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子どもたちだけの世界に親が干渉しないのは難しいけれど


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福井裕香(ライティング・ゼミ朝コース)
 
 
「今年も3泊4日で、お世話になっていい? 夏休み、福岡の実家に帰省する前の経由で」
 
岐阜に住んでいる友人に連絡を取ったのは6月のことだった。
昨年は夫が海外出張で1週間不在の時期があったのだが、その時に3泊させてもらったおかげで「ワンオペ育児」を乗り切れた。
 
「私は何も『おもてなし』しないから、遠慮なく来て来て!」
 
と言い切って、私たちをお客様扱いしない彼女のさっぱり加減がありがたく、とても居心地が良くて、昨年に続いてまた長期泊を、今年は図々しくも私の方から願い出た。
 
私たちにはそれぞれ同じ歳の息子がいる。
昨年はまだそれぞれ個々の遊びに興じる時間が多く、大人がお見合いカップルの仲人のように二人のあいだに入って仲を取り持つ、という程度の関わり合いだった。
あれから1年経って、それぞれが保育園や幼稚園で同じ歳頃の子ども達に揉まれ、どんな風に成長しているんだろう。
 
「おかえり!」
 
保育園から帰って来たYくんを、先に岐阜のお宅に着いていた私と息子がドキドキしながら迎えた。
「Tくんのお泊り、楽しみにしてたよ」とは聞いていたけど、1年ぶりの再会でもう顔は忘れられているんじゃないか、自分の家に他人がいたら嫌な気持ちになるんじゃないか。そんな不安からのドキドキだったが、息子の顔を見るなり
 
「Tくーん!」
 
と走り寄ってくれて、2人でニコニコキャッキャッと遊び始めた。友好的なムードに親達は心底ホッとした。大人の杞憂だったな、楽しい3泊になりそう!
 
……と思った、その安心は束の間で、あっという間におもちゃの取り合いが始まった。やっぱり杞憂ではなく、まったく予想通りの展開だった。
 
「これはYのおもちゃだから、Tくんはさわらないでー!!」
 
自分のおもちゃだと主張したい子と、自分の家にはないおもちゃに興味津々で遊びたい子。幼稚園でも、病院の待合室でも、どこでも見る「子どもあるある」な光景が、やっぱりここでも繰り広げられた。
 
2人は3泊4日の間、しょっちゅう喧嘩しては互いに泣き、かと思えばケロッとして次の瞬間には笑って遊び、そのうちにまた手やら足やらが出て泣く、を繰り返した。
 
「お世話になっている」「お邪魔している」部外者の自分としては、自分のおもちゃを守りたいYくんの気持ちは痛いほどよくわかって、たびたび申し訳なく思った。3泊も長居して、Yくんにストレスをかけているんじゃないか? そう思うこともあった。
 
「Tくん、もうおうちにかえって」
 
時折、彼が口にする一言が、私の胸にチクン、と刺さった。
 
とはいえ、急には帰れないので予定通り3泊し、帰りは笑顔でバイバイして実家に帰省した。7ヶ月ぶりに会う祖父母に、息子もうれしそうにしている。ここならおもちゃを取り合ってケンカすることもないし、かわいがってもらえる。息子にとって安心安全の場だな、と思った。でも、夜になってポツリと言った。
 
「Yくんとあそぶの、たのしかった」
 
あんなにケンカして、泣きわめいたのに、楽しかった? どうして?
 
息子は一人っ子で、完全なる核家族。幼稚園のお友達はいても、家に帰れば1人。そんな生活が当たり前の息子にとって、一つ屋根の下で、朝の「おはよう」から、夕方になってもバイバイせずに夜の「おやすみ」まで、ずっと一緒にいて寝食を共にする時間を過ごす、という親密さは、大人が思っているよりもずっと大きな影響を息子に与えていた。
 
「大人が思っているよりも」というよりは、私はすっかり忘れていただけだった。
 
私自身、2人姉妹の核家族なのでそれほど人数は多くはないけれど、14人ものイトコがいる。夏休みや冬休みにはおばあちゃんの家に皆で1週間以上集まって、毎日、かけっこにかくれんぼ、鬼ごっこ、ままごと。夜には花火をして、布団の上でも運動会。
それはそれは賑やかな日々だった。
長く一緒にいればいっぱいケンカもした。自分が遊んでいるおもちゃを貸したくない時も、イトコを仲間外れにした時も、自分が鬼ごっこで勝てなくてずっと鬼ばかりで泣いたこともあった。
それでも、家に帰る頃には、夏休みの日記には楽しい思い出ばかりが詰まっていた。
 
大人のいない、子どもたちだけの社会でしかできない遊びや経験が自分の基盤を作ってくれた。兄弟の少ない私にとって、イトコとの関わりが大きな影響を与えてくれていたと思う。
 
自分が親になり、「私が教えてあげなければ」「しつけてあげなければ」と感じることが山のようにあるけれど、もしかすると、それは時に過干渉なのかもしれない。
一つのおもちゃを目の前にして、それを子ども達がどう分けるのか、譲り合うのか。親としての自分の感情は横に置き、ただ見守り任せることは、本当にじれったくて難しくて耐久レースだけど、子の成長にとってはかけがえのない経験なのだ。
 
子どもたちだけの世界に任せることは、大人同士の信頼関係がなくては成り立たない。その点、「私、おもてなししないから」と親戚ばりにフラットな関係でいられる友人の存在が、とても貴重でありがたく思えた。
 
正直なところ、岐阜を去る時は、来年はお邪魔しないほうがいいんじゃないか? とすら思っていた。けれど、こうして互いに「定点観測」して互いの子の成長を見守り、そして子どもたちもまた「ひと夏の経験」ができることはよろこびだ。
 
また来年も遊びに行こう、今はそう思っている。

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2018-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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