いつの間にか、彼はモテ男
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記事:ひらいさおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
「うわ。かっこいい」
また見とれてしまった。
ハンサムな彼。
彼が歩くたびに、脚の筋肉のラインが見える。
彼は堂々と、力強く、私の目の前を歩いている。
細く、引き締まった肉体。しなやかな体。
筋肉のラインと影が、美しい。
彼は、座り。何かを悟りきったかのように、窓の外をじっと眺めている。
何をみているのだろう。
私がしばらく、彼に見とれていると、彼がこちらを見た。
なんだろう。見とれていたのがバレたのか?
彼は、少し目を細めて、私に微笑んでくる。
「うわー。マジか。なにその表情。カッコいい。たまらん」
またしても、見とれてしまった。
彼はいつも、だいたい同じ場所にいる。
その場所は、彼のお気に入りスポットだ。
窓際のテーブル、明るい場所。
茶色い目が印象的で、出会った頃よりも男らしく、大人になった。
出会った時は生えていなかった口ひげも、今では、立派に伸ばしている。
彼と出会ったのは、3年前の春だった。
桜並木、川沿いのマンションの前。
何があったのか。彼は空に向かって叫び、泣いていたらしい。
私の家族が、彼を連れて、うちに帰ってきた。
「え? どうしたの?」
初めて出会った時の彼は、使い捨てられた雑巾のようにボロボロだった。
脚は細く、歩き方もよろよろとしていた。
今にも倒れてしまいそうな彼の細い体に、驚いた。
それから、彼は、しばらく泣いていた。
あれから、3年。
あの頃の彼から、今の姿は想像できない。
胸を張り、背筋を伸ばし、自信に満ちた表情。
引き締まった肉体。しなやかな体。
今では、女性にモテモテだ。
彼に興味を持った女性が近付くと、彼は、身をかわすように距離を置く。
女性があきらめて、ちょっといじけていると、彼は甘えた顔をして近づいていく。
そして、女性のアゴを、片手でクイッと引っ張り、顔にキスをする。
あの「アゴクイ」までするのか。
モテるな。彼は、かなりのやり手だ。
それだけじゃない。
彼は、甘えるような表情をしたかと思うと、たまに、冷めた目で。殺し屋の様な表情もする。
会うたびに変わる彼の表情。
その表情は、味わい深く。
彼を見ていて、飽きることはない。
それにしても、なぜ彼はあらゆる女性を魅了し、男らしく、かっこいいのか。
彼が歩く時には、特に、その肉体の美しさが見える。
彼は、いつもそんなに体を鍛えているようにも見えないのだが、あの美しい体にどうしたらなれるのだろう。
彼の肉体は、ミケランジェロのダビデ像みたいだ。
昔、何かの教科書にも出てきた、あの真っ白いダビデ像。
西洋人の男性が全身裸で立っている、あれ。
ダビデ像は、人間の美しさや力強さをあらわした彫刻で。
”人の外見に、その人の内面があらわれる”
そんなことを表現しているらしい。
彫刻になるくらいだから、きっと、ダビデさんもモテ男だったに違いない。
大学の頃、イタリアで、ミケランジェロのダビデ像を見た。
真っ白な全身裸の像。
立体的な姿は、想像していたより大きく、生々しい。
ダビデ像のまわりに、観光客が集まり、みんな写真を撮っていた。
じーっとただ、ダビデ像を眺め続ける人もいた。
当時の私は、全身裸のダビデ像を見るのが、恥ずかしかった。
「なんて赤裸々に、全身を作っちゃってるのかしら」くらいにしか思わなかった。
「これって、美しい? 美しいのか? 体そのままの形なだけじゃない?」
教科書に載っていた写真の、本物を見た。
私には、ただ、それだけだった。
それが今では、ダビデ像を見て「なんて美しい肉体なのだろう」と思う。
大人になるって、年をとるって、こういうことなのか。
感覚が変わるのか?
それとも、ただ単に、脂肪に包まれた自分の身体とは正反対の、筋肉質の体に憧れているだけなのか?
人の好みも変わるっていうからな。
美しさの基準も自分の中で、少しづつ変わっていくのかもしれない。
まるで、「胸が一番好き」って言ってた男が、「お尻が一番好き」って言うみたいに。
あの彼の肉体も、ミケランジェロのダビデ像も、なぜ美しくかっこいいのか。
考えてみた。
それは、無駄のない引き締まった肉体だからだろう。
筋肉と体のラインがきれいで。光にあたっても、光と影が出て、美しく見える。
美しさ、とは、メリハリ、のようなものか。
メリハリ。
もしも本当に、内面が外見に現われてしまうのだとしたら、私は内面にメリハリがないということなのか?
確かに、彼は、無駄なものは食べず、よく動く。
そして、常に、自分の思いに忠実に生きている。
”人の外見に、その人の内面があらわれる”
彼の体は、ミケランジェロの、ダビデ像のように美しい。
窓際のテーブル、明るい場所。
今日もまた、彼はお気に入りの場所にいた。
「本当にカッコいい。キミの体はダビデ像みたいだよ」そう言う私に。
彼は、毛なみの良い体をすり寄せて。
「ニャー」と鳴いた。
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