メディアグランプリ

お父さん、パパリン。そして、お父さん。


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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「パパリンは元気にしてる?」
 
1,2か月に一度、わたしはこの質問を口にしている。
 
「うん、元気にしているよ」明るい声で母が答える。
そして、「おとうさーん、娘から電話よーっ!」と離れた場所にいるらしい父に、10年前に嫁いだ娘からの電話を知らせる。
 
いつの頃からだろうか。
わたしは、父のことを『パパリン』と呼んでいる。
もちろん、それは家族だけのときだけの呼び名で、対外的にはちゃんと父と呼んでいる。
思い返してみると、物心ついたときわたしは『お父さん』と呼んでいた。
 
わたしは、幼いころから父が大好きだ。
友達にはファザコンと言われたこともあるくらいだ。
 
とはいえ、わたしはお父さん大好き! と笑顔で抱きつくような娘ではなかった。どちらかといえば、結婚するのならお父さんみたいな人がいい、と父の人となりをみて言っていたような気がする。自分でいうのも何だが、冷静な子どもだったのだ。
 
わたしは、三人きょうだいの末っ子として育った。
母親は甘え上手だった末娘に甘く、よく姉や兄から妹ばかりずるい! とクレームの声が上がっていた。一方、父は全く逆で、きょうだい間の差別をしないと常日頃から明言していた。父は甘くはなかった。より正確にいえば、厳しい人であった。
 
こんなエピソードもある。
 
小学生の6年間、わたしは剣道を習っていた。
三つ年上の兄に続いて何気なくはじめたそれは、兄が中学に入る頃にはわたしにとって意味のないものになっていた。むしろ、日曜の朝に早起きして、寒い中痛い思いをしながら習う苦行のようなものにすらなっていた。
剣道を、辞めたい。
何度も何度も考えたが、思うように両親に伝えられなかった。言うのが怖かったのだ。
5年生になりようやく辞めたい意思を伝えられるようにはなったが、それでもまだ辞めたい理由まで伝えることはできなかった。
例えば友達が辞めるからといった周囲に流されているような理由ではダメで、わたし自身の中にある理由を明らかにしない限り、父は辞めることを認めてはくれなかった。
結局、わたしは剣道と自身の気持ちの整理がつかないまま、小学校卒業まで剣道を続けた。
 
 
中学校を卒業する際、両親に感謝の手紙を書くという恒例のイベントがあった。
わたしは、「両親は厳しかったけど、わたしの気持ちを尊重してくれたことに感謝しています」という想いを手紙に込め、渡した。
父は、厳しいと言われたことが心底意外だったらしい。
 
 
やがて大学生になったわたしは、家を出た。
県外の大学で一人暮らしをすることになり、もともと身体が丈夫でなかった娘を父はとても心配した。嫁入りするような仰々しさで、机、ベッド、こたつ、絨毯、鏡、家電一式……と家財道具を揃えたり、通学の準備を整えたりをしてくれた。
 
当時のわたしといえば、離れている不安はさほどなかったが、義務感のような一人家をでた後ろめたさのような思いから定期的に両親と電話でやり取りをするようになった。
思えば、父と電話で話をするようになったのはこの頃からだった。
そう、そしてわたしが父を『パパリン』と呼び始めたのもこの頃からだった。
 
距離を隔てるようになってしまったからなのだろうか。
自然とわたしにとっての父が、「厳しい父」から「遠く離れて心配してくれる父」になっていた。心配されている申し訳なさと、大丈夫だから心配しないで、という強がりのような背伸びが、『パパリン』と少し砕けた呼び名にとってかわっていたのだ。
 
「パパリン、明日実家に帰るから駅まで迎えにきてくれる?」
 
パパリンと呼び始めても、父は嫌がらなかった。
もしかしたらあだ名のように感じたかもしれない。
けれど、パパリンとの呼び方は、お父さんと呼んでいた頃よりも近く、お互いの存在を感じることができた。
 
 
そうして、今もわたしは父をパパリンと呼んでいる。
同時に、『お父さん』とも呼んでいる。
 
数年前から、こどもたちに「おじいちゃん=パパリン」を伝えるかどうか悩むようになった。正直、わたし自身としてはパパリンで良いと思っている。ただ、分別をつけるうえでは、きっちり「お母さんのお父さん」にした方が良いのではないかと迷うのだ。
悩んだ末、最近は、こどもたちの前では「おじいちゃん」と「お父さん」を使い分けている。
 
こどもたちがいないときは、父はパパリンのままだ。
なぜなら、いつまでもわたしは父の愛娘で、父はわたしの愛すべきパパリンなのだから。

 
 
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2018-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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