天狼院のアイスティーの味を思い出した日
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:原雄貴(ライティング・ゼミ平日コース)
「もう絶望だ」
そう思ったときこそ、天は希望をくれる。
今回はまさにそんな心境だった。
「アイスティーにソフトクリームをのせてください」
休日のプロフェッショナルリーディングゼミの開始5分前。猛暑の真っ只中だったこの日に、僕はアイスティーの上にソフトクリームをのせることにした。朝から無性に甘くて冷たいものが食べたかったからだ。注文して会計を済ませると、すぐにゼミが行われる和室の席についた。
この時間帯で店頭受講しているのは京都では大抵僕だけだ。今日も静かな部屋で中庭を横目に見ながら、僕はゼミ受講を開始した。
ゼミが始まって間もなく、頼んでいた「アイスティーにソフトクリームをのせたもの」が運ばれてきた。
「今日のメニューの主役は間違いなくソフトクリームだ」
そう確信していた。だって、今朝家を出る前からずっと食べたかったものなんだから。
正直、アイスティーは良くて二の次だった。
だが、楽しみにしていたソフトクリームにはなかなか手がつけられなかった。
なにしろ、今はゼミの真っ最中。メモをとり、大事なことを聞き逃さないようにそれなりに集中している。なかなか隣のグラスに手を伸ばすチャンスがない。
すると、三浦さんが余談を始めた。
「今だ!」
早々と隣のグラスに手を伸ばして、スプーンでソフトクリームの一角をすくった。
そして、スプーンを口に入れた瞬間、周りの音が一瞬聞こえなくなった。
「うまい!」
まるで、しぼりたてミルクをそのまま口にしたような香りと滑らかさが口中に広がる。何とも言えない快感の味に思わず身震いするほどだった。
天狼院のソフトクリームは前も食べたことがあった。しかし、あの日はあまり甘いものを欲していなかったせいか、はたまた他の要因があってなのか、ここまでの感動はなかった。
「もう一口食べたい!」
そう思って、スプーンを手に取った瞬間、三浦さんは本題に戻ってしまった。
「もう一口だけ食べたい」
そんな感情が頭の片隅にある。ゼミに集中はしているけれど、この感情だけは消し去れなかった。
しかし、二口目を口にするチャンスはなかなかめぐってこない。
その間にも、ソフトクリームはどんどん溶けていく。頭の片隅にある感情もやがてイライラとなってくる。
ついに、三浦さんがまた余談に入った。
僕は隣のグラスを見た。そして、絶望に等しい感情が心の底から生まれてきた。ソフトクリームは跡形もなくアイスティーの上で溶けてしまっていたのだ。後には、ドーム状に広がった白い液体だけが、アイスティーの上に広がっていた。
ソフトクリームが溶けたことに、なぜ僕はここまで絶望したのか。
それは「あのソフトクリームはソフトクリーム単体で食べなければおいしくないんだ!」という思い込みがあったからだ。あの濃厚な味わいは、溶けてしまったらアイスティーと氷に混ざってすべて消えてしまう。絶対にソフトクリームが溶ける前に全て食べきりたかった。
一方で、自分の考えも甘かった。
そもそもソフトクリームは、普通に容器に盛ってもらえば溶けても大丈夫だったはず。溶けても飲めばあの味を楽しめるんだから。面倒だからといって、アイスティーの上にのせたのが失敗だった。しかも、こんなにおいしいものだったら、もっとゆっくり味わえるときに注文すれば良かった。何ということをしてしまったんだろう!
しばらく絶望していると、個人ワークの時間になった。
捨てるのももったいないという思いから、おそるおそる隣のグラスに手を伸ばし、ストローなしで無残な姿と化した液体に口をつけてみた。せめて、まだあの濃厚な香りの片鱗だけでも味わえないかと期待しながら。
「……!」
「え、何これ? ……おいしい!」
それは、天が希望をくれた瞬間だった。なんと、今日は何の期待もしていなかったアイスティーが、溶けたソフトクリームと見事に織り交ざって絶妙な甘さを引き出していた。まるで、愛しい人のとびっきりの笑顔を見ているかのような幸せな気分になった。
よくよく考えてみたら、天狼院はアイスティーもおいしかった。
でも、いつも飲んでいるわけではない上に、ソフトクリームほど味が印象に残っていたものではなかったから、味を忘れてしまっていた。さらに、今日はソフトクリームが主役と思い込んでいたから、アイスティーの味なんてみようともしなかった。
人は、何か良さそうなものがあるとそれに固執して他の大切なことを忘れてしまうことがある。僕はどうやら大切なことを忘れていたらしかった。
「今までごめんね、アイスティー」
そう心の中でつぶやいて、もう一口飲んだ。また、幸せの甘い香りが口中に広がった。
偶然できた「ミルクアイスティー」のおかげで、その日のゼミはテンション高めで終えることができた。
ゼミが終わってから、僕はそばにいた山中さんに声をかけた。
「山中さん、これ、すごくおいしいですよ!」
すると、山中さんは一言。
「そうですか~。そうしたら、それをライティングゼミの課題のネタに使ったらどうですか」
もちろんです。だって、このおいしさと感動は他の人にも味わってもらいたいから。
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