メディアグランプリ

災害の多い土地に生まれ、暮らし、そして生き抜く。


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記事:富田裕子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あなたって、九州出身なの? 九州っていつも台風が来るでしょ。なぜ、あんな災害の多い場所に住むんだろう、引っ越せばいいのにって、私、思ってたのよね」
え? 災害が多いから、引っ越す?
私はびっくりして、言葉が出なかった。
 
大学を卒業して入社した会社の新人研修。全国各地で採用された新入社員が、本社に集められての研修だ。
研修1日目の夜、同じグループになった同期と食事に出かけた。
みんなだんだん打ち解けて、会話がはずみだしたころ、東京生まれで東京育ちの目のくりっとした彼女に言われたのだ。
「九州は災害が多いから、引っ越せばいいのに」
 
確かに九州には、台風がよく来る。
「私、九州に一度も上陸したことな~い」という言い方をする東京生まれの彼女。九州といえば未開の土地で、荒れ果てているといったイメージがあるのだろう。
そんな九州に、生まれて以来ずっと住み、何度も台風を経験している私だが、「引っ越そう」などという発想は、今まで1回も浮かんだことがなかった。
彼女の発言は衝撃的で、なぜか、自分が「引っ越そう」と考えたことがないことにも、驚いていた。
 
あれから、25年。
日本の気候もずいぶん様変わりした。
温暖化の影響なのか、気象がいちいち強烈になっている。
 
気温は過去最高を更新し、「過去に経験したことのない」という大雨が頻繁に降る。特別警報も、この夏何回でただろう。
台風も次から次へと日本にやってくる。「台風は九州から」という常識を覆し、台風12号は関東から九州へと向かう逆コースだった。
怖いのは台風だけではない。台風7号が通り過ぎて一安心していたら、梅雨前線の停滞というだけで、西日本豪雨災害を引き起こした。
夏だけではない。冬の降雪量も尋常でなく、雪による災害も毎年起きる。
地震も、素人からすれば「なぜそこで?」という場所で起きる。
 
過去の常識は通用しない。
この日本、災害はどこで起きてもおかしくない。
 
昨年、私は九州北部豪雨の1週間後に、被災地の福岡・朝倉を訪れた。
緑の山々には、トラなどの肉食獣が立てた爪痕のような筋が何本も刻まれ、痛々しく山の地肌が見えている。土砂崩れの跡だ。
被災地を進んでいくと、山から崩れ落ちてきた土砂や流木で埋め尽くされている通りがあったかと思えば、次の通りは何事もなかったように平穏であり、また次の通りにいけば土砂で埋め尽くされているという状態の繰り返しだ。被害を受けたところと、受けていないところがゼブラ状になっている。
山に刻まれた爪痕の下流地域は被害に遭い、爪と爪との間の下流にあたる地域は被害に遭わなかったのである。ほんの道路1本の違いだ。
 
災害に遭う、遭わないは、もう運と言ってしまっていいのかわからないが、「神のみぞ知る」領域だ。
雨雲がほんの少しずれていたら、次に大雨が降ったら、結果は変わる。
 
25年前なら、災害に遭わない土地に引っ越すということも、可能だったかもしれない。
でも、今は無理だ。
この日本、災害に遭わないと断言できる土地は、なくなってしまった。
 
では、災害を避け、どこか外国に引っ越すのか。
多くの人はNOだろう。
仕事があるから? 外国に移住するお金がないから?
 
東京生まれの彼女に「九州は災害が多いから、引っ越せば」と言われたときに感じた違和感。
私は九州で生まれ、暮らしてきた。九州はふるさとであり、私のアイデンティティをつくっている場所だ。自然豊かで、私たちに大きな恵みを与えてくれる、この土地が大好きだ。
だから、台風が何度きても、引っ越そうなんて思わなかったのだ。
 
同じように、日本という土地も大好きだ。四季があり、地域によってさまざまな特徴、文化があり、バラエティーに富んでいる。
この先、もしかしたら、外国で暮らすということがあるかもしれない。
それでも、日本を懐かしく思い、いつか日本に戻ろうと思うだろう。
災害は多いけれど、大好きなふるさとだから。
 
 
ならば、災害の多いこの土地で、生き抜く方法を考えようではないか。
 
 
ハザードマップと一口に言っても、うちの自治体は「浸水ハザードマップ」「土砂災害ハザードマップ」「津波ハザードマップ」の3種類出していることを、先月知った。
それぞれ被害を受けそうな場所は異なってくるので、当然である。
自分の住んでいるところの危険性を3つのハザードマップで確認し、どう避難すべきかをそれぞれシミュレーションする必要がある。
「(地震の)揺れやすさマップ」というのもある。うちの地域は警固断層がずれると、震度6強の揺れがくるらしい。我が家はまず、地震対策を見直さねば。
 
災害で一番怖いのは、「自分のところは大丈夫だろう」と根拠なく考える「正常化バイアス」がかかってしまうことだ。
熊本地震の後、日常食を食べて買い足す「ローリングストック」をしようと考え、毎月第1日曜日を、ストック消費の日と決めた。
ところが、半年くらいで徐々に忘れ、いつの間にかストックしている食品が、賞味期限切れになっていた。
災害を自分のことと、真剣にとらえられていないからだ。
 
普段からいつも、災害のことを考えて暮らすというのは不可能だ。だからこそ、災害のことを考える機会を定期的に持つことは必要だ。
毎月が難しいなら、せめてマスコミの報道が増える防災の日と3.11は、絶対に我が家の防災について見直す日にしよう。
 
もうすぐ9月1日。防災の日がくる。
災害の多いこの日本で生き抜く方法を、真剣に考えてみよう。
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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