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普通ってなんだ?


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記事:わしお あやこ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「え? そんなに長い間、海外に行ってないんですか?! 英語話せるのにもったいない」
15年ほど海外に行っていないと私が言うと、大抵の人はそう反応する。
彼らの私に対するイメージは「チャンスがあればすぐに日本脱出をしている、気ままな旅行好き」と言ったところだろうか。本当に、この誤解はかなりの高確率で発生する。
 
……残念ながら、脱出していない。
ご期待に沿えなくて誠に申し訳ないが、私は旅行が苦手だ。まったく旅行に行かない、というわけではないけれど、基本的にインドア派だ。自分の部屋がこの世で一番落ち着く場所なので、社会性とか、世間体とか、もろもろの社会的責任とか、そういうものをすべて放り出していいのなら、おそらくずっと部屋で映画を観たり、本を読んだり、語学の勉強をしたり、絵を描いたりしていると思う。
 
そしてもう一つ、大きな理由がある。私は飛行機が嫌いなのだ。国内移動、アジア圏の移動程度なら問題ない。が、北米、ヨーロッパ等への移動となると、10時間以上あの箱の中で過ごすことになる。あの箱の中で、私はほぼ100%の確率で眠ることができないので、その10時間は文字通り忍耐タイムだ。映画を何本も観て気を紛らわし、隣のいびきは聞こえないフリをして本を読み、晴れて飛行機から降りられる時は足も顔もぱんぱんに浮腫んでいる。数少ない飛行機の思い出は、大体そんな感じだ。
 
確かに私は、子供の頃から異文化に興味があった。だから英語にも興味を持った。そして確かに、英語を話せると色々と便利ではある。きっと海外旅行も、まったく話せない人よりはハードルが低いだろう。
だけど、語学学習の目的は旅行、という発想は少し単純すぎやしないか? 私は旅行は苦手だけれど、それでも英語を勉強しておいてよかったなぁ、と思う出来事はたくさんあった。それだけじゃだめなのか? 
 
インドア派の語学学習者がいて、何がいけないのだ?
いや、誰かに責められたわけではない。でもこの手の固定観念の押し付けに関しては、正直ちょっとくたびれている。
 
この現象は、日本で顕著に見られるものだろうな、と、私はずっと思っていた。
同属意識を重要視する国民性だし、その「みんな一緒」の概念が「普通○○でしょ」という、ステレオタイプの押し付けになりがちなんだろうな、と思っていた。実際、外国人の友人達にこの話をすると、共感してくれた彼らは、自分が日本で経験した「固定観念押し付けあるある」について、色々と教えてくれた。
 
・黒人というだけで、音楽はHip Hopが好きだと思われる
・黒人というだけで、バスケが得意だと思われる
・宴会の席では大抵「お箸使うの上手ですね」と言われる
・日本語で会話している時、相手の声が小さくて聞こえないのでと聞き返すと、日本語を理解していないと思われて、改めて英語で説明される
などなど……日本人のイメージする「外国人」を押し付けられた経験が、山のように出てきた。
 
彼らのエピソードを聞きながら「やっぱり日本人は、固定観念を押し付けがちなのかなぁ……」と、日本人の一人として、かなり複雑な心境になった。
 
が、その時ふと、私は、ある出来事を思い出した。
 
それは、数年前に私が、日本に来たばかりのアメリカ人夫妻と話をしていた時の事だった。
まだ日本の暮らしが短かった彼らは、まるで旅行者のように、日本の何が気に入ったかを熱く語っていた。そして話題が食べ物に移った時、旦那さんが興奮した様子で、某カレーチェーン店に対する愛を語り始めた。
しかし「日本のカレー最高だよね!」 と熱く語る旦那さんとは裏腹に、私の気持ちは冷めていた。
 
私はその店に一度も行った事がなかった。
だって私は、カレーがあまり好きではないから。
 
強烈に驚いた顔の彼が、そこで一言言い放った。
「……君は本当に日本人かい?」
 
確かにラーメンとカレーは、日本を代表するソウルフードだ。(ここにおいては、日本人の好みに合わせて完全改良されたバージョンを適用します)だけど、ラーメンとカレーがさほど好きではない日本人がいてもいいではないか。ラーメンかカレーが(もしくは両方が)嫌いであることは、私達のアイデンティティを揺るがすほどの事なのか?!
 
あの時、私が抱いた複雑な気持ちは、旅行好きだと誤解された時に抱くそれと、とてもよく似ていた。
 
 
結局、人種も国籍も関係ないのだ。
人種も国籍も年齢も性別も関係なく、人間は無意識のうちに何かを想定し、決めつけて日々を生きているのだろうなと思う。そして、押し付けられるのは嫌だ、うんざりだと書きながら、私自身も毎日、自分勝手な無意識の「普通○○でしょ」を誰かに押し付けているのだろう。
 
知らないものは不安を誘うから。不安を拭うために、形の符合しないピースを、無理矢理既存フォルダという枠に入れ込もうとする。
 
私の経験は、大した話ではない。笑い飛ばしてお終いの、単なるネタ話だ。
けれど、この「普通○○でしょ」の持つ破壊力を、軽視してはいけないな、と思う。自戒の意味を込めて、そう思う。私はできるだけ誰かに「普通○○でしょ」と言わずにいたい。無意識のレベルだとしても、変えていきたい。人間関係において、それが良い結果につながる事は、そうそうないように思うからだ。
そのために、まずは相手の顔をちゃんと見ようと思う。何を考え、何を感じて生きている人なのかを、じっくり見てみようと思う。自分の「普通」を押し付ける前に。自分の「普通」が、大切な出会いを壊してしまわないように。
 
その人の顔をちゃんと見る事。それがきっと、相手の「普通」を知る第一歩だ。
自分の「普通」を押し付けない第一歩だ。
相手の顔を、ちゃんと見よう。

 
 
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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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