ずっと、道なかば。
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記事:Hanao(ライティング・ゼミ日曜コース)
私はたばこが好きだ。
だけど、たばこを吸っている自分のことはずっときらいだった。
喫煙者になったのはごくごく単純で、大学生の時に行った合コンで隣に座った男の子にすすめられたのがきっかけだ。初めてたばこを吸うと、だいたいの人がむせるというけれど、私はそんなこともなくすんなり受け入れられた。特別おいしいとも思わなかったけど、特別まずいとも思わなかった。当時は今よりもずっと喫煙者に寛大な世の中で、喫煙できる場所は至るところにあったし、吸っていることを特別悪いことだとも思っていなかった。
しかし、時代は変わり、喫煙者に対する風当たりがだんだん強くなってきた。
喫煙者が目に見えるように減っていき、たばこを吸うことにだんだんと罪悪感が生まれるようになってきた。慢性的にいけないことをしているような気分。身体にも悪いし。そうやって徐々にたばこを吸っている自分のことがきらいになっていった。
そしてもう一つ。世の中に「喫煙できる場所」が日に日に少なくなっていった。外出してもまず、喫煙所をさがす。友達と食事や飲みに行ってもたばこを吸えるかどうかが気になる。これが何よりも一番のストレスだった。イライラしながらたばこを吸えるところを探している自分。だったらやめたらいいのに、と思うのだけれど、「たばこをやめたら私は何でストレスを発散するんだろう?」と不安に思う自分がいた。
「あれ? 何かおかしくない?」
そう、「ストレス発散」と思って吸っていたたばこが「たばこを吸う場所を探す」という新たなストレスを生んでいた。いつの間にか私はたばこに支配されていたことにふと、気が付いた。そしてこれが禁煙するきっかけとなった。
私が禁煙のためにしたことは、「禁煙セラピー」という本を読むこと。そして禁煙外来に行くことだった。私の周りには「禁煙セラピー」を読んでたばこをやめた人がたくさんいたので、その本に何が書いてあるのか単純に興味があった。だけど、喫煙者だった頃は読むのがとても怖くて手が出せずにいた。どうせ、たばこは体に悪い、とか誰でも知っていることが書いてあって、無理やり説得させてたばこをやめさせる方向に持っていくようなものだと思っていたからだ。
だけどその本は想像とは全く違っていた。「セラピー」とつくだけあって、カウンセリングのような穏やかな印象。いろんなことが書かれてあった中で、もっとも私を納得させたのは、禁煙は身体的な離脱症状はなく、精神的なものだけだ、といったようなことだったと思う。つまり、麻薬やアルコール依存からの脱却時とは違い、禁煙しようとしても幻覚・幻聴が出たり、手足が震えるなどの身体的な症状はない、ということだった。気持ちの面でどうにかなれば大丈夫。これが妙に私をやる気にさせた。
もう一つの方法、禁煙外来では薬を服用しつつ、カウンセリングを受けた。処方された薬にはたばこをまずくさせる作用があり、最初の一週間は服用しながらたばこを吸ってもよい。だけど、薬を飲むと想像以上にたばこがまずく感じる。とにかくまずい。大好きだった味なのに到底吸えるものではなくなっていた。おかげで3日目には吸うのをやめてしまった。病院には定期的に通って呼気検査をして、本当に吸っていないかの確認をしてもらう。そしてカウンセリングを受ける。早々にたばこからは離れていたので禁煙に成功した気分になっていたが、先生にはこんなことを言われた。
「意識的にはやめたと思っていても、潜在意識というか、脳の奥深いところにはまだまだ残っているから、とにかく『1本だけ吸う』というのをしないようにしてくださいね。1本吸ったら、100本吸うことになりますから。1本だけならいいやと思うことをやめてください。そしてそれを続けてください」
確かに、普通に生活している分にはそれほど誘惑もないし、吸いたいと思うこともあまりなかった。だけど、たばこを吸う夢はとにかくたくさん見た。吸う夢をみて『吸ってしまった!』と驚いて飛び起きたり、心臓がばくばく鳴ることが何度もあった。これが先生の言っていた「脳の奥深くに残っている」ということなのか。だとしたら、たばこの夢を見なくなるのはいつなんだろう? と、怖くなると同時に思った。
死ぬまで禁煙中だと思って日々を積み重ねていくしかない、と。
禁煙はずっと、道半ば。永遠にマラソンの20キロ地点なんだ。
私はあの薬服用3日目から7年間たばこを吸っていない。けれども今も時々たばこを吸う夢を見て飛び起きるし、喫煙所の近くを通るとたばこのにおいがして懐かしくなる。たばこを好きな気持ちはいまでも変わらないけれど、一番の変化は、吸っていた時の自分よりも吸っていない今の自分のほうがずっとずっと好きな気がしていることだ。
理由は、たばこの支配から解放されて自由になれたから。そして、それ以上に「7年間継続できた」こと自体が、次の1日、1年に新しい自信と勇気を与えてくれるからだ。
それは、追い風に乗って走っているようなとてもいい気分。
そして、このいい気分のまま20キロ地点を抜けられるよう、ずっと走り続けていきたいと思っている。
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