弱冷房車に飛び乗って
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田口靖幸(ライティング・ゼミ日曜コース)
「うわー、弱冷房車かーい!」
酷暑の中の駆け込み乗車。
ホームまでの階段を、汗だくになりながら登りきった先に待っているのは、キンキンに冷房の効いた車両。そこに飛び込んでしまえば、「ほっ」と一息つくことができる。
真夏の太陽照りつけるなか、電車の中はまさに砂漠のオアシス。そんなスッキリ感を期待して電車に飛び乗るのだが、僕の場合そう上手くはいかない。
飛び込んだ先が「弱冷房車」で、思わず冒頭のようなツッコミをいれることが、よくある。
もともと運が悪いほうだが、特に、子どもの頃は「運の悪さ」という点で、抜きん出ていた。
特に、小学校1年生から2年生の頃は凄まじかった。
僕は、この期間、4回、交通事故に遭っている。
わずか1年間で、4回、である。ギネスに申請していいレベルである。
「そんなバカな、作り話でしょ」と、思うだろう。
信じられないのも無理もない。
1年間で4回だから3ヶ月に1ぺんのペースだ。
もうほとんどマンガの世界でしか起こり得ない確率だ。
でも嘘じゃない。
実際、どんな事故だったのかリストアップしてみた。
1.信号が青になった交差点を渡ろうとしたら、右折してきたダンプに自転車ごと当てられる。
2.自転車で見通しの悪い十字路にノーブレーキで突っ込んで、出会い頭で車と衝突。
3.下校中、僕を追い抜いたトラックから落下してきたアルミサッシで左目のまぶたを切られ、5針縫う。
4.登校時、渋滞中の道路を横切っていたら、車の脇をすり抜けしてきた高校生のバイクに引っ掛けられ、転倒。(先導して渡った姉は無傷)
我ながら書いていて感心するほど、ムチャクチャに運の悪い子どもだったのである。
1年間で4回というペースはさすがに神がかっている。
パチンコじゃないが、もう大当たりフィーバー、スタートである。もちろん、悪い意味で。
事故に遭うたびに、親父からは「コイツは運が悪い」とよく言われた。
しかし、宗教や神仏など真っ向から全否定していた親父も、さすがに、「これはおかしい」
と思ったのだろう。
4回目の事故のあと、千葉の成田山へ連れて行かれ、お祓いを受けた。そしたら、この大当たりフィーバーはパッタリ止まった。
さすが、関東屈指のパワースポット、成田山。
こうして振り返ってみると、これだけ事故にあってよく今、五体満足で生きているものだと思う。
「落下してきたアルミサッシでまぶたを切った」なんて、もう数ミリずれていたら失明していたろう。それくらい「九死に一生」なレベルだ。
そう考えれば、これだけ運が悪く、ひどい目にあってもギリギリのところで回避してきた、と言うこともできる。
だとすると、本当に僕は「運が悪い」のだろうか。
これってもしかしたら本当は、「強力に守られている」ってことなんじゃないか。
「不運」とは別の話だけれど、僕は、「不健康」だ。
吃音障害や、斜視、低血圧、不眠症、うつ、切れ痔、インキンタムシ、などなど、数え上げたらきりがないくらいの病気を抱えている。どれもが生活に支障をきたす程度だ。
でも、そんな厄介な病気をたくさん抱えているわりに、年1回の健康診断では、
「その年齢のわりにメタボもなく、肉体的にはスポーツカーなみのスペックです」
などと言われている。
僕くらいの年齢になれば、誰しも肝臓や血圧の疾患が見つかったりするものだが、そうした大きな成人病の兆候もない。
49歳のおっさんだが、身長173センチで体重が59キロという体重は確かに健康体と言っていいだろう。
確かに僕は不健康かもしれないが、多岐にわたる「しょーもない病気」を、普段からちょっとずつ「小出しに」にしているだけなのかも。これまで大きな病気はしたことがないのは、もしかしたら病気を「小出しに」しているおかげなのかもしれない。
そして、人の一生ぶんの不健康は、500mlのペットボトルみたいに規定量が決まっていて、そこから僕のように病気を普段から「小出し」に放出していく人もいれば、人生のある時期にまとめて「ドバッ」と一気に出す人もいるなどと、考えてみる。
「不運」も同じかもしれない。
僕は子どもの頃に「ドバッ」と出した。人生の前半であれだけ放出しておいた。
その後は、残りの不運を少量ずつ「小出しに」出してきたのだとしたら……。
そう。僕が「弱冷房車」によく当たるのは、そうやって、不運を日頃から「小出し」にしているだけなのかもしれない。
それならそのほうがいい。
一生ぶんの不運の残量は、もうわずかということになる。
残った不運を、「弱冷房車」ごときで少しずつ放出しているのなら、「弱冷房車」もまた良し、である。
そんなふうに思えば、僕の人生は思っていたほど、ひどいものじゃなかったのかもしれない。
また酷暑が戻ってくるという。
もし明日も、飛び込んだ車両が「弱冷房車」だったとしても、もう不運を嘆く必要なんて無いのかもしれない。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/54525
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。