メディアグランプリ

夢が叶わなくて良かったなと思った日


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記事:吉田けい (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「お母さんは、どうして学校の先生になったの? 子供の頃からなりたかったの?」
「別に、そういうわけじゃないなあ」
「じゃあ、どうして?」
 畳みかけるような娘の言葉に、母は首をかしげて続けた。
 
「他に選べるものもなかったし」
 選択肢がない、ということは、私には思いもつかなかった。
 
 
 十年日記をつけて、もう二冊目の二年目になる。親友の父がつけている、というのをきっかけに始めたものだ。飽きっぽいので空白の日も多いが、異動や転職、誕生日や年末年始の節目などに記入しているだけでも、振り返ってみると面白い。二冊目を始めるにあたって、私は一冊目を振り返った。
 
「わ、このあたり、仕事の愚痴ばっかりだなあ」
「確か、ずっと愚痴ばっかり十年間書き続けるのは嫌だな、って思ったんだよなあ」
 
十年後も愚痴ばかり言うのは嫌だと思い立った私は、仕事やプライベートの希望や目標をメモしていた。当時、超長期目標を立て、逆算して日々の行動に活かす! というノウハウものにハマッていたのでその影響だ。その時のメモも十年日記と一緒に保管していた。
 
「どれどれ……結婚して、子供ができて。家はこんな感じで……」
 
わくわくした気持ちを表すようなイラスト付きのメモを振り返ってみると、大枠ではだいたい叶っているような気がした。私はすっかり気をよくして、二冊目も同じように目標を考えようと思い立った。十年日記ひとり振り返り会は、息子が生まれてくる前に良く行っていた。次の十年後と考えると、息子も小学生になっているはずだ。その時に、私が叶えていたい事はなんだろう。
 
「この子が元気に育ってくれることが一番! でも、育児以外にも、何かに真剣に打ち込んで、毎日楽しく過ごして、その姿を見せてあげたいなあ」
 
 私の現在の仕事は、夫の会社の事務経理やサポートだ。必要な仕事で責任感を持って取り組んでいるが、毎日経理処理してハッピー! というわけではない。この仕事と育児とは別に、十年間じっくり取り組むことが出来る、新しい夢が欲しいな、と考えた。
 
「夢、か……」
 
 一冊目の十年日記に書いた超長期目標は、ばっさり言えば、結婚して家庭を持ち生活基盤を整える、というものだ。仕事はそのためにお金を稼いで来るもの、という認識である。さらにその仕事も、自分のやりたいことを求めるというより、目の前のこと、その時所属している組織のことについて、問題解決やら改善やらルーティン作業やらに取り組むことだと考えていた。この姿勢は夫の会社に対しても同じだ。夫の会社を辞めることは当面ないし、夢とは、仕事というよりは、趣味やセカンドビジネスのようなものかな、とイメージした。
 
 夢の叶え方なら知っている。
十年日記一冊目と同じように、ワクワクすることを書き出せばいいのだ。
子供の頃から好きだったこと、なりたかったものを改めて書き出してみよう。
 
 私はノートにペンを走らせていくうちに、ワクワクするどころかどんどん気分が落ち込んでいった。クレープ屋さん、声楽家、宇宙ステーション勤務、小説家、国際公務員。その他小さなものも書き出していけばいくほど、あれだけ未来を思い浮かべて心躍らせていた夢たちが、何一つ叶っていないことに気が付いたのだ。あの時、歌のレッスンをずっと続けていれば。小説を書く意識をずっと保ち続けていれば。大学院に入ったのは、国際公務員になりたかったからではなかったのか。
 
「……あんなになりたかったのに……」
 
 夫は一念発起して立ち上げた会社を八年以上黒字経営しているし、友人たちも選んだ道で輝かしく活躍している。私も頑張っていたはずだけれど、目の前に新しい面白い事があると、ついそちらに飛びついて、もともとの目標を忘れてしまう。父と母は移り気な娘をどう思っていただろうか。どこかで「あんた、クレープ屋さんはどうしたの」と言ってくれてもよかったのではないか。
 
そんな責任転嫁な文句を言うわけではないが、ある日母に、母の昔の職業のことについて尋ねてみると、母は淡々と、他に選べるものもなかったしね、と告げた。
 
 教育学部しか受けられなかったしね、と付け足した言葉は、私の耳まで届かなかった。私は自分が夢をかなえられなかった理由をあれこれ並べ立ててぐだぐだしていたことを心から恥じた。母が将来を夢見るような年頃の頃は、女性の大学進学率も、社会進出率も、今とは比べ物にならないほど低かった。そのことを知識としては、数字としては知っていたはずなのに、血のつながった母とそれらのデータが結びついていると、今の今まで気が付くことができなかった。母からは、夢を取り換える娘は、贅沢なことをしているように見えたのではないかと思ったのだ。
 
 私は今、いろいろな夢を叶えられる、贅沢な時代に生きている。夢が叶っていなかったから、そのことに気が付けたのかもしれない。
 
 一人振り返り会の時に私のお腹を蹴っていた息子は、今一歳になったところだ。どんどんあんよが上手になり、最近は階段の上り下りを熱心に練習していて、小さな段差ならひょいと飛び降りるようになった。ついこの間まで、おそるおそる後ろ向きになって尻から降りていたのだから、素晴らしい速さで成長しているなと実感する。彼が成長していく上で、夢や目標を叶える方法を一緒に考えてあげたいと思う。私の夢は叶わなかったもの、まだ叶っていないものばかりだが、十年日記と一緒に応援していきたい。

 
 
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2018-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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