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官能小説作家養成講座はサファリパークだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:斎藤多紀(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「編集者と寝て仕事をとったことはありますか?」
その日の講師である美人女性作家に、こんな質問をした男がいた。美人女性作家は、
「いい質問ね。ないわよ。残念ながら、そんなことで仕事をとれるほど甘い世界じゃないの」
と淡々とした口調で答えた。
 
 もう十年以上昔になるが、私は「官能小説作家養成講座」に通っていた。あるマスコミ系の専門学校が、オープンスクールとして一般の人向けに設けた講座だった。週に一回、午後七時からのその講座に通う人たちは、バラエティ豊かな面々だった。スチュワーデス、女性落語家、弁護士、医師、エリートサラリーマン、国家公務員などなど、いろいろな職業の人たちがいた。官能小説作家養成講座だからといって、みんながみんな官能作家になりたいわけではなかった。単に官能的な世界が好きだから、変わった講座だと思ったから興味本位でという人たちもいた。エロに特化した講座だったため、冒頭のようなセクハラとも言える質問も、全然OKな雰囲気。講師の先生は毎回変わったが、どの先生も超売れっ子作家。官能小説を読む人なら誰でも知っている人ばかりだった。けれど、どんな質問にも気さくに正直に答えてくれた。冒頭の質問の他にも、
「今まで何人くらいの女と寝たんですか?」
「小説を書くためにナンパしたりもしますか?」
「書いている間に、ムラムラすることはありますか?」
「官能作家になるとモテますか?」
「官能作家は儲かるんですか?」
などなど、いくらなんでも大御所の先生たちに向かって失礼ではないかと思えるような質問が飛んだ。
 受講生たちは、この講座に通っていることを周囲には内緒にしている人が多かったし、官能小説を読んだり、書いたりするこもを隠している人がたくさんいた。講座に通うことは、密かな楽しみ。だからこそ、講座ではみんな本能全開になるのだ。講座の後の飲み会でも、エロトークが炸裂した。居酒屋の他のお客さんに聞こえたら、変態の集まりだと思われるのではないかと思うような話ばかりして、みんな日頃のストレスを発散していたのだ。それは、まるでおとなしい動物園の動物が、その日だけ野性にかえるようなもの。飲み会が終われば、みんな普段の顔を取り戻し、普通に仕事をする生活に戻っていった。
 
 半年間の講座が終わるまでに、卒業制作として原稿用紙換算で三十枚ほどの短編小説を書くことが義務づけられていた。私はその頃、エステティシャンとして働いていたので、エステサロンを舞台にした女性向け官能小説を書いた。あるところに、超イケメンのエステティシャンが三人いる隠れ家的なエステサロンがあり、値段はものすごく高いけれど、極上のエステが受けられるので口コミで評判が広がる。素っ裸でイケメンに触れられることで、身も心も癒されていく女性たちを描いた小説だ。他の受講生たちの作品も、自分の職業に特化したものが多かった。スチュワーデスさんは、飛行機の中でラブロマンスが発展していく話だったし、弁護士さんは法廷官能ミステリーのような作品だった。どれもおもしろかったけれど、講師の先生方に一番評判がよかったのは、女装趣味のある男性の作品。女装をして日本中を旅する話だったのだが、全編に女装をする喜びやトキメキがあふれていておもしろかった。文章はお世辞にもうまいとは言えなかったのだが、先生たちは
「こういう作品が読者には求められているんだ。文章のうまい下手なんて関係ない。自分にしか描けない世界を、自分が感じたままに書けばいい!」
と褒めまくっていた。
 
 恋愛に積極的な「肉食系男子」と対比して、「草食系男子」という言葉が流行ったのは、もう何年も前だ。今や草食系がさらに進んで、日本人男性は「絶食系男子」になっている人が少なくないと言われている。草食系男子は、自分から女性にアプローチすることはできないけれど、恋愛に興味がないわけではなく、女性に誘われたらおずおず応じるタイプ。一方、絶食系男子になると、もはや恋愛を必要としていない。彼女なんていたら面倒くさいだけ。ひとりでいるのが気楽。恋愛も結婚もしなくてもいいというスタンスだ。
 
 考えてみれば、官能小説作家養成講座に通っていた人たちは、男も女も内面的には超肉食系だった。異常なくらい恋愛に、そして性愛に興味があった。しかし、それを表面に出してしまうと、生きづらくなる。だから、普段はおとなしい草食動物のようにしているのだ。講座に来たときだけでは、野性動物になる。官能小説作家養成講座は、超肉食系の男女が解き放たれるサファリパークだった。講座というパーク内でだけは野獣の顔でいられる。思っていることを自由に伸び伸び発言できる。そんな楽園のような日々を、今懐かしく思い起こしている。

 
 
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2018-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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