移住が教えてくれた私の生き方
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記事:チミモン(ライティング・ゼミ朝コース)
「移住しない?」
2014年3月、ある日の午後。まるで「昼ごはん食べに行かない?」くらいの軽さで主人が私に放った言葉である。
「はぁ」
これ以外、返すセリフがなかった。
ちょこちょこと「移住」を匂わせる発言をしていた主人がとうとう正面切って提案をしてきた。
この時の私はというと、5月に第二子の出産を控えていた。あと一ヶ月で産休に入れるという解放感と、おそらく保育園に入れるだろうから(第一子が入所していたから兄弟枠で有利になる)復帰も問題ないなという安心感もあり、今の状況になにも不満はなかった。むしろ満足していた。
前回は、私は育休からの復帰を断られ無職、主人は未経験の職種に転職したばかりという状態で北関東から神奈川への引っ越してきた。収入は激減、支出は激増。経済的にも不安材料が目白押しだった。その状況でやっと得られた仕事と保育園。経済的にも安定し、なんとなく将来も見えてきたというのにやすやすと手放せるわけがない。
そんな昔の苦労と今の安心を知らないはずがないのに、軽々しく「移住しよう」などという主人の気がしれなかった。
しかし主人は次から次へと移住をアピールしてくる。
候補地は、瀬戸内海や日本海の島、四国各県の小さな村など。東京生まれ東京育ちの私には想像もしたくない移住先ばかりだった。
それでも私は
「移住なんて絶対にいや」
とは言わなかった。
それは、主人の「思いつき」は私の価値観からは絶対に生まれないもので、それが人生が面白い方向に動かしたという実績があったため、彼の言うことを全否定しないと決めていたからである。
そんなわけで、候補地についてじっくりと調べてみることにした。
ある島は農業以外の仕事がなく、さらに人口よりイノシシのほうが多いという。怖すぎて無理だ。
ある島は物資を運ぶフェリーの本数が少ないために、生肉が流通しないという。それは嫌だ。
ある村は市街地まで車で一時間近くかかるという。遠すぎる。無理だ。
私の選択基準は要するに「今の暮らしぶりをいかに損なわないか」であった。
生活をガラリと変えたい主人とはだいぶ基準が異なってしまったが(主人の第一候補はイノシシの島だった)、そこは私を尊重してくれた。
ダメ出しばかりする私に主人が切り札的に提案してきたのが「福岡」という土地だった。
確かに旅行に行った福岡の印象はよかった。少なくとも今までの候補地よりは良さそうだ。
かくして2015年5月に福岡に視察に行った。
中心地の発展具合、そこから住宅街までの距離、交通網の発達、食べ物、仕事の種類、どれを取っても今の生活を大きく損なうことはなさそうだと判断し、福岡移住のために動くことを決めた。
しかしそこからが大変だった。
神奈川にいながら、家、子どもの学校と保育園、転職先をまとめて探して決めなければならない。土地勘のない場所のあれこれをリモートで決めていくのは骨の折れる作業だった。会社都合の転勤とは違って誰もお膳立てはしてくれない。
福岡ほどの都市であっても、関東に比べるとどの分野も情報量がケタ違いに少ない。ネットで検索してもヒットしない、電話で確認しても要領を得ないことはザラだった。
それでも何とか2016年3月に仕事が決まり、家、子どもの学校、保育園の目途がつき、4月に移住が無事完了した。
移住して2年半が経った今、冷静に考えてみても移住は正解だったと思う。総じて生活の質は上がった。
しかし、何よりも大きな変化は「生活」ではなく「自分自身」に起こった。
移住してからというもの「こうあらねばならない」「こうあるべきだ」という事柄がみるみる減っていったのだ。
移住後「東京だったらな」と思うことはいくつもあったが、その99%については「まぁいいや」と思えたのが自分でも驚きだった。
それは、自分にとって本当に大事なことは実はほんの少ししかないということに気が付いたからだ。
本当に大事なことは家族と一緒に笑っていられることだった。それ以外のことは大勢に影響なしであった。
それまでもそう思ってはいたが、家族が笑うためには住む場所も家も学校もすべてが整わないといけないと思っていた。だが実際はそれらすべてが「それ以外のこと」だった。
移住が私にもたらしてくれた本当のメリットは、人生における「核」が何たるかを自分自身に知らしめてくれことだった。
今では自分の好きな場所に住んで自分の好きな仕事をすることはむしろ人生を豊かにすると信じている。そしてその「好き」は人生のステージが変わればおのずと変化するものだとも思っている。
なので、数年後に自分たちがどこに住んで何をしているのか想像がつかない。そう思うだけでワクワクする。
もし今住んでいる場所を離れて今の仕事を手放すとしたら、どんな生き方をするのか想像してみると楽しい。
「大事なもの」に囲まれて生きているようで、実はそれが自分を縛っているかもしれない。
私の人生の「核」は何だろう?
今後の人生もそれを問い続けながら、棺桶に入ったときに「私の人生、めっちゃ楽しかったわ!」と思えるように生きていきたい。
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