夏休みは、ペテン師
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記事:slowman (ライティング・ゼミ木曜コース)
学生の頃、本当に楽しみだった夏休み。
夏休みになるとなぜかしら妙な期待感が高まって
何か楽しいことが起こるような気になったものだが
実際何事もなく終わってしまうことが多く夏休みにはいい印象がない。
もともと何かあると勝手に期待していること自体がおかしいのだが
それは夏休みの始まり方に起因しているようだった。
小学生の頃から、夏休みが始まると同時期に
一週間、地域のお寺が開催していた夏の伝統行事に
多くの参拝者が来て、それに合わせて多くの夜店が立ち並んだ。
日頃は人通りがまばらな田舎町だが、この一週間だけは
地域に住んでいる人の数以上の人たちがこの小さな町を訪れた。
なんの変哲もない田舎の日常がこの一週間だけは賑やかになる。
小学生にとって、夏休みに入る日とこの伝統行事が重なることで
私は、夏休みは「とてつもなく楽しいこと」を運んでくれるものと思うようになった。
その夏休みへの期待感は半端ではない。
学校から課せられる宿題は
夏休みが始まった最初の1週間ですべてを終わらせて
「とてつもなく楽しいこと」に出くわしたならすぐにでも乗っかれるようにと
今か今かと備えていたのだ。
しかし
「何にもない。何にも楽しいことなど、起こらない。なぜ?」
という事実が目の前に立ちはだかる。
そして
「もう夏休みの宿題は日記だけだから、いつでも楽しいことができる。楽しいこと、来い!」
そう期待しながら、8月の第一週が過ぎる。
8月の第二週目、お盆休みに行くのはせいぜい親戚の墓参り。
夏休みが残り少なくなっていることに気づく。
「あと、2週間弱ある。何かあるはず」
楽しいことが来ることに望みはまだ捨てていない。
まだ、楽しいことが来るのではないかと期待している。
8月の終盤、24時間テレビが始まると
「とてつもなく楽しいこと」があるはずの夏休みは
終わりに近づいていることを否応なく実感させられる。
なんだか敗北感を味わうかのような、諦めに似た気持ちになる。
夏休み最終日。
テレビを見れば、「宿題は終わりましたが?」と
テレビのインタビューアーが夏休みの終わりに決まって親子にたずねる質問。
この言葉を聞くと、「あぁ、夏休みはもう終わりなんだ」と絶望感に似た気持ちに。
私はテレビのインタビューアーのこの質問はしっくりこなかった。
というより大嫌いだった。
後2、3日で2学期が始まるのに、テレビでは
「宿題は、今からガンバります!」という親子たち。
「夏休みの間、遊びほうけて宿題を終わらせるのに時間がない!」
そう言いながら、その年の夏休みの最後の日まで
課せられた宿題を終わらせることに全力をかけている。
宿題を夏休みの最後に終わらせるこどもたちには
夏休みの最終日もやはり、夏休み。
翻って、自分は、夏休みの初日から、熱に浮かされたように
「とてつもなく楽しいこと」が来ることを信じた結果
夏休み最後の日は、何もすることが無くて、ただ明日が来るのを待つだけで
「あぁ、明日から学校だ」とユウウツな気分に。
夏休み最終日は、もはや夏休みではなかった。
夏休みが私にもたらした
「とてつもなく楽しいことがある」という勘違いは、
夏休みの最終日にこんな一言に変わる。
「今年も何もなかった」
そう。「とてつもなく楽しいこと」なんてない夏休み。
夏休みは
「今ならいつでも自分が楽しいことができるよ」
と期待させておいて何も叶えてくれやしない。
まるでペテン師のようなもの。
でも、夏が誘う開放感が好きだから、次の年にはまた騙される。
そんなことが学生のころずっと続いていた。
ところで、実家を離れてすでに数年が経っていたが先般、所用があって実家に帰った。
その時が、ちょうど昔、夏休みが始まるのと重なるお寺の夏の伝統行事の開催期間だった。
田舎ゆえ高齢化少子化や、地域の諸事情の影響を受けてか
人っ子一人歩いていない通りを見た。
私が「とてつもなく楽しいこと」があると思うきっかけとなった
昔の伝統行事は、もうそこにはなかった。
さて、社会人になって何十年過ぎ
当然、学生のような夏休みを取ることがなくなった。
夏休みがなくなってから「とてつもなく楽しいことがある」
なんて囁くペテン師も、心の隙間から顔を出さなくなった。
しかし、当時、夏休みをペテン師というのも
自分が勝手に思い込んでいただけで
誰も何も私をダマしたわけではない。
夏休みから離れた今だから
その当時の自分へ夏休みについて伝えたいことがある。
「楽しいことがあると思うなら待たずに自分でそれをやってみろ。
夏休みは機会であって、やりたいことを叶えるのは
魔法使いでもないし、季節外れのサンタクロースでもない。
ましてや、ペテン師でもない。お前だ。自分から動け」
……ほう、そうか。
長い夏休みもなくなったし
昔見たお寺の伝統行事期間の賑やかな通りも
もう見ることはないだろう。
しかし、自分から動くことは昔の自分ではなくても
今の自分からだってできる。
これからは、自分から動くことを心がけてみよう。
とてつもなく楽しいことが寄ってくるかもしれない。
もしかしたら、この気づきが夏のペテン師がくれたギフトなのかもしれない。
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