悲劇のヒロインだった中学生が「覚悟」を突き付けられた話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:濱田 綾(ライティングゼミ・平日コース)
「どんなことがあっても、自分で道を歩いていく覚悟を持ちなさい」
「覚悟」という言葉が熱を帯びて響いてきたのは、あの時が初めてだった。
中学三年生の秋めいた日のこと。
普段はふざけた様子の先生が、いつになく真剣な目をしていた。
その時のことは、今でも私を支える力になっている。
中学生の頃、大好きだった先生がいた。
生活指導の先生で、目を光らせている一見怖そうなおじさん。
だけど、授業はとても面白い人気者の先生。
岡本という名前から、おかもっちゃんと呼ばれていた。
おかもっちゃんの理科実験に関しての熱意は、天下一品だった。
仮説から考察まで、中学生レベルを超えたようなことを求めてくる。
夏休みの課題に「原子力の未来への構想」というテーマの論文を出すくらい。
でも、その分熱い指導をしてくれる。
得意ではなかった理科が、楽しいものなんだと思えたのは、おかもっちゃんのおかげだ。
おかもっちゃんは生活指導の先生だけあって、おせっかいだった。
中学三年生にもなると、進路の話が出てくる。
「どうするんだ。何をしたいんだ」
担任の先生でもないのに、事あるごとに聞いてくる。
あの頃の私は、先のことを考えるのが正直嫌だった。
何がしたかったわけでもなく、何か目標があったわけでもない。
ただ、みんなと同じがよかった。
普通に高校受験をして、そして高校生活を送って。
高校では何のサークルに入ろう。
そんなことを考えたり、「一緒に通学できるね」と言い合える。
そんな風景が、羨ましいなと思っていた。
いろんな事情から、高校受験のことはあんまり考えていなかった。
いや「どうやったら、仕事をして生きていけるか」
そう考えなければいけなかったという方が、合っているかもしれない。
そのためには、簡単にみんなと同じがいいとは言えなかった。
そんな悶々とした思いから、逃げたいなと思う毎日だった。
世の中には、自分の力だけではどうにもならないこともある。
そんなものだと思ってしまった方が、楽かもしれない。
ただ、目の前の日々を楽しく過ごす。
そうやって逃げていた。
それでも、おかもっちゃんは見透かしたように、事あるごとに聞いてきた。
「本当はどうしたいんだ」
「高校に、大学に行きたいんじゃないか」
「本当は、やりたいことがあるんじゃないのか」
次々と心に刺さってくる問いかけから、逃げたかった。
本当は、私がしたいことに目を向けるのが、とても怖かった。
それは、望まれている姿と反することになるから。
どう思われるか。そのことをとても気にしていた。
それに、どうせ無理だし。そう思っていた。
今の環境では、今の私の力だけでは。
自分のやりたいことをやっていくなんて、どうせ無理。
そんな未来ある若者とは思えないような、後ろ向きな思いに支配されていた。
そんなある日のこと。
いつものようにおかもっちゃんが、また聞いてきた。
「お前は、自分の未来を自分で潰すつもりか」
いつものようだけど、いつもの問いかけとは違う。
「どういう意味ですか!」
なぜか恥ずかしいな悔しいような。
でも、それを隠すために私は声を荒げた。
「そのままの意味だ。何かのせいにして、ただ逃げているだけだろう」
「自分の未来に対して、自分で責任を取りたくないだけ。何かのせいにしたほうが楽だもんな」
いつものごまかしは、効かなかった。
一気にとどめを刺されたようで、悔しくて苦しくてやり切れず、その場を立ち去った。
立ち去った後も、おかもっちゃんの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
悔しい。悔しい。悔しい。
何で、私だけそんなこと言われなきゃいけないの。
私が何をしたっていうの。
何で私だけ。
私だって。
頭の中は、私でいっぱいの悲劇のヒロイン気取りだった。
ひたすら悲劇のヒロインになり切った後、ふと気づく。
でも、言われてみればそうかも……しれない。
しょうがないと思ってしまえば、楽な事がたくさんある。
何かのせいにした方が楽だし、まさか自分が悪いなんて考えたくない。
そんなことないよ。頑張っているよ。
そう励ましてもらいたいだけかもしれない。
人と比較して、自分を憐れんでいたのは、自分自身でしかなかった。
自分の甘さを指摘されたようで、悔しくて、認めたくなかった。
でも、悲劇のヒロインのままなのも嫌だった。
どうせヒロインなら悲劇じゃなくて、本当はハッピーエンドがいいに決まっている。
初めて、自分がどうしたいかを考えた瞬間だった。
数日たった、ある日。
バツが悪い気持ちでいっぱいだったけれど、おかもっちゃんに聞いてみた。
「どうしたいのか考えてみたら、どうしたらいいか分からなくなった」
正直な気持ちだった。
どうしたいのは分かったけれど、そこから先にはどう進んでいいか。
迷いに迷っている私に、おかもっちゃんは色んな情報をくれた。
そして、真剣な目で言ってくれた。
「お前は必ずできる。だから、自分で自分の可能性を狭めるのはやめなさい」
「それには、何かのせいにはしない。何があっても、自分の道は自分で歩いていくという覚悟を持ちなさい」
「覚悟」という言葉が、やけに頭の中に響いた。
変わりたい。そう思った。
しばらくして迎えた、中学校の卒業式。
私は、晴れやかな気持ちだった。
そして相変わらず怖い顔だけど、目を細めているおかもっちゃんがいた。
あれから、随分と年月が経った。
おかげさまで、ヒロインとは少しかけ離れてしまうくらい、たくましくなった。
今でもあの時の言葉は、私に力をくれる。
そして、今でも問われているような気がする。
その選択に、覚悟はあるのかと。
自分で選んでいるのかと。
どこを選ぶかでもなく、何を選ぶかでもなく。
そこに覚悟が伴っているかどうか。
それを問えと。
今でも迷って悩むことは、少なくない。
でも「覚悟」は、私にとっての大事な道しるべの一つになっている。
そして、これからも大切にしたい。
悲劇のヒロインに「覚悟」を突き付けてくれた出逢いに感謝して。
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