納豆的人生を謳歌すること
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:末原 静二郎(ライティング・ゼミ平日コース)
今年で26歳になったが、自分の人生を振りかえると、つくづく寄り道の多いぬるい人生だな、と思う。
そんな自分の人生、まるで納豆のようだ、と最近思う。
日本人の食生活には欠かせない、大豆。
日本の食卓にはありとあらゆる大豆から生まれたものが使われている。
醤油や豆腐、みそ汁に納豆。こんなにも大豆をいろいろ工夫して食べる国はほかにないはず。
いろんな大豆製品も逆に言えば、みなあのころころっとした一粒の大豆だったとおもうと、
不思議な感じ。
人でいうと、小学生の時が粒の大豆の状態なんだろうな、と思う。
学校にはいろんな個性のある大豆たちがいて、わいわいやってる。
きっと先生から作文の課題が出て、「来週までに書いてきて、発表しなさい」なんてことがある。
ころころまるっとした大豆たちは学校からの帰り道、わいわいしゃべりながら自分たちの将来について語るんだ。
「おれは醤油になりたい!」
「僕も醤油がいいな!」
「いやー、おれはやっぱ湯葉かな」
「お前に湯葉は無理だよ! せいぜい豆腐どまりだ!」
「ううるせーな、いいだろ夢なんだから」
でもやっぱり、そのなかで人気なのは豆腐とか醤油だろうな。大企業って感じだ。
湯葉はその中でもエリートで、豆乳はなんとなく女子受けしそうだ。そもそも女子なんてないだろうが。
それでも大豆の就職人気ランキングに納豆は入らないはず。
見た目もダサいし、そもそもあんなねばねばしてたら、根強いファンはいても、女子受けはよくなさそうだ。
そうやって大豆の一生を想像していると、だんだん納豆に親近感がわいてくる。
「お前地味だけど、めっちゃうまいよな。世界に羽ばたく感じじゃないけど、
その安定したパフォーマンスはどの時代も魅了してきたよな」
私はずっと、劣等感を抱いていた。
最初からっていうわけではない。それこそころころと丸っこい大豆時代は大志を抱くごく普通の大豆だった。
でも、精魂尽くした中学受験を経験し、滑り込みで合格したものの、上には上がいるということをずいぶんと早い段階で気づかされてしまった。
もし自分が中学受験なんてせずに公立の中学に通い、公立の高校に通っていたら、私はずっとぶいぶい調子よくやっていたかもしれない。
学年でトップ10に入る成績で、周りから一目置かれる存在となり、クラスの中心としてリーダーになり、イベントでは先頭に立って指導し、女子からモてたかもしれない。
なんと口惜しいことか。それなら、大学もそこそこのところにストレートでいき、ひねくれることなくまっすぐな目で「私は御社で活躍できる木綿な一面があります」とつまらないことを言いつつ豆腐としてまっとうな人生を歩んでいたかもしれない。
それなのに。私はうっかり中学受験をしてしまったせいで。
男ばかりの6年間を過ごし、高校受験もなくだらけ切った環境でだらだら過ごしてしまい、周りより要領が悪いのに人一倍あぐらをかき、夜中に放映されるアニメなどにはまり、フィギア片手に腐れ縁の大豆仲間と猥談を繰り広げ、受験期になっても「空きれいだな」しか考えなくなり、浪人し、またまた浪人するなんてことにはならなかっただろう。
わたしはぬくぬくとした発酵にはもってこいの環境で、しっかりねばねばさせていたのだ。
いつのまにか、豆腐や醤油のような人生を歩めない体になってしまっていた。
ああ、神よ。なんという運命のいたずらか。
それでもこのねばっとした納豆な体は大学に合格してから醤油や豆腐たちと過ごすようになり、少しとることができた。発酵を止めることができたのだ。
しかしである。
私の体に埋め込まれた納豆菌の力はそれほどやわなものではなかった。
内なるネバネバした力を感じたのは就活の時である。
私は自己分析を怠ったせいで、自分は豆腐や醤油になれると思い込んでいた。
日本の経済をまわし、胃袋を満たし、あらゆるところに介在する。
まるで私が日本を動かしているような、そんな仕事に就けると思っていた。
まっすぐな目で、「私は純白さと柔軟さをあわせ持つ点で、豆腐になる準備ができています」
と、面接でいう練習をした。
しかし、面接官を前にするとどうしても納豆菌が出てきてしまう。
まっすぐな目や、純白な部分はなかった。
ネバネバして、茶色い体は、どうしても面接官をあざむくことはできなかった。
結局、就活でも一年かかり、余計発酵が進んでしまった。
しかし、自分の中でしっかりと自己分析すると、納豆は納豆らしく生きることにすべきだ、と考えられるようになった。
いまは小さな広告会社で楽しみながら仕事をしている。
納豆は豆腐にはなれない。でも、納豆は一部の人にはめちゃくちゃうまいものなのだ。
今の時代、少しでも道を踏み外すと
「あ、あいつおわったなw」
とか
「おちたなw」とか言われてしまう。
でも、そんな周りの評価はどうでもいいのだ。
人それぞれおいしい食べ方がある。それを突き詰めて、極上の一品になればいい。
キムチと納豆とサバカンを混ぜたら、めっちゃ臭いけど、めっちゃうまい。
そういう新たな一面、発見するのが人生の楽しみだ。
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