だから私は、非正規社員の道で生きる
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記事:S (ライティング・ゼミ日曜コース)
「明日から、銀座店に行ってね。店長だから頑張って!」そう言われて、アタマが真っ白になった。大学を卒業して正社員で入社した外食企業の本社で、入社当日の出来事だった。「店長なんて話が違う! やったことないし、やりたくもない! でも、これが社会人の道なのか……」。その一年後、私は転職した。それから30代後半の今までずっと、非正規社員の道を歩み続けている。
非正規社員というと、世間でマイナスイメージが大きい。30代後半になっても派遣社員でいると、周りは心配する。しかし、私は自ら派遣社員を選んでいる。なぜなら、ワガママな私の生き方にぴったりだからだ。
外食企業でいきなり店長を任されたのには、理由があった。私は希望していた本社での業務で採用された。ただし、最初の3か月でまず現場を知ってほしいということだった。入社当日に言われて面食らったが、その理由に納得し、まずは現場で結果を出そうと考えた。
しかし店長という仕事、私には予想以上にキツかった。苦手な接客のほかに、アルバイトとのコミュニケーション、発注や売り上げの管理、PR施策の企画など、さまざまな業務を並行して行う。もともと1つのことに没頭していたいタイプの私には、日々すべての業務をやり切るのがやっとだった。それでも希望した業務に就くため必死に動き、約束の3か月後には売り上げを従来の2倍以上にした。「現場で結果を残した。これで本社に迎えてもらえる!」。そう胸を弾ませていた私に命じられたのは、「よくやった! 次は恵比寿店の売り上げを立て直してきてね」だった。心が折れた瞬間だった。「会社の言うことなんて信じられない!」と思った。でも同時に、「何で、会社に言われるがまま動かなきゃいけないんだっけ?」と、我に返るきっかけにもなった。
そして、考えた。私は何のために、正社員として会社に属したんだろう? 生まれてから、家庭や学校、部活、アルバイト先と、いろいろな組織で、いろいろな肩書きがあった。でも、肩書きが私の全てだったわけではない。私は私だ。それなら、まずは自分の軸を決めることが先だ。自分が何をやりたいのか、どんな状況ならパフォーマンスを発揮しやすいのか、将来どうなりたいのか、性格や精神力、体力まで考えて、それに合った肩書きを選べばいい。そうして行き着いたのが、非正規社員という道だった。その理由は2つある。
1つは、自分のやりたい業務に集中できること。新卒で入社した外食企業では、まず正社員が通るべき道として、複数の業務を並行することになった。それで成長できる人間もいるだろうが、私には向かず、パンクして、自分を見失った。非正規社員は業務範囲が限られるため、自分が希望した業務に集中しやすい。さらに、異動や昇級に伴う業務変更、事務処理、会社イベントの参加など、正社員であれば避けにくいことも辞退できるので、自分のペースで動くことができる。
もう1つは、実績や経験を積みやすいこと。私は外食企業から一転し、業種も職種も未経験の道へと進み直したが、当然、経験不足から、どの企業でも採用されない。しかし、非正規社員であれば受け入れてもらえた。まず経験や実績を積む目的を叶えるのに、ありがたいことだった。さらに、経験や実績があっても正社員では入社が難しい企業にも入りやすい。私が今まで所属した企業は、公に転職者採用をしていない場合もあったが、非正規社員なら枠があった。そして、その企業でしかできない業務や、個人では決して関われないプロジェクトに携わることができて、大きな経験となった。
非正規社員には、当然デメリットもある。経験や実績を重ねると限られた業務範囲では物足りなくなることもあるし、待遇は正社員よりも劣る。どんなに成果をあげても、給与には微々たるものしか反映されない。もしそこに疑問を感じるときがきたら、自分の軸に沿って動けばいいだけだ。非正規社員という肩書きは、私の軸を支える選択肢の1つでしかないのだから。
私は今も、派遣という非正規社員でいる。「まだ派遣社員なの? 早く正社員になっちゃえばいいのに……」。そう言われたら、私は答える。「いや、派遣社員が今の私の生きる道だからさ」と。
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