今日も元気にトイレを磨こう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事: 小林 千鶴子(ライティング・ゼミ日曜コース)
うちのトイレには名前がある。マリコさんという。
マリア様の御絵が飾ってあるからというのと、「おまる」→「マルコ」→「マリコ」という連想で、私が名づけた。
朝、トイレのドアを開けて、「マリコさん、おはようございます。今日もよろしく」と挨拶。何しろ、トイレには家中で一番お世話になっている。食を養う台所も、睡眠を支えるベッドも大切だが、美味しく食べ、それが身体を作るのも適切な排泄あってこそ。
呼吸が吸うだけでなく、吐く息が大切なように、食と排泄は命の両輪、の筈。
ところが何しろ排泄なんで、不要なものを出すんで、汚いと思われがちだし、事実汚いところが多い。
でも、思い出してみてください。
飲み過ぎだの、腸炎だの、時に口が排泄の窓口になることがあるでしょう。そんな時、私達はトイレとお友達になる。トイレにかじりついて、トイレからひと時も離れられなくなる。
汚いとか言ってられない。汚れなんて目に入らない。ただただ苦しさから逃れたくて、便器を抱きしめ、何度も便器に顔を向ける。
それくらい身近なトイレなのに、どうも不当に扱われている。
私は掃除が得意ではない。一通りはたきを掛けて、床はざっと掃除機をかける程度。目につけば埃を拭うし、汚れは落とすけど、常時拭き掃除をしたりはしない。
特に後回しにしがちなのが水回りで、以前は部屋の掃除だけで飽きてしまい、お風呂や洗面所やトイレなどの水回り前に力尽きることがあった。
ええかっこしぃだから、人をお招きするときはピカピカに磨いて香水ふりまいたりしてたけど。
ずーっと、こんな感じで生きてきました。
汚いものには蓋をせよ、を地で行く生き方。我ながら、なんだか嘘くさい。
ほんの少し前のこと、悔しいことがありました。理不尽だと思ったし、不公平だと思い、怒りも覚えた。でも、その現実は私には変えられないことで受け入れるしかなかった。
そんなとき、私は目の前の小さなことを疎かにしてきたなぁと気づいた。たとえば、生活の中で一番お世話になっていて、汚れも一手に引き受け、私の排泄物を受け、私の新陳代謝を助けてくれているトイレを粗末にしているなぁと思った。トイレは言葉を持たないから、私に対して不平不満もこぼさないけれど、なんて私は恩知らずなのだろう。
それ以来、毎日トイレを磨いている。
磨き始めると楽しい。
まず、綺麗になる。汚れがとれる快感!
俗に「三上(さんじょう)」と言って、人間の思考が活発になるのが、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)、馬上(すなわち移動中)なのだそうだ。ご多聞に漏れず私もトイレでの読書が好きなので、トイレに本を並べていたりした。
そういうのもちょっとずつ片づけている。読みたければ本棚から持ってきてトイレ入ればいいんだし。
便座カバーもトイレマットもお洒落なのを選んで悦にいってたけど、捨てた。
その方がスッキリするし、掃除するにもストレスがない。要はマメにきれいにしていればいいわけで。
空間が増え、トイレも呼吸が楽になってる感じ。「マリコさん」がのびのびしてる。
夏休みに実家に帰省した一週間。母に休み中は私がトイレ掃除をする宣言をした。最初は手ごわかったけど、難物なのは初日だけ。二日目からはスイスイ。だらしない生活をして、社会復帰が難しくなるのが常な夏休み。今年はトイレ掃除のおかげで、毎日張り合いがあった。母も毎日喜んでくれて。
そういえば私は以前から人様がトイレ使った後、いつも不思議に思ってたことがあった。
どうして蓋をしめないのだろう? とか、どうしてトイレットペーパーを引きちぎったように破るの? とか。時にはトイレットーペーパーのカスみたいなのが床に落ちてて、それでも平気だったりして。
見た目が悪いだけでなく、自分のあとから入る人がいい気持ちしないだろうに、そういうこと考えないのかなぁと不思議だった。
女子トイレなのに。トイレから一歩出ると、洗面所の鏡前では真剣に口あけて化粧してるのに、トイレはあれかい!? とか。
一方で、茶道の先生宅はトイレに鍵がなく、なぜかというと、空いているときはドアが開け放してあり、それができるのは、トイレが常に清浄にされているからだということも思い出した。
先生、今年米寿を迎えられ、以前のようには身体は自由に動かない。茶室や炉のしつらえは弟子の私達がお手伝いしなくては、とても行き届かないことが増えたけど、相変わらずトイレは戸が開け放たれて、健やかな空気。
こういうことなのかなぁって思う。こういうことができる先生だから、いつもしなやかで、新鮮な感性で、人や物事に感謝できるのかなぁ、と。
今日も私はマリコさんと会話する。
朝は、「おはよう、今日もよろしくね」
夜、寝る前にはマリコさんを磨いて「今日も一日ありがとう」
マリコさんと仲良しになってから、私の毎日は輪郭がクッキリとしてきて、楽しい。
マリコさんは私の心の鑑だった。
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