fbpx
メディアグランプリ

せっかくパリに来たのだから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 記事:飯田峰空(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
「今日は疲れているから、明日から頑張ろう」
そう言いながら、日常の忙しさを言い訳にしてやらなかったこと。それはフランス語の勉強だ。
ルーブル美術館の地下で行われるアート作品の見本市『ART SHOPPING』。このイベントに書道家として、私は作品を出展することになった。このアートイベントには、フランス語と日本語が話せるスタッフがいるし、なんとかなるかと思ってフランス語を何も勉強しなかった。結果的に「ボンジュール」「メルシー」「シルブプレ」しか知らない状態で、私は今、パリにいる。
 
格安航空機での乗り継ぎ一人旅。あらゆる事態を想定して気を張ったものの、トラブルは起こらずに無事、宿にチェックインできた。ほっとした私は、体力も気力も十分残っていたので、さっそく宿の近くを散歩することにした。
 
温かいけれど暑くはなく、カラッとして風が気持ちいい。10月のフランスで珍しいくらいのいい天気だったそうだ。目に見える何気ない建物が石造りで美しい。その建物に入っているお店の広告やディスプレイは、現代的だけど石造りの古い建物に合うようなデザインで洗練されている。街並みを見ながらつい遠くまで歩いてしまい、少し休憩がしたくなった。そうだ、オープンカフェでお茶をしよう。
 
そう思った時、事件は起こった。カフェはどこもごった返していて、本当に席がなかった。
空いているカフェで、暇そうな店員にニコっと笑いかけ、察してもらう作戦はできない。一席空いたところに、座っていいかを聞きながらさらりと滑り込むようなフランス語スキルがない私は、カフェ難民になってしまった。
そしてここは日曜日のフランス。オープンカフェにいる人は、みんな家族や恋人、気の置けない友人との語らいを楽しんでいる。カフェで楽しく談笑しているフランス人達を見ていると、カフェに入れない一人の私はだんだん寂しい気持ちになってきた。散歩を始めた時とはうってかわってテンションは下がっていった。
 
そんな時、目の前の橋に人だかりを見つけた。近くに行くと、飛んだり回ったりしている男女がいた。大道芸のパフォーマンスだ。6人全員がローラーブレードを履いて、50cmくらいの間隔で置いたカラーコーンを倒さないように、飛んだり回転をして技を披露しながら走り抜けていく。技が決まるたびに観客全員で拍手をして、盛り上がっていた。拍手をもらったパフォーマーは観客に近づいてアピールをする。そして、近づいたパフォーマーを見るとあることに気づく。彼らは皆、顔に皺を重ねている。年齢は50代、いや60代くらいかもしれない。その驚きが、なお一層拍手を大きくする。
男性はスーツベストを身にまとい、ステッキや長い手足を生かしてテクニックを披露する。女性はムーランルージュの舞台に出てくるような艶やかな姿で、踊りながら走り抜ける。奥の建物や橋の風景も相まって、映画のワンシーンを見ているようだった。
拍手をしたり、歓声を上げているうちに、さっきまで言葉が通じないことに落ち込んでいたのに、みんなと同じように反応できていることに、安心と喜びを感じていた。その場の一体感と高揚感で、いつの間にか寂しさは消えて温かい気持ちになっていた。
パフォーマーの彼らは、大道芸で温かく私のフランス入りを迎えてくれたように感じた。
私はどうしてもこの気持ちをパフォーマーに伝えたかったが、フランス語ができないのがもどかしい。でも、勇気を振り絞って「トレビアン」とだけ彼らに伝えてきた。
 
芸術やパフォーマンスは国境を越える、言葉は要らない、とよく言う。今までは私はそれをいぶかしく思っていた。結局、深くよく知るには言葉は不可欠で、言葉がわからないと大切なことが理解できず、感動できないと思っていたからだ。
でも、それは半分正解で半分違った。
確かに、言葉はなくても五感で感じ、感動することはできる。
でも、その感動を自分の中だけにとどめずに、伝えたり、共有することで深めたいと思った時に、言葉が必要になるのだ。
 
そして気づいた。いつも日本でやっていることと一緒じゃないか。
言葉をかわし感情を共有すること。そうすることで、他人が知り合いに、そして友人になっていく。
海外だから、芸術だからと大げさに考えていたけれど、話はシンプルだ。
言葉は、誰かと関係を深めるためのチケットだったのだ。
そう思うと、覚えなきゃとだけ考えていたフランス語が一気に身近に、そして切実に感じてきた。
 
あと一週間も滞在日数がある。
次の日曜日にも、彼らは同じ場所でパフォーマンスをしているだろうか。そうしたら今度、もう一度観に行って、彼らにこう言おう。
「一人でいて寂しかったけれど、あなたたちのパフォーマンスで笑顔になりました」と。
せっかくパリに来たのだから、フランス語で伝えてみよう。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事