メディアグランプリ

「向いてない」の向こう側


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:原三由紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私はいつも仕事をしながら心のなかで一人つぶやく。
 
「あーだからもう、向いてないんだってば……」
 
私は秘書の仕事をしている。
みなさんは“秘書”という職業にどんなイメージを持っているだろうか?
 
気配り、気遣い、一歩さがって人をサポートする、落ち着いている、寛容、我慢強い、世話好きなお姉さん気質の人に向いている仕事。華やかさや、ちょっとセクシーなイメージなんかもあったりする人もいるかもしれない。
 
私は5年前に今の秘書の仕事を始めた。以前はとある司法書士という資格でお堅い仕事をしていたので、それまでとは180度違う仕事への転換。
憧れの人だった今のボスから声をかけてもらって、「この人と一緒に働くことを選ばなければ一生後悔する!」と思い、適性も経験も無視で、えいやっと秘書になりました。
 
ブランディングのコンサル会社の秘書をしているので、スケジュール管理、クライアント対応、出張同行、事務処理、あとはデザイナーさんへのディレクションや簡単なデザインなんかも自分でやる。ボス自身が会社を複数持っているので、その管理なんかも私の仕事のひとつ。
ある意味、秘書は“何でも屋さん”みたいなところもあるので、仕事の量も種類も無限大。とてもとても奥が深い仕事です。
 
ひっくるめると、こまやかな配慮が求められるこの仕事。
とはいえ、自覚あります。
私は気遣いとかいうキャラじゃない、と。
 
もともと2人姉妹の妹で、完全なる末っ子気質。おまけに親戚一同いとこふくめて一番下なので、小さな頃からみんなに猫かわいがりされて、蝶よ花よと育てられてきました。人に世話を焼いてもらってなんぼのわがままで甘えん坊。いつも「みゆきはしょうがないなー」とみんなに手を貸してもらって「てへっ」と舌をだす、そんなタイプ。
 
だから、一般的に思い描くような秘書像とはかけはなれた性格です。こまやかな気配り、エレガントな立ち居振る舞い、落ち着いた佇まい……こんな秘書的要素の必要な場では本当にいたたまれない気持ちになる。
とりあえずごめんなさい(笑)。
 
「やっぱり向いてないなぁ」
残念ながら、そう思い反省することは多い。
 
この妹気質の私が、向いていない秘書の仕事をしてるのだもの。
と言ってはみたものの、ふと思い返すと、私なんの仕事をしていたときも「向いてないなぁ」と思いながら仕事をしていたことに気がつく。
 
前職で司法書士の仕事をしていたとき、その頃も、私はきっちりした性格じゃないから、こういう風に極度に正確性の求められる仕事とか向いてないなぁと、常々思っていた。
 
じゃあ、向いてないから適当に仕事してるのかっていったら、決してそんなことはない。向いてないから仕事でまったく役に立たないかといえば、自分でいうのもなんですが、そんなこともない。前職のときも今の仕事でも、「向いてない」と思いながら仕事には全力投球、成果も人並み以上にあげてきた。
 
私が「向いていない」と思いながら、仕事に全力投球できる理由。
それは「向いていない」と思っているからこそ、人より頑張らなくてはいけない、と思えるからだ。自分の至らないところが目についてしょうがないから、少しでも改善できるところがないだろうかと、いつも自分の仕事の仕方、向き合い方、心の持ちようなんかを見直して、やり方を考えるトライを繰り返す。
なにかうまくいっても、それに奢ることはない。
 
だから仕事に飽きることもないし、慣れることもない。
秘書になって5年。
今も新鮮な気持ちで仕事と向き合っている。
 
最近よく聞く「好きや得意を仕事に!」という言葉。
すばらしいとは思うものの、今までの人生で、私は好きや得意を仕事にしようとは思ったことは一度たりともない。
代わりにどんな仕事についていた時もしているのは、自分がしている仕事を「好き」になろうとする努力。
 
向いてなくても、いや向いていないからこそ、その仕事をどうやったら好きになれるだろうかと、自分の考え方を変えたり、向き合い方を変えたり、見方を変えたりを繰り返す日々。
 
例えば、秘書の仕事をし始めたときには、秘書の心構え的な本を数冊読んで勉強した。そのなかには、秘書の仕事について、こんな説明があった。
 
「ありがとう」を求めて仕事をする人にはこの仕事は向かない。
秘書の仕事はうまくいっているときにはみんな当たり前と思って、なにも言われない。うまくいかなかったときには全方向から責められる仕事。
人からの「ありがとう」が自分に向けられなくても、仕事の成功を自分のよろこびと感じられるような人に向いている仕事。
 
そ、そんな!
仕事って「ありがとう」を糧にするものなんじゃないの?
最初は、超ド級のカルチャーショック。
でも秘書の仕事で私が喜びを感じるためにはそういう考え方の大きな転換も大事なのかもしれない。私はそう一大決心をして、この仕事に真剣に向き合うことにした。
 
それまでは、当たり前のように自分がしたことに人からの感謝を求めていたので、それもある意味「向いてない」へのチャレンジ。自分の仕事への向き合い方を180度変えるチャレンジだったのだと思う。
 
今は、私は秘書の仕事を心から愛している。
 
人から感謝されるか否かは関係なく、「この仕事の成功の一部になれた」と思うだけで今の私にとって、仕事は十分楽しく、おもしろいものになった。そして、「ありがとう」という見返りを求めずに仕事のよろこびを感じられる自分のことは、前よりもっと好きになった。
 
私にとって仕事は、好きだからなるものでなく、“好きになる”もの。
仕事は誰かが楽しくしてくれるものではなく、自らが楽しくしていくもの。どんな仕事をしても、その仕事を好きになる努力が必要で、その努力ができる人から仕事は楽しくなっていくのだと思っている。
 
「向いていない」からこそ、新しい自分に出会える。
「向いていない」からこそ、自分ののびしろを信じることができる。
「向いていない」からこそ、仕事を今よりもっと好きになることができる。
 
「向いていない」
この言葉にネガティブな響きを感じる人もいるかもしれない。
でも私にとってはそこにこそ、仕事を楽しむ秘訣がある気がしてならない。
 
「向いていない」の向こう側。景色は結構美しい。
 
未来の私が、秘書を続けていても、違う仕事についていたとしても。
仕事は自ら“好きになる”もの。
この気持ちですべてに向き合う心さえ失わなれば、今よりきっともっと仕事を愛しているだろう。

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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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