メディアグランプリは弟の夢をのせて
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:かめ(ライティング・ゼミ特講)
「お前の弟、すげーなぁ」
「……」
私の弟は、学校で一躍有名人になった。
全国読書感想文で、最優秀賞を取ったのだ。
「賞がもらえて、ラッキーです!」
全校朝会で、なんでもないことのように弟は笑った。
なぜ、やつが!?
そう思ったが、多分あいつの発想は柔軟で、言葉もなんだか生きているようで。
その実力差を感じつつも、私は弟よりも劣っている自分を認めたくなかった。
私の家では、なぜか春と秋に行われる読書感想文コンクールに応募する、ということが課せられていた。
もともとは、姉が担任の先生にその才能を認められていたことが始まりだった。
姉の担任の先生は、昔ながらの教え方、というか、とにかく厳しく、軍隊のように規律正しい子供たちを養成していた。
その中で姉は認められ、クラスで1人か2人くらいの、代表者として小学1年生の頃から読書感想文を書いていた。
小学校に入学したばかりの私は、というと、そんな才能はなかった。
けれど、私は帰りの会が終わって1人先生に呼ばれたクラスメイトを見て、自分が何かに選ばれなかったことを察知した。
「私にもやらせてくれないと、帰らない」
そう先生に言いはった、らしい。
結局、私とクラス代表として選ばれていた礼子ちゃんの2人が、そのコンクールに応募した。
結果は、私の方がいい賞を取った。
でも、これには訳がある。
私の母親は、教育ママというか、スパルタな人だった。
保育園の頃に家でしていたひらがなの練習では字が曲がるとグーで頭をたたかれたし、小学校で数字を足すスピードを競う宿題が課された時には、ストップウォッチを持つ母の横で泣きながら計算をした。
そんな母が、私の読書感想文に目を通さないはずはない。
400字詰めの原稿用紙2枚、だっただろうか。そこに感想を埋めるため、母親と2人きり、テレビもおもちゃのない部屋にこもるのだ。そして、そこから出られるのは、文章を清書まで書き上げられたときだ。
まず、本をあらかじめ読み、気になるところに線を引く。書きたいことがあれば、書き込んでもいい。そして、母親がやって来て2人になってからやるのは、本から何を感じたか、どう考えたか、何を伝えたいか、など。
「はい! ここ! どう思ったの!」
「えぇと……とってもすごいと思った」
「とっても? すごい? とってもは何回も使っちゃだめ! すごいは感想になってない!!」
と、言った感じだ。
結局、母親の思っていることを代わりに口にし、文字は私が書いていた、という状態だろう。
だから、あれは私の感想文ではない。
母親が入院していた時期があって、恒例の読書感想文を1人で書かねばならなくなったことがあった。
姉は、もともとの力がある。でも私は、母親のいないときは全くだめだった。
高学年になってくると、ある程度自分で感想文を書いておき、添削してもらう形式になった。
「ここ! なんでこんなどうでもいいところの感想を書いてるの!」
そこ、私の好きなシーンなんだけど。
文章に正解・不正解はあるのか?
この頃の不自由さが、今自分で文章を書こうとしている根本にきっとある。
「文章を書く勉強をしてるの。時間があったら読んでみてね」
ライティング・ゼミの受講を6月から始め、メディアグランプリで初めて掲載された。うれしかったので、親しい人にだけ、連絡をした。
私の友だちはわりと真面目で、結構な量の感想を送ってきてくれたりする。
「最後まで読めたか、教えてね」
としか私は言っていないのに。
ある人は、LINEで、スマートフォンの画面に収まらない量の感想をくれる。
私にも同じようなことがありました、とか、考えさせられた、とか、この文章のこういうところが好きです、とか。
本当にありがたい。
兄弟(姉、弟、妹)にも一応、こんなことをやっているよ、と送った。
でも、私は兄弟の中でも文章の得意な方ではなかったので、正直はずかしい。そう思っていたところ、なぜか弟が不思議な反応を示した。
「どうもありがとう。考えさせられる内容だった」
と。
そうなの? 2歳違うと、記憶も結構違うとか、そういうこと?
弟は、ほかの文章も読みたい、と言ってきたので、掲載にならなかったものも送った。
「すごいね!」
なんだかわからないけれど、私はほめられた。
周りから認められていた人間が、なぜか凡人の私をすごいと言っている。
とっても不思議な状況だ。
自分のことを隠す余裕もなく文章を書いていると、想像以上に友だちが親身になって返事をくれる。
一応、自分の中で昇華できたから書いているのだし(いや、書きながら昇華できたのかもしれないけれど)、大丈夫なんだよ、私。
そう思ってしまうくらい、みんなやさしい。
今日、私の書いた新しい記事がWEB天狼院書店に掲載された。
弟から返事と感想がきた。
「ほんと、すごいね! 自分も、こういうの、やってみたいな~」
と。
そうか、弟よ。
私より文才のあるおまえだから、自分で書きたい、と今までもきっと思っていたんだな。
そう思うと、私は背筋が伸びる気がした。
これは、私だけの目標じゃないんだ。
そうか、書かなきゃ。
まだ、思うようには書けないけれど。
今日講義で教えてもらったことも、さっそく実践してみよう。
文章を書いて食べていきたいとかはないけれど、それでも今は書きたい。
弟の夢ものせて、明日も私は、文章を書き続けていく。
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