メディアグランプリ

結婚前夜に捨てたもの


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記事:鷹野サヤカ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「日記なんて、捨ててしまおう」 と決心した。
明日には結婚して、引越し業者が来て、夫と二人暮らしになる。私の結婚前夜は、もう少しロマンティックなものになるかと思いきや、部屋と思い出の片付けに追われていた。ダンボールの山が積まれている。
中学生頃から書きためた日記は何十冊もある。
わたしはこの日記を生涯、夫から隠し続けることができるだろうか? たぶん、無理だ。
しかし、日記を実家に置いていくのもリスクがある。両親にこっそり読まれるのも嫌だから、やっぱり手元に置いておかないと不安だ。
そもそも、わたしが交通事故や災害などで急死したら? この日記は恐らく遺品として、みんなに読まれてしまうだろう。私が死んだら、日記も同時爆破できる仕組みになっていれば安心して死ねるのになぁ。と、バカげたことを本気で考えていた。
10年以上にわたり、この日記を捨てられなかったのには理由がある。1年に1度ほど読み返すたびに、面白おかしくて甘酸っぱい青春時代を思い出すことができるからだ。「このエピソードはひどい!」と思いながらも、不器用ながらに頑張っていた頃を思い出すと、勇気が出る。
日記の中身は、ほとんどが恋愛系だ。昔の彼氏とは何回目のデートで告白されたとか、浮気したとか浮気されたとか、そろそろ別れようかな、とか。この日記を見れば私のすべての恋愛遍歴が丸裸になってしまう。元彼に対して「彼にめぐり会えたのは奇跡……」というような恥ずかしいポエムもたくさん。その1週間後には、「男なんてどうせ通過点」みたいな格言じみた言葉まである。過去の私、面白すぎる。
だが万が一、夫が見たらどう思うだろう? きっとドン引きされるだろうなぁ。
「なら、日記を捨てればいいじゃない」と言われるかもしれない。今まで、私が日記を捨てられなかったのには理由がある。
昔読んだ、さくらももこ先生のエッセイに影響されたのだ。
さくらももこ先生が、「小学3年生からの日記を残しておいたから、あの名作『ちびまる子ちゃん』が描けた」というエピソードを読んだからだ。
私はこのエピソードに鮮烈に影響を受けており、「過去の日記を残しておけば、私も人気漫画家やエッセイストになれるのではないか?」という可能性を残したかったのだ。だから、ずっと日記を捨てれずにいた。
私の昔の将来の夢は小説家だった。ちなみに私は、小説なんて1つも書き上げたことがない。「小説家になりたい」なんて、私はそろそろこの野心を捨てた方が良さそうだ。日記を残しておいて人気小説家になれるかもしれない可能性と、夫に日記を読まれる可能性のリスクを天秤にかけたら、どう考えてもこの日記は捨てたほうがいい。
「それでは日記は捨てて、内容はすべてデータ化すればいいのではないか?」とも考えた。しかし、今時はデジタルデータのほうだって、いつどこで流出するか分からない。むしろ、私のスマホやPCで日記のデータを見れてしまうなんて不用心すぎないか?
夫の職業はプログラマーである。日記のまま残しておくよりも、データのほうを先に発見されてしまうんじゃないかと思う。
やはり、日記はこの世から抹消せねばならない。
そう思い、私はゴミ袋にえいやっ! と日記数十冊を放り込んだ。
胸がズキズキと痛む。このまま部屋に残しておけば、また気が変わってしまうかもしれない。早く捨てなければ。
外のごみ収集BOXまで持っていくために、日記の入った袋を持ち上げたが、重すぎる。これが十数年の思い出の重みってやつか。軽く10kg以上ありそうな気がする。
アパートの階段を降りようとしたが、ゴミ袋が重すぎた。休憩を挟もうと思った。ゴミ袋を床に落として、ふと空を見た。
深夜2時の空は、星がきれいに輝いていた。
まるで私の新生活を応援してくれているみたいだ。
明日から、夫と二人暮らしになる。
足かせになりそうな、昔の日記なんていらない。昔の思い出は心の中にだけ置いておけばいい。そのうち忘れてしまってもかまわない。これから、夫と新しい思い出を作っていけばいいのだ。
ごみ収集BOXにたどり着いた私は、日記を捨てた。これで本当にさよならだ。
そして朝が来て、引っ越しがはじまって、夫と二人暮らしになった。
結局私は、日記を書くのをやめられずにいる。
予想外なことに、日記をソファに放り出しておいても、夫はちっとも読もうとしない。2人暮らしになったからといって、相手に読まれても構わないような日記を書こうとすると、ちっともストレス発散にならないし面白くないから、ちょうどいい。
やはり結婚相手として、夫は最高の人間だったのだ。
今度こそ、小説でも書いてみようかな。
好きなことを好きなだけ書ける生活は、まだまだ続きそうだ。

 
 
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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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