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鉱脈を掘りあてろ ~ 私の読書放浪記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: 小林 千鶴子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「鉱脈を掘り当てろ」
 
稀代の読書家だった友人が「弟子」の私に教えてくれた極意。
良い本を選ぶコツは、「鉱脈を掘り当てろ」。
 
まず、好きな著者を見つける。
そして、その人の著作を読む。一冊だけでなく、複数冊、なるべく多く。
作品の中で引用したり、言及したり、参考文献にあげている本を追う。
そうこうしているうち、鉱脈のようにパーッと読むべき系譜に光があたる、とこういうわけだ。
 
光ある方向に進むと、また「これだ!」と思える著作家にぶちあたる。そしたら、そこでもまた同じ作業を繰り返す。
 
それが本選びの極意。鉱脈を掘り当て、掘り進むということ。
 
そんな極意を授けられたのは、四半世紀も前。私の目が小さい活字を追うに何の不便もなかった頃のことだ。
 
師の仰せに従って、どれだけの本を読み、買い込んだことだろう。
ほしかった作家の全集に神保町の古書店で遭遇。「さっき入荷したばかり」と言われてその偶然に天にも昇る心持となり、即買い。嬉しさのあまり靖国通りをスキップしたことも。
 
並べた本、積んだ本の前にいるだけで幸せだった。
テレビも殆ど観なかったから、専ら娯楽といえば読書。旅行に出るにも本を数冊。読み終わって、もう読むものがなくなると、うろたえてしまうほどの活字中毒だった。
 
就寝時も本さえあれば大丈夫。本は私の入眠剤。本を読んでいると安心し、すっと眠れる。だから、私の枕元の電気はいつもついたまま。
 
図書館には行かなかった。
本は自分のものでないと、思い切り読めないから、無理してでも買った。気になる頁を折ったり、傍線引いたり書き込みしたり。借りた本ではできないから。
 
読書は、他人の人生を追体験したり、今自分が生きている時空を超えて、自分以外の自分になれる時間。
読書は、今まで知らなかったことを教えられて、目の鱗がおちる時間。
読書は、哲学の時間。「どうしてだろう」、「どうすればいいのだろう」、「自分はどうしたらよいのだろう」。
 
仕事関係の本は読まなかった。ハウツーものも読まない。現実的すぎるものは読まなかった。
 
読書は現実逃避だったのだろうか。
 
それでも、どうしても読まなくちゃならない資料など出てくる。つまらなかった。身近にあるだけで、気分が鬱々した。
 
老眼が始まり、活字を追うのに不便が出てきた。また、仕事上読まなくてはならないものも増えてきた。それに、読書以外の娯楽がみつかった。
そしたら、私は読書にあまり興味がなくなってしまった。
 
311が起きた。
 
テレビをつけると被災地の惨状が映し出され、Twitterでは緊急の要請が流れてくる。東京は計画停電こそあったものの、私の生活は表面的にはいつも通り。
ただ、何かしなくてはいけないと思った。義捐金や支援物資を送るのは当然だけど、自分のできることには限りがある。そんな時、某書店の「売って支援」というプログラムをみつけた。本を売った金額に数パーセントを足して被災地への義捐金として送ってくれるというもの。
 
私が鉱脈を掘り進んで集めてきた本を、数年かけて何度にも亘って、そのプログラムへと送った。幾らくらいになったか皆目わからないけど、雀の涙にしかならなかったのかも知れないけど、愛情かけて選んできた本達だったから、最後に人の役に立ってくれれば嬉しいと思った。
 
そして、本当に必要な本だけが残った。
本だけでなく、衣類も食器も何もかもが断捨離されて、私は身軽になっていった。
 
この夏、私は仕事で大きな転機を迎えた。それは理不尽とも思えるもので、給与は大幅カット。職務内容も変わり、私はサポート的な役割を担うようにと命じられた。要するに、責任のある仕事は免除された。
 
悔しかった。
でも一方で、仕事に対して劣等感があり、ついていくのに必死で、「読まなくちゃ」という資料をため込んでヒィヒィ言っていたから、そういうものをバッサリ捨てたら、自分の気持ちがスッキリした。
「これからは、自分が読みたいものだけを読んでいいんだ!」
 
新しい目標もたて、計画もたてた。つくづく自分は楽天的だと呆れもし、安堵もした。
 
暮らし向きも変えなくてはならない。無計画なお金の使い方を改めなくては。
 
本も買わない。図書館で借りるようにしよう。一度読んで、座右の書にしたいと判断できたら買えばいい。かつて「本は自分のものに」を信条にしていた頃とはコペルニクス的転回だ。
 
幸い区立図書館が自宅の近所にある。初めて足を踏み入れ、利用者カードを作り、図書館内を一望。書棚から一冊選んで借りてきた。
それがたまたま鉱脈に通ずる本だったらしい。そこから、読みたい本が次々と生まれた。
 
ありがたいことに現在の図書館には検索システムがある。区内の図書館にある本なら取り寄せてくれるし、予約もできる。そうやって私は次々に本を予約し、借りては読書を楽しんでいる。
自分の本だと期限なしにダラダラ読んでしまい、途中でリタイアということもままあるが、貸出期間が決まっているから、気持ちを集中させて読書できる。
ひと様の本だから、丁寧に扱う。それは面倒なことでもあるけど、ものを大切に扱うということは、結局は自分をも大切に扱うことだから、気持ちがいい。
 
「鉱脈を掘り当てろ」という師の言葉は、単に読むべき本の系譜を探せということではなく、「心の糧」を探し当て、自分の人生を豊かに生きなさいということだったのかも知れない。
 
本には馥郁たる香りがある。香りを嗅ぎわける楽しさがある。
今、私は再び「趣味は読書です」と言えるようになった。

 
 
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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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