それでもデブで生きていく
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記事:梅田篤徳(ライティング・ゼミ特講)
「まあ、取りあえず腹を引っ込めましょうか」
友達に誘われて行った卓球のレクリエーションで初対面にあった人にそう言われた。
初対面の人に対する挨拶って、「こんにちは」とか、「宜しくお願いします」とかじゃなかったっけ? と思いつつ、「そうですね……」と言葉を濁す。
そりゃ、体重百キロの太鼓腹をみたら、だいたいの人がこんな事を言うだろう。
デブで生きてきてはや三十四年。
僕は小さな頃から太かったので、その手の言葉はよく頂いた。
小学校一年生の頃のあだ名は『ダルマ』だったし、『ブタ』はよく言われていたし、会う大人みんなに一度は相撲部屋の入門を勧められてもいる。
大人になってからもドラゴンボールの『魔人ブウ』と言われている。
世の中にはおかしな人もいて『デブ』という言葉を連発した後に、「デブって言葉は蔑みの言葉じゃないんだよ、愛しいから言うのよ」なんてのたまう方もいた。
太っていると、優しい言葉をもらえることもある。
「大きくなったらきっとスマートになるよ」とか、「頼り甲斐がある」とか。
残念ながら、いつまで経ってもお腹が大きいままで一向にスマートにはならない。
いつ久しく縦への成長は止まってしまったが、横への成長は未だ続いていて、第三次成長期はいつまで経っても終わりそうにない。
ダイエット?
よく言われるよ! ダイエット!
もちろん挑戦したことは数知れず。
だが、体重減の後にやってくるリバウンドというビッグウェーブに、僕の心は折れてしまったのさ。
とはいえ、デブをやっていると悪いことばかりではない。
まず一つ目に、キャラクターが出来ている。
お腹が大きいという他で見られない特徴があるので、一度会った人に忘れられた事はほとんどない。
次に、食事の節制に気を付ける事はほとんどないし、気の利いた飲食店の店員だと、「大盛にしますか?」とこちらから言わずとも聞いてくれる。
まあ、その分エンゲル係数が非常に高いので、そちらの方面から考えるともっとどうにかしないといけないのだが。
さらに、脂肪というのは体温を保温してくれるので、暑さ寒さに比較的強い特徴がある。
よく寒さには強そうなイメージがあるが、夏場は汗っかきで辛そうだと思っている人がいる。
実は脂肪には発熱効果がないので、寒いものは寒いのだ。大体十度くらいまでなら半袖でいられるが、それより寒いと一瞬にして耐えられなくなってしまう。
逆に炎天下でも脂肪は内臓に入ってくる熱を遮断してくれるので、意外と夏バテになりにくい。
まあ、汗は滝のように流れるので、水分補給をしなくては常人と同じように熱中症になってしまうのだが。
ただ、なかなかうまくいかない物もある。
その最もたる物が恋愛だ。
どうしても、デブは恋愛の対象にされる方が少ないらしく、更にデブは努力で痩せることが出来ると思われているので、どうしても仲良くしてくれる異性は少ない。
更に世の中に、『人は見た目が九割』なんて本も出ているせいで痩せないと生きていけないオーラが社会全体に漂っている気がする。きっと自意識過剰なだけなんだろうけど。
そもそも『人は見た目が九割』という本も、内容としては人間のコミュニケーションの手段として、言葉で伝わるのは全体の一割程度しかない事を伝える本だったはずだ。
とにかく、婚活もうまくいかないデブな僕を見て、うちの会社の社ちょーは、「女とアイスを比べてアイスをとったんだからしょうがないだろう」と諭したり、「女と付き合うのが無理なら男と付き合うという手もあるぞ」と元気づけたりしてくれる。
とってもありがた迷惑だ。
本気で心配してくれている分、たちが悪い。
そこまで心配してくれるなら、誰か紹介してくれないのかと思うけれど、なかなかあてはないらしい。
デブをやっていると、誰にでも声をかけられて、誰にでも罵られる。
時折、悪意をもって接して罵ってくる人もいるが、大体はその人の善意からだ。
その善意を受け取って嬉しく感じるのか、辛く感じるのかは人それぞれである。
世の中にデブをやっている人は多々いるが、体型は同じでも感じ方は人それぞれ違う。
そして、僕は出来れば頂ける全ての言葉を「面白い」に変えて行きたいと思っている。
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