メディアグランプリ

本当にその人の成長を望むなら、教えすぎるな


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記事:Hawa (ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
わたしが高校3年生の時に通っていた塾の先生は、一風変わった人だった。
その先生が首から吊っているネームプレートの余白には、デンマーク語で「自分でぼちぼち勉強してください」と書かれていた。
だからといって、授業を放棄するわけでもないし、まったくアドバイスしてくれないわけでもない。ただ、「必要以上に教えない」ことがその人のモットーだった。
 
小論文を指導していただいていたのだが、1回目の添削では、
「この段落とこの段落では、論理が崩壊しています」
「ここの部分の内容は、ほかの段落で述べている内容とかぶっています」
などといった客観的事実しか教えてくれない。その先どうするかは、
「あなたが考えてください」
とのこと。
自分で脳みそを絞って、ひねって、書き直して持っていく。それで合格がもらえることもあるし、さらに書き直しを命じられることもある。
3回目ぐらいの提出。脳みそを絞り切って、もう何もでなくなったころ。
ようやく、
「こういうふうに論理展開をすればスマートです」
「このようなアイデアもありますね」
などの具体的なアドバイスがいただける。
もっと早くそれを教えてよ! と何度思ったことか。 
 
極めつけは、
「今日の宿題はどうしましょうか」
という質問。
え? 宿題って、先生が決めてくれるものでしょ? それをわたしに決めさせるの?
 
高校の時は、適当な先生だな、と思っていた。もちろん、小論文の添削もしてくれるし、宿題も確認してくれる。先生の添削のおかげで、ちょっと時間はかかったけれど大学にも合格できた。でも、普通の先生とはちょっと違うなあと感じていた。
 
そのちょっとの違いには、先生の意図があったのだ、と大学に入った今ならわかる。
自分で考えられる人になってほしい。
そう、思っていたんだ、と。
 
大学受験までは、ある程度正解の存在する世界で生きている。
模範解答、と呼ばれるものが存在する問題を解く。塾の先生の言うとおりに勉強すれば、模試で点数が取れて、受験を突破できる。親の敷いたレールを生きる。学校が定めるところの優等生を目指して生きる。大学生になると、模範解答なんてなくなる。大学の授業では、正答をもとめる能力よりも、考えやその論理性が評価される。進路についても、自分が正しいと思うように生きて、自分が目指すべきものを自分で考える。
 
先生は、それを知っていた。だから、ほかの受験生がひたすらに量をこなす中、ひとつの課題にひどいときはひと月も頭を悩ませ、勉強のやり方にも計画にも口出しせず、模試の成績を見せてもそうですか、としか言わなかったのだ。そして、宿題すらも生徒に決めさせる。
もちろん、受験のエキスパートである先生の敷いたレールに乗っかって進めば、生徒の成績は上がるし先生も評価される。みんなハッピーだ。でも、知らないうちにレールに乗せられた人は全く考えなくなって自分の力で自分自身を成長させられなくなる。
 
生徒を本当の意味で伸ばすためには、教えないってことも大事なんだ。自分の指導の価値を生徒が知るのは、いつになるかわからないとは知りながら、それでも自分の信念を貫いたのか。あの先生は、自分が見ることはない、生徒の将来も考えてくれていたのか。
 
なんか、かっこいいな。
わたしは、わたしの先生みたいな先生になりたくて、塾講師のアルバイトを始めた。
 
でも、この「教えない」というのが非常に難しい。
教える以上に難しい。
 
何が難しいって、教えることと教えないことの線引きが非常に難しい。
新しいことを習いに来ている生徒に、何も教えない、というわけにはいかないので、基本的なルール、解き方は教える。でも、そのあと問題を解かせて一発で正解を出す人なんて、そういない。そんな人は、そもそも塾に来ない。
 
勝負はここからだ。
このまま、まったく教えなければ、いつまでたっても進まずに、生徒のやる気がそがれる。かといって、手取り足取り教えると、生徒はいつまでたっても独り立ちしない。最終目標は、自分で考えて、自分が正解と思うものを導くことができるようになること。わかってはいても、ついつい口出ししたくなる。やっちゃった、って思うことも多い。
 
なかなか、自分の先生のようにはうまくいかないけれど、ひとつ発見したことは、生徒自身が「気づく」ことが大事だということ。
 
生徒が自分自身で気づくには、時間がかかる。それが、点数という目に見える成果を生むには、もっと時間がかかる。
生徒の気づきを待っている間は、一見講師は何もしていないように見える。だから、周りの講師からはちょっと白い目で見られてしまう。
 
でも、自分のなかまの講師からの評判が少々悪くても、生徒が成長してくれるほうがいい。
 
だから、わたしは待つ。自分は見ることのない、未来の生徒のために。

 
 
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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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