極上のメロンパフェ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事: 小林 千鶴子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「来たーっ!」
小さな女の子が叫んだ。驚きと期待で目をまんまるに見開いて。
それも無理はない。超特大、超豪勢なメロンパフェ。グラスには大振りに切ったメロンがいくつも刺さり、中にはメロンシャーベットと、サイコロ状の果肉がびっちり。たっぷりのアイスクリームに生クリーム。持ち運びするにもずっしりと重みがあって、男性の店員さんでも一度にひとつしか運べない。
ここは世界遺産にも認定された景勝地 三保にある農園カフェ。砂地で育てたトマトとメロンが名物で、トマトの時期にはトマトパフェ、メロンの時期にはメロンパフェを目当てに遠方からもたくさんの人が訪れる。
連休の中日。お墓詣りをした足でそのまま三保まで遠征し、噂のメロンパフェに私達も挑戦。
注文し、待つことしばしでパフェ登場。あがる歓声、そしておもむろにスマホを取り出し記念撮影。大きさがわかるように手前にリップクリームを立てたりして。
ひとしきり姿を愛でたら、いよいよスプーンを手に各自メロンを攻略。飾りのメロンにかぶりつき、口々に「甘~い!」、「美味しい!」
グラスの内側に詰められた果肉は、おそらく種の近くの果肉だろうか。飾りのメロンよりもさらに甘みが強く、ジューシーだ。食べつくした後、底に残るジュースがこれまたメロンの香り一杯、甘みいっぱいで残すには忍びない。かわるがわるグラスを持って最後の一滴まで飲みほしてしまった。
女の子も、喜色満面でおかあさんが口に運んでくれるスプーンをほおばっている。
一人ではとても食べきれない量のパフェ。どこのテーブルでも数人で仲好さそうにつつきあって食べている。みんな嬉しそう、楽しそう、幸せそう。
そう、美味しいものを食べると自然と頬がほころぶ。笑顔になれる。場が和む。美味しいものの効力ってすごい!
メロンを食べると思い出す小説がある。
それは子供のころに読んだ「にんじん」。フランスの作家ルナールの作品で、にんじんのように真っ赤な毛の少年の物語。
かなり昔に読んだきりなので細部は思い出せないけど、ひとつだけ忘れられないシーンが、にんじんが家族の食べ残しのメロンをウサギ小屋に持っていくくだり。
にんじんはメロンを食べさせてもらえなかったから、メロンってどんな味がするんだろうと、ウサギにやる前に食べ残しのメロンをすすってみたりする。皮に僅かに残った果肉を食べて、その美味しさに驚愕したりする。
ここを読んだ時、私はにんじんを心底可哀想と思った。同じ家族なのに、どうしてにんじんだけいじめられるのだろう。どうして一緒にメロンを食べさせてあげないのだろう。
そして自分を振り返ってみると、家族の中で一人だけ差別されることなどなく、食事だって何だって弟たちや他の家族と同じように与えられたし、食卓も一人だけのけものにされることなく、いつも皆と一緒に囲んだ。おしゃべりしたり、笑ったり、時に姉弟喧嘩したりしながら、にぎやかだ。
メロンだって、子供でも大人同様に等分して食べさせてもらってる。
子供ながらに、にんじんと比べて自分がどんなに恵まれているかと思った。大切に慈しんで育ててもらっている自分。不足のないように温かいご飯、美味しいご飯を食べさせてもらってる自分。そりゃ、時には姉弟喧嘩の成敗を「お姉さんなんだから」の一言でおさめられたりして、悔しい思いをすることはあるけれど。
私の青春時代はバブル期に重なった。グルメブームにもしっかり洗脳され、「これを食べるなら、あそこのじゃないと」とか、変な薀蓄も振り回してグルメ探究をしたこともある。
バブル弾け、自分も年齢と経験を経て、よほど現実的に生きているけど、それでも今だって食べログだの何だのでお店探しもするし、同じ食べるなら、同じお金出すならより美味しいもの、よりコスパのよいものと考える。美味しいものには目がないし、そのためには結構マメに料理もする。
でも所詮、食べ物は食べ物。それ以上でもそれ以下でもないとも思う。
贅を凝らした料理、料理人が丹念に素材を選び、精魂傾けてつくる料理も素晴らしい。
でも、一方では山登りの途中で口にするバナナ一本、頂上でかぶりつく塩むすびに勝る美味はないと思う。
真夏、外回り営業の人に供される一杯の冷たい麦茶は、きっと彼にとっては極上の飲み物だろう。
術後はじめて口にする重湯は、病人にとって天上の食物(マナ)に思えるだろうし、亡き父が毎年鮎漁の解禁とともに釣って食べさせてくれた鮎の塩焼きは、父の記憶とともに私にとって最高の美味の思い出だ。
未だにメロンを食べると、にんじんのウサギ小屋のシーンと、その時の自分の心象風景を思い出す。そして、また思う。
私は幸せだ。こうやってメロンを食べている。メロンを美味しいと言って笑いあい、語り合う家族や友達がいる。
メロンは私の食への思いの原点なのかもしれない。
超特大メロンパフェ、美味しかった! ごちそう様でした!
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