日本とアフリカどっちが幸せ
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記事:丸山 泰宏(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「マルヤマ、これあげる」
同じ部屋で仕事をしていたアフリカ人のFが差し出したのは、乳白色をした少しドロッとした飲み物だった。
私は「ありがとう」と言い、それを一口だけ飲んだ。
正直に言ってあまり美味しくはなかった。
Fは「栄養が豊富だから飲んでおくといいよ」と満足そうに言って自分の机へと戻っていった。
私は、昨年8月から半年間、仕事で東アフリカに行く機会があり、その間に様々なアフリカ人と接する機会があった。
多くの人と接する中で、何度も感動する体験があった。
おそらく日本では、感じることのできなかった感情だろう。
私が行った国は、ジブチ共和国という東アフリカの国である。
世界一暑い国といわれることから、夏場は、50℃を超える日も少なくはなく、汗をかいても一瞬で乾くような環境である。
私がジブチへ行ったのは8月ということもあり、ジブチの空港に降りた時、今まで感じたことのないような熱風を受け、「こんなところで半年も暮らすのか」と絶望的な気持ちになったのを覚えている。
そんな私の気持ちに追い打ちをかけるように、突然部屋の電気が消えた。
「何かあったのか」と私は少し焦った。
周りを見ると、皆、特に焦った様子もなかった。
その様子を見て落ち着きを取り戻した私は「電気消えたけど何かあったのか」と同僚に尋ねた。
私より先に現地についていた同僚は当たり前のような顔で「この国では、電力の供給が不安定で定期的に停電するよ」と答えた。
さらには、「水の供給も不安定でシャワーすら浴びることのできない日もあるから、水がでるうちに浴びておけよ」とアドバイスまでしてくれた。
「日本は本当に恵まれているな」と私は思った。
普通に生活をしていれば、シャワーはいつでも浴びることができるし、お金さえ払えば、コンビニやレストランなどでいつでも美味い飯を食べることができるのだから。
また、その他にもストレスに感じられたのは、時間に対する考え方の違いである。
ジブチでは、物事はかなりスローペースで進められた。
電化製品の修理を依頼しても、1日や2日で直るようなことはなく、場合によっては予約をした日に修理に来ないことすらあった。
日本では考えられないような対応である。
しかし、東アフリカのこの地においては、それが普通なのである。
そのような生活でも、1ヶ月程経つと、当初不便に感じていたことはあまり気にならなくなっていた。
そして、次第にアフリカの魅力に気づいていくことになった。
特に感じたのは人と人の距離感が非常に近いことである。
ジブチ人は非常にフレンドリーなのである。
顔を合わせれば挨拶は必ずするし、挨拶だけにとどまらず、いつの間にかみんなで集まっておしゃべりをし始める。
また、困っている人があれば、遠慮なく助け合うような姿はよく見ることができた。
日本であれば、他人同士がそれほど助け合わなくても、生活をする上であまり困ることはない。
場合によっては一言も会話をしなくても、パソコンなどを使用し、生きていくことも可能である。
また街を歩いていれば、手を挙げてヒッチハイクを求める人に対して当たり前のように車やバイクに乗せるし、私も何度も食べ物をもらったことがある。
決して豊かな国とはいえないけれど、人々の心はとても豊かなように感じた。
彼らは、地位や名誉やお金とかよりも、身の回りの人のことを本当に大切にしているような気がした。
ふと、「私はどうだろうか」と思った。
「他人に対して、時間を使い、しっかり向き合っているだろうか」
「仕事で忙しいからといって、自分にとって大切な人に対してさえ、時間を使えていないのではないか」といった思いが湧いてきた。
そして、ジブチの時間がスローペースな理由にも自分なりの気づきを得ることができた。
「おそらく彼らは、今目の前にいる人のことを真剣に考えて接しているのだ」と私は思った。
経済的には発展途上国ではあるけれど、精神的には先進国よりもずっと豊かなのかもしれないなと思った。
それでも、私が日本人としての誇りを持ち続けることができたのは、ジブチの人達が言ってくれた「日本No1日本最高」という言葉である。
ジブチの人達は日本人に対して本当に好感をもってくれていて、そのことは、私を日本人で本当に良かったと思わせた。
それから半年が経ち、私は帰国することになった。
その時は、最初来た時の嫌な気持ちなどは全くなくなっていた。
むしろ、アフリカを離れることが少し寂しくなっていた。
結局、日本とアフリカどっちが幸せかなんてことは、決めることはできなかったけれど、私の中ではどちらも「No1」の国であることには違いない。
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