メディアグランプリ

「まだ結婚しないの?」という脅迫の正体


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投稿:S(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「まだ結婚しないの?」最初に両親にそう言われたのは、何年前になるだろうか。
それは私にとって、脅迫の言葉だった。
 
私の両親は、いわゆる“ひと昔前”の世代で、その当時に一般的だったと思われる人生の道を、正しいと思っている。いわゆる、「それなりに良い学校に入って、きちんと勉強をして」「それなりの大学を出て、それなりの会社で定職に就いて」。そして、女性である私に対しては、「20代前半で結婚して、家庭に入って、子どもを産んで」、「節目で両親に孫の顔を見せて、末永く家族を大切にする」……両親の心の中には、今では古典のようになったこの道が、最も正しいという考えが根底にある。その道を示されて育った私の心の中にも。
 
しかし今、私は「20代前半で結婚して……」から先の“正しい道”から外れている。そして20代半ばを過ぎてから、「まだ結婚しないの?」と、小言のように言われるようになった。その言葉が何度も繰り返されるうち、いつしか脅迫となって、私を悩ませるようになった。「結婚しないと幸せになれない」と。
 
両親は、“正しい道”のスタートである「それなりに良い学校」に入れてくれた。そして私も、勉強を頑張って、友達もなるべく多く作って、その道をまっすぐに歩もうとした。しかし、自分で自分の道を決められる年齢になり、世の中が多様化の時代になるにつれて、“正しい道”を疑問に思いだした。良い学校に出ること、若くして結婚すること、そんな古典的な道が、本当に正しいのだろうか?
 
しかし、両親、特に同じ女性である母は、この“正しい道”を歩んできた。娘たちが自立して離れて暮らす今も、「家族を大切にして」正しい道を歩み続けている。その母を見ているからこそ、私も同じ道を歩むべきではないか? 早く結婚しなければいけないのではないか? という考えを捨てきれずにいた。そんな葛藤を抱える中で繰り返される脅迫は、やがて早く結婚しないと「ダメな人間になる」という警告にも聞こえ出した。30代を過ぎてからは、「ダメな人間だ」とレッテルを貼られ、否定されるかのように、私に襲いかかった。
 
“正しい道”を外れて数年、「また脅迫されるのか」と、実家に帰ることが億劫にすらなっていたころ。ある時、ふと母が言った。「パパと結婚して、貴方たちが生まれて、ママは幸せだわ」と。いつものように「まだ結婚しないの?」と問いかけるでもなく、言い聞かせるでもなく、しみじみと、独り言のように。
 
それで気付いた。両親が私に示してきた “正しい道”は、古典の型ではない。自分たちが幸せを見出した道だ。「自分たちと同じように、幸せが娘にも訪れるように」、その思いを、“正しい道”として私に示していたのだ。そして「まだ結婚しないの?」という脅迫の正体、それは「娘に幸せになってほしい」という両親の愛だった。
 
思えば私も、実家に帰ると両親に「まだ起きてるの?」と言う。仕事上がり、同僚に「今日も残業するの?」と言う。飲みに行った先では、友達に「まだ食べるの?」、たまに「あまり飲み過ぎない方がいいよ」と命令口調でも言っている。でもそれは、相手を脅迫しているわけでも、否定しているわけでもない。少々大げさだが、「より幸せになってくれたらいいな」という思いが根底にある。両親に育てられる中で言われてきた「もっと勉強したら?」「もう寝たら?」「まだ帰ってこないの?」といった口うるさく感じていた数々の言葉も、同じだったに違いない。私は、言葉の中にある愛を見落としていたのだ。
 
私はまだ、道を外れたままである。でも今はもう、「まだ結婚しないの?」と言われても、脅迫には感じることはない。そして、「幸せにやっている」ことを伝える。「まだ結婚しないの?」という言葉の正体に気づいたから。

 
 
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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