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たかがふきん、されどふきん。


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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「ねえ、どうしたらあんな家事も育児もマメにする旦那さんになるんです?」
 
結婚してから一体これで何回目だろうか。
先日参加した保育園の遠足で、子どもと同じクラスのママからふと尋ねられたこの質問は、私にとっては定番化ものであった。
 
一方の、今まさに話題の中心にいるとも知らない夫は、機嫌よく1歳の娘をベビーカーやら抱っこであやしつつ、遊歩道を散歩している。いつもの姿だ。
 
「多分、ふきんと台ふきん、ですね」
 
今ではすっかり世でいうイクメンになった夫も、結婚するまでは24年間家を出たことのない筋金入りの箱入り息子だった。結婚前に数か月一人暮らしをした際に一通りの家事を覚えはしたものの、夫婦として一緒に家事、育児をしていくうえで大きかったのはこの『ふきんと台ふきん』問題だったように思う。
「これはテーブルを拭く台ふきん、これはガス台付近を拭く台ふきん、そしてこれが食器を拭くふきん。間違えないようお願いね」
物心ついた頃から、ふきんと台ふきんが一緒に使われることが嫌だった私は、新婚生活が始まって早々、当たり前のように夫に言った。
これに対し、夫は無表情とも呆気にとられたとも言えない微妙な表情をして「うん、わかった」とすんなり同意してくれた。
テーブルを拭くのがテーブル用の台ふきん
流し台や、コンロ周りを拭くのがキッチン用台ふきん
そして、洗った食器や鍋を拭くのがふきん
そんな風に3種類に区分されたふきんたちは、名前を書かれることなく、無地のまま使われていく。
 
デカデカと大きく名前を記せば、誰がどのものかわかりやすくなるだろう。
しかし、なぜか私はラベリングも昔から好きでなく、ふきんの置いてある所定場所でその用途を判別してね、とさらに夫に難題をつきつけた。
たかがふきん、されどふきん。
これは言ってみれば、『私はこれはしてほしくない』ということを明言しお互い守るという、同居していくうえでの共通ルールのはじまりだった。
そんな私も、新婚生活は初めてのことだらけだった。
遠く宮城県からここ大阪に嫁ぐにあたって、言葉の違い、味付けの違い、食材の違い、新聞の違い、実に多くの違いが横たわっていた。
少しでも慣れるようにと、夫はせっせと大阪で暮らしていくにあたっての常識を妻に教え込んだ。
「あのな、大阪人の『考えときます』は断りの文句やで。気いつけや」
「お好み焼き定食は当たり前やで。ラーメンとチャーハンセットと同じようなもんやな」
「エスカレーターは左側通行だから右側に寄ってな」
すくなからず外国にきてしまったかのような感覚もあった私は、当時は慎ましく夫の大阪人講座を熱心に聞いていた。変わっているなあと思いながら。
 
そんな私も10年もたてば、慣れる。
郷に入りては郷に従えの精神で、今では大阪は愛すべき街の一つになった。
初めは違和感だらけだったことも、気付けばなじみ、昔からそうであったかのような錯覚さえ覚える。大阪に来る前、私はどんな言葉遣いで話していたっけ? 正直よく覚えていない。
 
そしてそれは、まさに『ふきんと台ふきん』と同じことなのである。
私にとっては大阪が、そして夫にとっては『ふきんと台ふきん』が。
出会ったときには異なる存在のものでも、気づけば自然にそれが身につくのだ。
 
だから、私はママ友に言う。
「ふきんと台ふきんですよ」と。
 
旦那さんが家事、育児をしない。
それは、こどもが生まれてもなお、旦那さんにとっては家事・育児はなじみのない、異文化なのだろう。ならば、ストレスにならないくらいまで、じわりと染めていくのが良い。それも無理のない速度で、はっきりと声に出しながら。
 
人が変わるのには時間がかかる。そして、夫婦といえども所詮は他人である。
初めから分かり合えると思わず、『ふきんと台ふきん』のように、あるいは『大阪で暮らす上での注意事項』のように、お互いにそのルールを共有していけば何か変わっていくのではないだろうか。
 
とはいえ、いまだに生まれ育った地元の言葉がこぼれることもあるし、夫がふきんを間違えることもある。けれど、基本ルールがあるので、特にそこにはこだわらない。夫婦のルールは『ふきん』だけにとどまらないので、頑張り過ぎないことも大事だ。
 
夫のとの共通ルールは、年々増えている。
けれど、それは10年間の関わりの結果で、嫌なものではないなと思う。
 
せっかくなので夫に聞いてみる。
「ふきんの使い分けの話、最初どう思った?」
「細かいなと思ったよ」
にやっと笑いながら夫が即答する。
「せやね」
すっかり大阪人のおばちゃんになった私も、にやっと答えた。

 
 
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2018-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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