メディアグランプリ

しわしわネームは未来の自分からの贈り物


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:江口雅枝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「昔っぽい名前だね」
 
19歳の学生だった頃、専攻していた美術の講座を担当する先生からそう言われたことがある。
 
西洋画の技法を学ぶ授業で、制作している作品をひとりひとり講評しながら、名簿と照らし合わせていた先生。
「ま さ え さんと読むのかな?」
「はい」
「昔っぽい名前だね」
 
 
本名でこの記事を書いているわたしの、「雅」と「枝」の漢字の組み合わせ、「まさえ」という音の響きが昔風な印象を与えたのだろう。
 
せめて「古風な名前だね」くらい気の利いた言い方をしてくれれば良いものを、「昔っぽい」と言われたことで、「古臭い名前」と思われたような気がして、ショックを受けた。
 
しかも50代の男性講師が19歳の女子大生に対して「昔っぽい」と言うことの違和感。その男性講師の名前も私に負けず劣らず古風だったから、なおさらだ。
 
隣で話を聞いていたクラスメイトが
「先生の名前の方がよっぽど昔っぽいですよ!」
と、私が心の中で思っていたけれど声に出せなかったセリフを即座に言ってくれて、その瞬間はスカッとした。
 
けれど
「昔っぽい名前、かぁ」
気にしていないつもりだったのに、ボディブローのように後からジワジワと、自分の名前が人に与える印象が、気になって仕方なくなってしまった。
 
 
両親が愛情を込めて付けてくれた名前であることは感じていたし、
初対面や電話口で
「どういう漢字ですか?」と聞かれて
「皇太子妃雅子さまの『雅』に…」
と説明すると100%伝わる誇らしさもあった。
 
何も恥じることもなければ、コンプレックスに感じる必要もなかったはずだ。
「昔っぽい名前」と言った先生だって、本当は「古風でいいなぁ」と思ったものを、とっさに出てきた言葉が「昔っぽい」になっただけかもしれない。
 
 
こどもの名前の人気ランキングで話題にのぼることも多い「キラキラネーム」に対して、あえて古風な名前をつける「しわしわネーム」なんていう呼ばれ方がある今の時代。
 
アルバイト先の後輩から、
「おばあちゃんと同じ名前だ〜!」
と言われたことがあるくらいだから、『雅枝 まさえ』という名は「しわしわネーム」の部類に入るのだろう。
 
「昔っぽい名前だね」
といわれてから20年。もう40歳を迎えようとしている今となっては、
「やっと、名前がわたしに追いついてきたな」
そんな気分だ。
 
 
振り返れば、「昔っぽい」つまりは「今っぽくない」という印象が、「名前」ではなくて、私自身に向けられた言葉のように感じて、自意識過剰に反応してしまったのだ。
 
女子大生といっても、勉強に恋愛にキャンパスライフを謳歌するイメージとは程遠く、どこか垢抜けないファッションや髪型。彼氏もいなければ、人見知りな性格でランチタイムをひとりで過ごすことも多くて、自分の居場所を見つけられずにいた。
だからこそ「昔っぽい名前」という言葉は、自分の存在そのものが古臭くてダサいと言われているかのようで、頭から離れなくなっていた。
 
 
そんなある日、授業の課題がきっかけで、歌舞伎や能・狂言などの古典芸能を鑑賞する機会があった。
歴史ある名を受け継ぐ歌舞伎役者の襲名披露公演にも足を運び、華麗な舞台、幽玄な世界観、はじめて体験する古典芸能の魅力に、いつしか夢中になっていった。
○○衛門、○○之助、「しわしわネーム」なんて吹き飛んでしまいそうな、重厚かつ味わいのある名前が連なる世界。もちろん本名ではなく役者としての名であることはわかっているけれど、それでも受け継がれた古き名を誇りとして、堂々と口上を述べる役者を生の舞台で見るうちに、「昔っぽい名前コンプレックス」は、消え去っていた。
 
むしろ、みやびな古典芸能の世界は、出会うべくして出会ったのかもしれないと、自分の名前の古めかしさを気持ち良く思うようにさえなった。
 
歌舞伎に能、狂言、そうした舞台を見ることで、年上の方々との会話が広がるようになり、また同時に同世代の人たちからは、「教えてほしい」「観てみたいから一緒に連れていって」と、私自身に興味をもってもらうきかっけになったのだ。
 
 
なにものでもない未熟な自分と、名前が醸し出す雰囲気。自ら新しい一歩を踏み出そうとしていなければ、キラキラネームでもしわしわネームでも、どこか不安や迷いを抱えたままだったと思う。
 
私にとって古典芸能への扉は、歴史や文化、美術、様々な学びをもたらしてくれる、大きな一歩だった。
「雅」という字が含まれているだけで「雅楽」にも興味を持ち、演奏を聴きに行ったこともあった。「雅枝」という名前に追いつこうとすら、していたのかもしれない。
 
こうして書いている記事を本名で投稿しようと決めたのも、名前コンプレックスの経験があるからこそ、自らの足跡として、残していこうと思ったからだ。
 
 
20年前の自分の、名付け親になるとしたら?
 
私は同じ名前を選ぶ。
 
きっとあなたを豊かに成長させ、新しい出会いをもたらしてくれる。未来の自分から、過去の自分へ、同じ名前を贈りたい。

 
 
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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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