メディアグランプリ

茶道でコミュニケーションは活性化する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:月岡カツヒロ(ライティング・ゼミ平日コース 2018年10月開講)

「日本について教えてくれ!」

カナダの語学学校で各国の友人たちから言い方は違えど、同じような会話を投げかけられた私は、ただただ黙り込んでしまった。友人たちが何を言っているかも分かるし、英語も拙いながら伝えたいことを伝えることはできたと思う。

にも関わらず、黙り込んだ。

「日本についてって……何を?」

そう、当時の私は日本人でありながら、日本について伝える「何か」を持ち合わせていなかったのだ。

みな聞きたいのは日本歴史などの、調べたら分かる史実ではない。どちらかというと情緒あふれる日本文化なんかの話が聞きたいようで、説明したくても「説明すること」がない……。そんな自分を恥じた。

大学4年生の11月くらいだったと思う。翌年4月に社会にでるのを控えていた私は、ふと「今しかできないこと」をしなければという衝動にかられた。

今しかできないことってなんだろう……海外旅行?

それは卒業旅行で行くしな。

まとまった時間がとれる今しかできないこと……、そうだ留学しよう!

なんとも短絡的なのだが、勢いそのままに親に頼み込んで、社会人になってからの給料を前借りした。すぐに留学エージェントの元に相談に行き、母国語の使用禁止というカナダの語学学校へ飛ぶことを決めた。

留学では多くのことを学んだが、この「日本について語ることがない自分」という、なんとも苦々しい自己認識が、私の中に最も深く刻み込まれたようだった。

留学から戻り、私は社会人に。

それこそ留学のことなど思い出す暇もないくらい、モーレツに働いた。3年も経つと、仕事もこなれてきて余裕もでてくる。新卒入社同期の仲間でも転職していく。私も3年と8ヶ月間、お世話になった会社を去ることにした。

2社目の会社で仕事が軌道にのってきたところ、前職同期のIくんから連絡があった。彼は私よりも早くに会社を辞め、家業の保険代理店を継ぐための修行中だった。

「茶道をやってみないか?」

電話かメールか忘れたが「いきなり何を……」と思ったのが正直なところ。ただ、カナダ留学の経験を思い出した私は、二つ返事で茶道の世界に足を踏み入れることにした。

私はそれ以来10年以上、茶道を続けることになる。

茶道の世界は奥が深い。文章では伝えられないこともあるので、ぜひ体験してみていただきたいのだが、ここで一つだけ伝えられるとしたら、茶道には「コミュニケーションの真髄」みたいなものがたくさん詰まっている、ということだ。

茶道では、お茶を提供する側(亭主)と、お茶をいただく側(お客様)に分かれる。亭主がお客様を迎えるための準備は、かなりの手間がかかっている。

まず、何ヶ月も前に招待するための手紙をしたためるところから始まり、当日までに「どんな茶席にしようか」と、お迎えするお客様を思い浮かべながら、各種準備に取り掛かる。

茶席は小さな世界だ。

茶席には、掛け軸、生け花、茶せん・茶しゃくなどお茶を点てるための道具類、抹茶碗、当日提供する抹茶やお菓子などなど複数のアイテムが登場する。これらを当日までに、その茶席の「意味」に合わせて準備する。新しく購入する道具もあれば、良いものがなければ新しく職人さんに作ってもらうことさえある。

茶席当日は、玄関から茶室に向かうまでの露地を掃き清め、水を打ち、お迎えする。始まりから終わりまで、亭主が長い時間をかけて準備したその一席を、存分に堪能いただくための「心配り」が随所に散りばめられるのだ。

ここで驚くべきは、かなりの時間とお金をかけた準備について、亭主はお客様にほとんど説明しない。

せっかく色々準備したのに「これはお客様が●●が好きだとお聞きしたので用意いたしまして……」みたいなことは、一切言わない。もちろん道具の名前やら由来などは聞かれれば答えるのだが、「この一席をどのような想いで用意したか」を亭主からお客様に伝えることはない。

お客様は亭主のメッセージを「感じ取る」ことが求められる。

茶席がどのように誂(あつら)えてあるのか。使われている道具の名前や由来、歴史などを聞いたり、生けてあるお花、掛け軸の書の内容……、ありとあらゆる情報を駆使して亭主の心配りを感じ取る。

せっかく用意したのに、説明しなきゃ伝わらないじゃないかと思う。もしかしたら伝わらなかったら伝わらないでいいのかもしれない。それならそれで、そこまでの茶席だったのだ。

茶道は、亭主とお客様の間で繰り広げられる、高度なコミュニケーションゲームなんだと思う。

織田信長も、豊臣秀吉も、あの時代の戦国武将たちは茶に興じている。ある種のステータスだったようだし、生死の堺が連鎖する戦場でも、自陣内で茶道具を広げて、茶を用意することもあったそうだ。少しでも緊張から開放されたかったのかもしれない。もちろん政(まつりごと)にも使われている。

「この茶席に呼んだ意味が分かるよな」

という茶席があったかどうか分からないが、茶室で多くの密約が交わされたことは想像にかたくない。戦場での武功に茶道具を授与することもあったし、小さな茶道具1つでお城1つが買えてしまうくらいの価値だったというから、茶道は戦国時代においても大きな意味を持っていたのだろう。

最近、「空気を読む、読まない」という話もよく聞くようになった。はっきりとものを言わない日本人気質を卑下するような論調も多い。

茶道のように、亭主はお客様を想い、お客様は亭主の想いを感じる、双方向の「思いやり」があれば、コミュニケーションも上手くいくのではなかろうか。

さらに言うなら、茶道を嗜んでいれば、異国の友人に説明できる「日本文化」になる。先日、英語で自分をアピールする機会があって、茶道のことをInvisible Communication(目に見えないコミュニケーション)だと説明し、興味をもってもらった。異国の方のみならず、日本人でも茶道をやっている人に出会うことは稀なので、なかなかユニークなコミュニケーションのキッカケになるだろう。

「茶道」で広がるコミュニケーションを、ぜひ体験いただきたい。

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2018-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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