メディアグランプリ

世界にひとつのバッグがくれたメッセージ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井裕香(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
もう35度を超えようとしている炎天下の正午過ぎ。
私は久しぶりに浅草橋駅に降り立った。
 
「福井さん、バッグの展示会に来ない? 紹介したい人がいるんだけど」
 
知人から、ある日ご招待のメールが入った。生地の買い付けからデザイン・製作まで全てを一人でやっているというバッグデザイナーさんの展示会だった。
鮮やかな色と様々な素材の生地とを組み合わせたバッグは、ドロップスを散りばめたみたいに彩り豊かで可愛くて個性的。そして、どれもデザイナー渾身の一点もの。Facebookで見るたびに「いいね」を押しながら、私には手が届かないし、そもそも似合いっこないだろうな、そう思っていた。
 
そんな後ろ向きな気持ちだったにも関わらず行こうと思ったのは、知人の紹介だったのもあるが、なじみ深い「浅草橋」という地での開催だったからだ。
 
今から10年前、それまで四半世紀を過ごし、この先もずっと離れることはないだろうと思っていた福岡の地を離れて、私は東京・墨田区に移り住んだ。
 
「変わらない、が安心安全で居心地がいい」
 
実に保守的だった私の人生に、26歳で「転勤」という転機が訪れた。
「東京は常に満員電車で、住むところじゃない」と、勝手にそう思い込んでいたし、地方のように無警戒では歩けない、外国のように思っていた。
 
けれど、実際住んでみると、通勤に使うことになった都営地下鉄浅草線の混み具合は、福岡の地下鉄と大して変わらなかったし、下町の佇まいや人情は居心地が良くて、近所には常連客とバカ笑いするような行きつけの居酒屋ができるほどに馴染んだ。
 
あの時、「変わらない」を選び、福岡に残っているという選択肢もあった。それでも、「何が何でも行かなければならない。今の自分じゃない自分を見てみたい」という直感があって、自分で選んでこの地に来たことで、私の未来はあっさりと変わり、そして今も東京にいる。
 
展示会のお知らせで「浅草橋」の地名を見た時、あの時と同じように
 
「何が何でも行かなければならない」
 
そう感じている今の自分がいた。
 
隅田川すぐそばの、ひっそりとした路地にあるギャラリーだった。
スタッフである知人と、デザイナーさんが出迎えてくれ、一つ一つ、バッグを手に取りながら説明してくれた。
インターネットで見たままの、鮮やかな彩りのバッグだった。それだけで自立できる、しっかりとした作り。内側のファスナーや裏地、細かなところまで繊細に丁寧に作り込んであってどこも手が抜かれていない。そして、コンシェルジュを務めるスタッフが、ひとつひとつのバッグにタイトルを付けている。まさに職人の技、そして製作に関わる人々の心がこもった一つの「作品」として仕上がっていた。
 
一つのショルダーバッグが目に止まった。
 
「鏡の前で着けて見てくださいね」
 
そう言われて、少しためらった。
キャンバス地に歯車の画、レザーには光沢のあるブルーとスカイブルー。普段の私なら選ばない色だった。
 
どうせ私には似合わない。
そう思いながら、勧められるがままに身につけて鏡の前に立った。
 
身につけたこともないのに、私はどんな想像をしていたというのだろう?
 
鏡の中の私は、正直、似合っていた。
バッグは、初めから持ち主のものであったかのように、しっくりと身体に寄り添って収まっている。
 
試着なんて面倒だし、いつもと同じサイズでいいや。
いつものお店で前に買ったのと同じような服なら間違いない。
どうせあんなお店に行っても場違いだし、自分には似合わなさそう。
 
どれだけこんな思いで、トライもせずに自分を納得させてきただろう?
 
「難しそうだから、やってみたって失敗するよね」
「いくら想像したって叶いやしないんだから、ガッカリするくらいなら想像するなんて無駄」
「失敗したら、私が恥ずかしい思いをするだけなんだから」
 
試着だけの話ではない。
私の行動の全てにおいて、口には出さなくても、思いの根っこにはいつも「どうせ」が深く深く根付いていた。
 
でも今日、「何が何でも行かなければならない」と、「今の自分じゃない自分を見てみたい」と思ってここへ来た。そんな私は、いつもは着ない、ブルーを基調にした服装を選んでいた。この服もまた、「いま似合う服」じゃなくて「これから着たい服」という気持ちで、試着して選んだ洋服だった。そんな私を、このバッグが選んでくれた。
 
私は今、新しい仕事を始めようとしている。それは、正直なところ努力のいるもので、「今からそれをやって大丈夫なの?」と何度も自問自答してきた。
 
でも、私が着てきた 洋服が、選んだバッグが、全ての答えだ。
 
困難にぶち当たり、ぺちゃんこになって、「やらなければよかった」って涙ながらに思うことはこれからいくらだってあるだろう。でも、それで落ち込んだり、もうやめておこう、なんて思う必要なんてないのだ。試着してみて「あーぁ、似合わなかった! サイズが違ってた!」そうサクッと言って、また次に向かえばいいだけの話なのだ。それは失敗なんかじゃない。
 
いくつになっても、自分が変化したい、と望むなら変化することができる。変化することへの恐怖は年々大きくなってきているのも事実だけれど、「自分が自分らしく、好きなようにありたい」という気持ちもまた、強くなっている。その気持ちが真実なら、私は自分を信じてありたい道を選べばいい。
 
選んだバッグのタグをくるりと裏返して、ハッとした。
タイトルは「人生は自分次第」。それが全ての答えだ。
 
 
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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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