メディアグランプリ

お義母さんといっしょに出かけて、トキメキを思い出す


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ジル鹿島(ライティング・ゼミ朝コース)
 
 
休みの日には家族みんなで車に乗って、近くの観光地とかイベントに時々出かけていた。ところが最近、妻が極端に忙しくなったせいか、みんなで出かける機会がほとんどない。仕事以外にも研究会やら学会やらで、やたら忙しい。
 
代わりに妻から「お母さんの喜びそうなところへ連れていってあげて」と言われる。近所付き合いもあるにはあるが、たまには普段と違う気分転換も必要だと思ってのことだろう。
そんなことから、二カ月に一度くらいのペースで、義母と東京へ出かけるようになった。地方から見ればの話しだが、東京は魅力が尽きない街だ。また家から急行で2時間くらいという適度な距離も、ちょっとした旅行気分を演出できていい。
 
さて、始めてから二回目くらいまで、義母も「あそこに行きたい」とか言ってくれてはいたものの、特に何処其処とも言わなくなった。たぶん、本当に詳しくないのだと思う。
 
では何処に行けばいいのだろうか? どうしたら喜んでもらえるのか? そこで作戦を考える。加えて年齢と体力を考慮して、凡そのコースと時間配分を決める。何か食べたいものはあるのだろうか? メニューに加え、好物の甘味を必ず添えるようにお店を選ぶ。
 
そしてもう一つ、意外に大事なポイントがある。私自身でも行きたいと思える場所やイベントを選ぶことだ。相手にばかり合わせていると疲れてしまう。自分も行きたいと思うことが続けるコツだと感じる。
 
「お義母さん、明治神宮にお参りに行きません?」
義母も私も寺社仏閣が好きなので、私主導の初回の企画は、明治神宮を参拝することにした。着いてみると立派な森に感動する。大きな木々、針葉樹と広葉樹のマッチング。美しいお宮。
帰りの電車では、ウトウトする前に、今日の感想を語り合う。
「外国の人がいっぱいいたね。半分ぐらいはそうだったね」
「結婚式をやっていたけど、お嫁さん綺麗だったね」
義母は楽しそうに感想を言ってくれる。初回にしては、まずまずの評価のようだった。
 
「お義母さん、東大の前にお洒落な美術館があるんですよ。行ってみません?」
次のお出かけは、東大本郷キャンパス前の竹久夢二美術館にした。隣接する弥生美術館と合わせて大正モダンから昭和初期にかけての女性の絵がたくさん飾ってある。義母の世代にはいいのではないか? 
 
加えて少女マンガ「はいからさんが通る」の特別企画展も催していた。こちらは私にとっても興味津々だ。子供の頃、姉の本棚には少女マンガがたくさんあった。勝手に読むと怒られるので、いないところを見計らって読んだ記憶がよみがえる。「ポーの一族」「キャンディキャンディ」そして「はいからさんが通る」である。大正ロマンの乙女の青春と恋の物語。非常に懐かしい。
 
義母も「はいからさんが通る」の詳しい内容までは知らないだろうが、感慨にふけって絵をじっと見ていた。
 
義母は田舎の旧家の生まれである。価値観も今の人とはちょっと違う。お見合いで嫁いだ先ではうまくいかなかった。一人娘(今の私の妻)を抱えての出戻りは、昔の田舎には居場所がなく、その後、都会に出て来てからの苦労は計り知れなかった。
 
それでも、私の知らない学生時代があったのだろう。自分なりの青春やトキメキがあったのだろう。
「高校のときは楽しかったよ。みんなで歌をうたって歩いたんだよ」とか、「就学旅行に行ったときにね、東京に就職した、あんちゃんが旅館に訪ねてきてくれてね・・・・・・」とか。
展示物の影響もあったかもしれないが、話すときは、まるで少女に戻ったように話してくれた。するとマンガを大切に読んでいた姉や、大正生まれでロマンチストだった祖母の姿も浮かんできて、横で聞いていて胸がつまった。
 
こんなふうに、二人で出かける時、義母は少し楽しそうにしてくれる。私にとっても、回を重ねていくほど義母と出かけるのが楽しくなってきた。つまり相手を喜ばせようとして骨を折ることは、意外と自分にも楽しいという事を思い出してきたのだ。きっと本当のサービスって自分でも楽しいのだ。
 
そして、何よりも一番思い出したことは、これって自分が妻に出会った頃、実践していたことだ。会う前日までに、喜んでもらおうといろいろ知恵を絞った。決して本人には伝えなかったが下見に出かけたことだってある。
「面白いイベントがあるんだけどいかない?」とか、
「このお店おいしいって評判だよ。食べに行かない?」とか。
 
最近、お互いに忙しすぎて妻と二人で遠くに行くことなんて滅多になくなってしまった。そして、お互い空気みたいになってしまって、昔ときめいたことなど、ほとんど忘れてしまっている。
 
義母と出かけても楽しいのなら、妻と出かければもっと楽しいに違いない。忙しいのはわかる。それでも、「たまには二人で出かけよう」とさそってみようと思う。たくさんサービスしてあげよう。出合った頃のように。
 
お義母さんといっしょに出かけたことで、ふと昔のトキメキを思い出した。

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2018-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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