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メディアグランプリ

お金に困ったときのこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:千葉美紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
さあ、困った。どうしよう。コインパーキングの出口で、わたしは焦っていた。出庫するために必要なお金が、どうしても足りないのだ。
幸い夜遅い時間なだけあって、わたしが出口でモタモタしていても、後ろに車が並んだりしない。いや、不幸にも、だろうか。足りない金額は150円。もし、通りがかりの人に、「お願い、150円を貸して」とか、「150円恵んでください」とお願いしたら、なんとかなるかもしれない。そう思って、辺りを見回しても、誰もいない
 
あー、困ったな。現金か専用の駐車券だけ、受けつけてくれるタイプのパーキングだった。車を逆行させ、駐車スペースに戻す。落ち着いて考えよう。
 
その時は、映画館の帰りだった。以前にビデオで観たことのあった「眺めのいい部屋」という映画の完全版が、レイトショーで上映されていた。大好きな作品だったので、映画館で観ておきたいと、ひとりで出掛けてきた。公開時にロングラン上映された映画だったけど、派手なアクションやサスペンスではない。少し前の時代のヨーロッパが舞台で、好きな人がいるのに、別の人と婚約しちゃったヒロイン、どーすんの? という物語。恋愛ものだけど、ピンクや赤ではなく、白の印象。風景が美しく、映像の世界に入り込みたいと思うほどだ。
 
観に来てよかった。家で観るのも気軽で良いけど、映画館で観るという体験で、映画がより味わい深くなると思う。映画の世界観を胸に、幸せな気持ちで家に帰るはずだった。
 
ところが、今はお金のことで、頭がいっぱい。レイトショーの映画は、サービス料金で1200円、駐車料金も映画館併設のパーキングで半額になるし、パンフレットを買ったとしても、三千円あれば足りる。そう計算して、ちょうど三千円だけをお財布に入れてきた。何を間違えたんだろう。
 
もういい歳したおばさんが、お財布からっぽにしちゃうって、どうなのよ。映画の前に飲んだコーヒー代? パンフレットも迷いつつ、買ってしまったけど予算内。駐車時間を読み間違えたか。どこかで、落としちゃった?
 
車を置いて帰るにも、電車代だってない。150円のために、借金を作るのも、危ない気がする。こうなったら、映画館の人にお願いしてみよう。恥ずかしいけど、背に腹はかえられない。
 
わたしは、重い足取りで、映画館の中に引き返した。カウンターには、ちょっとかっこいい、若い男性スタッフがひとり。嫌だな。緊張するじゃないか。
 
「あの、すみません。駐車料金を払うお金が足りないので、このパンフレット返品してもいいですか?」
パンフレットは手放し難かったが、また明日来て買えば良いと考えたのだ。
「えーと、どれくらい足りないんですか?」
「150円ほど……」
「それなら、大丈夫ですよ。これを使ってください」
そう言ってスタッフさんは、100円の駐車券2枚を差し出して、ほほ笑んだ。背景に花を咲かせたいくらい、素敵な笑顔だ。
「いえ、でもパンフレットを……」
「返さなくても大丈夫です。非常用の駐車券なので、使ってください」
「非常用、ですか。本当にすみません。ありがとうございます」
単なる不注意から、勝手に非常事態を作り出してしまった自分を恥じた。御礼を伝えて、立ち去ろうとするわたしに、スタッフさんは言った。
「また来てくださいね」
「はい、ありがとうございます」
恥ずかしいので、少し間をあけて、また来ますね。必ず。
 
車に乗り込んで、無事に駐車場を脱出した。良かった。助かった。神対応って、こういうことか。眺めのいい部屋の景色は、吹き飛んだけど、人の優しさが嬉しい夜だった。スタッフさんに感謝して、たくさん映画館で映画を観て、恩返ししなければ。その時は、飲み物やパンフレットやグッズをたくさん買い込んでも大丈夫なように、お財布には余裕を持たせてこよう。もう迷惑を掛けないように。
 
大人には余裕が必要だ。少しだけでいいと思う。持ち歩くお金のことだけじゃなく、気持ちにも、時間にも。今度、誰か困っている人がいたら、わたしも親切にしよう。暗い夜の帰り道、心に誓った。
 
***

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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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