えんのふしぎ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【9月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中川文香(ライティング・ゼミ平日コース)
不思議な縁が、つながっている。
つながった縁が、どんどんと広がりを見せている。
そんなことを考えながら覗いたファインダーには、4人の笑顔が切り取られていた。
9月某日。
私は船酔いで最悪の気分を抱えていた。
「すごい揺れるねぇ。大丈夫?」
だいぶやられた私を心配してくださるのは、父の同級生の女性。
「うわー、ちょっとこれ、すごいわ。私はちょっと横になろうかな?」
そう言っているもう一人も、同じく父の同級生。
母と娘ほどの歳の差となるお二人と私と、ひょんなことから一泊二日の旅行をご一緒するようになった。
「お疲れ様でした。船は大丈夫でしたか?」
「だいぶ揺れました。結構酔ってしまって……」
それは大変だ、ちょっと今日は海が荒れていたみたいだから、と言って心配そうに、でも微笑んでハンドルを握っている。
迎えに来てくれたその彼もまた、私の父の同級生だ。助手席で優しく笑うもう一人も。
私はというと、船酔いの気持ち悪さを車窓から入ってくる風がゆっくりと拭っていくのを感じながら、4人のおしゃべりをぼんやり聞いていた。
「講演会は、どんな日程なのですか?」
と尋ねると、運転しながら教えて下さった。
自ら運転手を買って出て下さった彼の講演会が、明日、控えていた。
その取材をするために、私はこのメンバーに混ぜていただいたのだった。
同級生同士の4人。
一人は、講演会に出席するため。
もう一人は、仕事でそれに合流して。
二人は、講演を聴くために。
そして私は、講演の様子を取材するために。
みんなそれぞれ普段暮らしている場所から、この島に集まった。
同級生の4人は、学生時代からの知り合いなのだろうと思っていたけれど、どうもそうではないらしい。
高校を卒業して、みんなそれぞれの道に進んだ。
みんなとくに連絡を取っていたわけではないし、
「クラスが一緒になったことが無いから、高校の頃はあんまり知らなかった」
という人も。
それが不思議な縁がつながり、
同じ仕事をしていた二人があるとき再会して交流が生まれ、
仕事で訪れた先で相手が同級生だと分かってつながり、
私の父とそれぞれが仕事でつながり、今日の日となった。
仕事の関係でつながっていく、というのがいかにも大人、という感じ。
昼食を囲みながら4人の話を聞いていて、だんだんとそんな関係が分かってきた。
「でも、本当に、不思議ですよねぇ。
高校生の頃は、みんなそんなに親しかったわけでもないのに、今こうやって交流している。
人生、本当にどんなことがあるかわかりませんよねぇ」
その言葉に皆「そうだねぇ」としみじみしていた。
還暦を少し、過ぎた4人の言葉には、重ねてきた年の分の重みのようなものを感じた。
でもそれは嫌な重さじゃなくて、手のひらに乗せてみて心地よく、ずっしりと感じられるようなもの。
人との縁って、不思議なものだ。
まだ30年とちょっと、しか生きていない私も、それなりに人との出会いや別れを経験してきて、そう感じる。
その倍、生きてきたこの人達は、もっとたくさんの出会いと別れを繰り返して、いま、こうしてここにいるのだろう。
「やっぱりね、定年過ぎると、みんな心置きなく付き合えたりするものなんですよ。
若い頃は“今何の仕事しているの?” “どんな暮らしをしているの?”という話になりがちで、そうすると、それまでの人生で上手く行っている人、そうでない人がいる。
自分の人生うまく行っていない、と感じる人は、自分のことを話したくないからか、なかなか同級生にも会いたがらない。
でも年取ると、仕事とか成功とか、あんまり関係なくなる。
最近物忘れが激しいとか、体のどこが痛いとか、みんな一緒なんですよ」
目尻に深い笑いジワを刻みながら、彼はそう言ってグラスのビールを飲み干した。
そうやって、みんなそれぞれの人生を持ち寄って、ふとしたタイミングでまたつながる機会があるのかもしれない。
無理やりつなごうとすると上手くいかなくてこんがらがったり切れてしまったり、流れに任せて進んでいくと、思いもよらない出会いを生み出してくれたり、小さな流れがだんだんと合わさってやがて大きな川になっていくように、人はたくさんの縁をつないで、なにか大きな海のようなものに向かって歩いていくものだと思う。
それは不確かで、ふわふわと安定しないものだけれど、でも確実にそれに導かれて人生は進んでいっている。
目には見えないけれど、私もたくさんの人との縁で結ばれている。
一度離れても、縁のある人とはきっとまた、つながる。
思いもかけないつながりによって、こうして親子ほども年の離れた“友人たち”とお昼ご飯を囲んでいるし、この島で出会った人、再会した人と、また新しく縁を結んでいく。
そのつながりは、もしかしたら何年後かには細く途切れたものになっているかもしれないし、反対に頑丈な、頼りがいのあるものになっているかもしれない。
いずれにせよ、今日ここで4人の不思議なつながりを感じながらごはんを食べたことは、ファインダー越しの素敵な笑顔と共に私の中に刻まれて、ふとした瞬間に心の表面に顔を出してくるに違いない。
《終わり》
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