メディアグランプリ

人生を変えたオムライス


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:江口雅枝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
デミグラスソースの海に浮かぶ、クリーム色のふわふわ島。
 
美容室の待ち時間に、ふと手にしたフリーペーパーをめくると、家の近所にオープンしたカフェレストランが紹介されていた。ちょうど「ふわとろ系オムライス」が流行りだしていた頃だ。いかにも食欲をそそるオムライスの黄色いビジュアル以上に惹きつけられたのが、その文章だった。
 
創刊号と書かれたフリーペーパーを持ち帰り、いてもたってもいられず友達に電話をかけた。
「聞いて聞いて、うちの近くにできたカフェ、すっごく気になるの見つけた!
めっちゃ美味しそう。絶対食べたい! コレ聞いたら、絶対食べたくなるよ」
興奮気味に、けれどもったいぶって話す私に、
「え? なに?」
と戸惑い気味の友達。
「あのね、オムライスがね、ただのオムライスじゃないの。デミグラスソースの海に浮かぶ、クリーム色のふわふわ島だよ!?」
「わー! なにそれー!」
スマホも、SNSもなかった十数年前、もちろんLINEのスタンプもなく、その時のテンションを伝えるには、声が全てだった。たった一行のキャッチコピーに、グルメリポーターになったかのように感情を込めて電話の向こうの友達にアピールした。
 
数日後、念願のオムライスを食べにお店へ。そして迷わずオーダーしたクリーム色のふわふわ島が目の前にやってきた。店員さんが運んでくる時にも、テーブルに置くときにも、いちいちぷるん、ぷるん、と揺れるクリーム色のふわふわ島が愛おしくて、顔がにやけてしまう。
チキンライスを卵で包んでケチャップをかけたオムライスしか食べたことがなかった当時、デミグラスソースを使っているだけでリッチな気分になり、まして本来隠れているはずのチキンライスがむき出しのまま、その上にオムレツを乗せるなんて!
ドキドキしながら見つめていたその時、スマートな手つきで店員さんがクリーム色のふわふわ島にナイフを入れ、ふわとろの半熟卵がチキンライスの上に花を咲かせるように広がり、デミグラスソースの海へと漂着。今なら確実にインスタグラムのストーリーに投稿したくなる光景だった。
満面の笑みを浮かべる友達、誘った自分も誇らしい気持ちになったことを、今でも鮮明に覚えている。
 
ちょっと大人のオムライス体験以降、誌面で紹介されている他の店にも足を運び、飲食店だけでなく新しい美容室で髪型を変えたりしながら、季刊発行というそのフリーペーパーの発行を楽しみにしていた。
そして気づいた。
あれ? 私、けっこう地元が好きになってる? と。
 
 
中学時代の部活動でのいじめや、家庭内での反抗期、様々な屈折した思いを抱えていた時期が長く、生まれ育った地元が大嫌いで、どこか地元をバカにしていた。進学先の都内の大学まで、2時間かかる通学を我慢しながら、親を説得してやっと一人暮らしを始めたのに、結局就職で地元に戻って実家で暮らしていた。人のせい、環境のせい、満たされない気分をいつも何かのせいにして、言い訳を探そうとしていた。
 
そんな時に出会った、一冊のフリーペーパー。生まれ育った街を中心としたフルカラーの無料の情報誌はその当時他になく、表紙に描かれていたのは若いモデルの女性などではなく、おばあちゃんのキャラクター。変わった雑誌だなぁと思いながら見ていくと、方向音痴の私のために作ったのかと思うほど、地図が丁寧でわかりやすかったことも、興味を持てた理由だ。
 
デミグラスソースの海に浮かぶ、クリーム色のふわふわ島。
 
そのキャッチコピーに興奮して友達に電話をしていた時は、まさかその雑誌を作る側になるとは、思ってもいなかった。
創刊号を手にしてから数年後、いつしか自分の目は生まれ育った地域へと向い、この街を好きになるきかっけをくれた雑誌発行元の会社へ、転職していた。
オムライスの文章を書いたのは、会社の社長だったことを入社してから知った。食べることと、しゃべることが大好きで、怒ると死ぬほど怖いけれど、何よりも人を喜ばせることが生きがいの、愛情あふれる社長だった。
 
昨年の春、あまりに突然の出来事だった。
社長急死の知らせに、しばらく何も考えることができなかった。
 
どんな時も、自分の考えを言葉にすることを社員に求めて、たくさん話をした。
もっともっと話をしたかった。聞きたかったし、聞いて欲しかった。
今はもう社長のアドバイスがもらえない、だからこそ、自分で考えに考えて、皆で意見をぶつけ合って、チームで前に進んで行こう。この一年は、そうやって力を合わせてきた。
 
 
言葉が、文章が、人生を変えることがある。
 
デミグラスソースの海に浮かぶ、クリーム色のふわふわ島。
たった一行の文章で、私の人生は変わった。
 
今度は私が書いた2,000字、5,000字、10,000字の文章で、誰かの人生が、ほんの少しでも幸せに近づいたり、前に進めたりしたら、いいな。
そんな思いで、天狼院のライティングゼミに行こうと決めた。
 
SNS上で出会った「人生を変えるライティングゼミ」の知らせは、私にとってあの時のオムライスなのだ。そう確信している。

 
 
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2018-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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