メディアグランプリ

1%の才能がない私は、天才になることを諦めた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
 
 
どんどん差が開いている。
同じだけ練習しているのに、私の方が長く続けているのに。
隣で歌っていたはずの友人の背がどんどん遠くなる度、劣等感だけがボコボコ増えていく。
「一緒に頑張ろうね!」
そうやって笑顔を向けられる度、何度『頑張ってるわ』と言い返しそうになるのをこらえたことか。
それでも「うん」と笑って誤魔化すことしか出来ない私は、その時点で負けていたのだろう。
……天才が憎い。妬ましい。羨ましい。
……自分が凡人だなんて、これ以上知りたくない。
自分のたいしたことのなさを、他人への負の感情に変換しては、自己嫌悪する。
「勝てないなあ」
天才は1%の才能と99%の努力で出来ているらしい。
100%のうちのたった1%。
“たったそれだけ”を、私は未だに手に入れることが出来ない。
 
私は“天才”じゃない。
だからといって何も出来ないわけじゃない。
「ねえ、これできそう?」
「おっけ。やっとく」
頼まれるタスクは様々で、もちろん出来るものだけ引き受ける。
そう、“出来ないわけじゃない”のだ。
正直、なまじ大抵のことはこなせるタイプなんじゃないかなって。こんなこと言ったら、白い目で見られそうだけど。
「コバヤシって、結構何でも出来るよね」
何かしらコツをつかめば、まあ、大体なんとかなる。
だから、全く困ることなんてないのに。
「いやあ、やっぱり○○は格が違うなあ」
同じことをやっている人との差を、耳で、心で感じるとき、私はやはり“天才”じゃないのだと落胆する。
“何でも出来る”けど“何にも成せない”。
せめて突出したなにかが有ればいいのに、私はやはり器用貧乏から抜け出せないのだ。
 
とはいえ、青春から抜け出した私は、器用貧乏ながらも幸せに暮らしていた。
高校時代まで続けた音楽から距離を取って、デザインの勉強を始めたのだ。
「ねえ、この部分のさあコレ。どっちがいいけ」
「え〜、右の方がいいかなあ」
誰もが始めたばかりで平等なコミュニティは、ぬるま湯のようで心地よかった。
争わず誰かと協力して作品を作り上げることは、全く劣等感を感じることがなかったのだ。
……もちろん、私以外の誰かのデザインが選ばれることもあるけど、それに対して負の感情を抱くようなことはない。
それどころか、「おめでとう!」と心から言えるようになった自分に、成長を感じる!
「ああ、ここが私のいるべき世界だ」
ぬるま湯のような生活でも、私は幸せになれる。
たった2年間勉強したデザインは、就職先で役立つか微妙だけど。
また1つ出来ることが増えれば、器用貧乏な私はもっと幸せになれるはず。
そう信じることで、夜もゆっくり眠れるようになったのだから、やっぱり私は凡人で良いのだろう。
 
「よろしくお願いします!」
「あ、はい、よろしくお願いします」
そんなぬるま湯のような生活を続けていた私は、いつの間にか2年生になっていた。
しかも、約1年ぶりに後輩なんてものも出来てしまったのだ。
どうやら今度あるデザインコンペに向けて、ゼミ志望の1年生と一緒に制作するらしい。
そういえば、去年の私も同じことをしていたな、と少し懐かしくなる。
「じゃあ、作業に」
部門ごとにチームに分かれ、早速作業に取りかかったとき、私はまだ知って間もない後輩に、得体の知れない違和感を感じた。
……なんだろう、ペースがはやい?
別にデザインがめちゃくちゃイイとか、作業ペースが速いとかじゃないのだ。
ただ、アイディアを出すペースが、過去の私に比べ段違いに早い。
「先輩! できました!」
気づけば未だスケッチブックの半分も埋まっていない私の前に、デザイン画が2つ現れていた。はやい、はやすぎる!
……もちろん私の目から見ても、このデザインはまだ拙い。
でも、1年たったら? このスピードでアイディアを出し続けたら?
きっと2年になったら、今の私と比べものにならないくらい上手くなるのだろう。
「うん。そしたら」
今は私がアドバイスなんてしてるけど、すぐに追い抜かれる。
「勝てないなあ」
だって、私の目にはもう、“天才”になった後輩の未来が見えているのだ。
 
「くやしい」
 
ぼつりと浮かんだその言葉に、ぎょっとする。
もう一度ディスプレイを見返すけど、そんな言葉どこにも書いてなくて、首をひねった。
やっぱり、ゆっくり寝ていたはずの時間を、徹夜作業なんかに当てているのがいけないのだろうか。
寝ぼけているのかもしれない。もう寝た方がいいんじゃないか。
……でも、ソワソワして眠れないのだ。
目の前には、たくさん没になったデザイン画が散乱している。
せめて、1つ完成させたデザインを持って、明日すました顔で後輩の前に座りたい。
「勝てないけど」
“天才”じゃない器用貧乏が、追い抜かれるまで必死こくのも悪かないじゃないか。
1%の才能がない私は、天才になることを諦めたけど。
100%+1%の努力をすれば、器用貧乏を抜け出すことは出来るはずだから。
「おはよ。どんな感じ?」
目の下の隈は、化粧で隠して。
もう少しの間は、“天才”の卵の前でも牙を研ぎ続ける私でいさせてほしい。

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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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