講習会を受講した。講習会では野球のルールやアウト・セーフのジェスチャー等を学んだが、その中で、とても印象的な1つの理論に出会った。それは、私にとって初めて聞く考え方であり、とても新鮮だった。
その名も、「クロックワイズ」、直訳すれば「時計回り」という。これは、一言でいうと、プロ・アマ問わず、試合中に審判員同士がカバーし合う連携プレーの「型」のことだ。
 
何となくイメージできるだろうか?
 
広いグラウンドの中に、本塁、一塁、二塁、三塁というベースが4つあって、それぞれのベースの近くに1人ずつ審判員が立っている。つまり全部で4人がグランドにいるのだ。
 
ところが、テレビに映し出させるのはせいぜい1人。キャッチャーの後ろにいて、ストライク・ボールを判定する「球審」と呼ばれる審判員だ。それ以外の「塁審」と呼ばれる3人はほとんど映らない。映ったとしても、せいぜい、ベース付近でアウト・セーフの判定をした一瞬だけだ。
 
ところが、である。
実は、球場に行って試合を観ていると、その審判員はただ単にベースの近くに立っているのではなく、バッターの打球にあわせて、みながそれぞれ動いているではないか! 
まさに、その動きを決めているのが、「クロックワイズ」という「型」なのだ。
 
実は、審判員たちは、ベース上でのプレーに対するアウト・セーフの判定以外に、バッターの放った打球が野手に直接捕球されたかどうか、あるいは、フェンス際でホームランになったかどうか等、ベースからはるか離れたところのプレーまで判定している。
だから、4人のうち1人が打球を追いかけて、それまで近くに立っていたベースから離れると、残り3人で4つのベースを見守らなければならなくなるので、お互いカバーする必要が出てくるのだ。
 
そして、打球の方向によって、追いかける審判員、カバーし合う審判員が変わるので、瞬時の判断が必要になる。これを試合の中で実践するには相当な練習を重ねていることだろう。その状況判断と一糸乱れぬ連携プレーには思わず脱帽だ。
 
しかし残念なことに、これらのダイナミックな動きは決してテレビ画面には映ることはない。そして、この「縁の下の力持ち」の存在は恐らく誰からも意識されることはないだろう。むしろ、意識されないということは、試合が滞りなく進行している良い証拠なのだ。
 
だからこそ、私は、決して気づかれることはない、しかし、無くてはならない彼らの数々のプレーに心から声援を送りたいのだ。
 
「ナイスプレー!」
「ナイスラン!」
 
今では、審判員の華麗な「クロックワイズ」を見つけることが、球場での野球観戦の楽しみの一つとなった。
 
これは、まるで、天狼院ライティング・ゼミのABCユニットのようなものかも知れない。ゼミでABCユニットという「型」を学んだ。今まで全く知らなかったし、意識もしたことのない考え方だった。しかしその「型」を学んでからというもの、自分が文章を書く時はもちろん、文章を読む時にもABCユニットの存在が気になって気になって仕方なくなり、その「型」を文章の中で見つけるのが楽しみになっているのだ。
 
学ぶことによって、今まで気づかなかったことに気づくようになり、そして気づくようになると、それが楽しみになっていく。そんな野球の、いや、人生の楽しみ方を気づかせてくれたのが、球場で見つけた審判員による「もう一つのファインプレー」だった。
 
プロ野球はペナントレース後半。高校野球は夏の甲子園の地区予選真っ盛り。プロ・アマともに熱い夏を迎えている。今度はどの試合を観に球場に行こうかな? 
そして、天狼院ライティング・ゼミもいよいよ後半戦。これからどんな文章を書いていこうかな? 
私は今、「もう一つのファインプレー」に出会えることを日々楽しみにしている。

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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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