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新任女教師との愛の特訓


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記事:太田晴信(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
「クスクスクス」
 
みんながステージに立つ私を「クスクス」笑っているのが分かる。
 
小学校の音楽の時間。歌のテストの時である。
 
順番に名前を呼ばれてステージに立つ。先生のピアノに合わせて歌を歌い点数をつけられる。
 
音楽の成績をつけるための歌のテストだ。
 
私はこの歌のテストが苦痛だった。
 
私は小さい頃から声が非常に低い。
 
大人だったら「低音の魅力」なんて言われるが(それも死語になりつつあるが)、子供にはそんなものはない。
 
おまけに音楽がまるでダメな両親に育てられたので、音程が取れない。要するに音痴だ。
 
だから、私が歌うと声が低い上、音程がまるで取れていない歌が披露される。
 
その音痴の歌に、みんな先生の目があるから大笑いはしないが、笑いが堪えられないのだろう。
「クスクスクス」という声が聞こえる。
 
下を向いて肩が震えているのがステージから見て分かる。
 
 
だから、私は1年生の時から音楽は大嫌いだった。
 
音楽に限らず図工や体育と言った芸術系の科目は全部嫌いであった。
 
そもそもなぜか、芸術系の科目というのはトップもビリも、みんなの前で披露させられる。
 
国語や算数と言った主要科目のテストの点数は、90点以上のみ発表などでビリまで発表することはない。
テストの点数をビリまで発表するなんてしたらPTAで大問題である。
だから誰がビリかは、生徒は分からない。
 
なのに芸術科目はトップもビリも全部発表。マラソン大会もビリは誰? というのがみんなに分かるようになっている。
運動会にいたっては、父兄の前でまでビリが発表される。
 
それが大いに不満であった。
 
 
芸術系科目が全部嫌いであった私だが、その中でも一番嫌いだったのが音楽であった。
 
歌の時間、クスクス笑われるのが屈辱だった。恥ずかしかった。
 
こっちだって一生懸命歌っている。しかしクスクス笑われるのがミジメだった。
 
みんなで歌っているときにも、音痴が笑われているような気がして、ずっと口パクで歌っていた。
 
いや、口パクで歌わないと、みんなが、音程が取れなくて迷惑をかけているようで、そうするしかなかった。
 
当然、音楽の成績は「C」以外付いたことはなかった。
 
 
小学5年生の時、担任の先生が音楽の先生(A先生とします)になった。
 
A先生は女性の先生で、前の年に大学を卒業されて私の小学校に赴任されたのだが、新任でいきなり部活動に「合唱部」を新設されたり、なかなかのやり手の先生であった。
 
音楽授業も先生のアレンジがかなりあって、今までの先生と違いかなりユニークだった。「本当に新任の先生なの?」っていうぐらいである。
性格も非常に男勝りの先生だったので、怒ると怖いけど生徒には人気があった。
 
この先生の音楽の授業でも、当然歌のテストがあり、みんなの前で歌うので、あいかわらず音痴の声を披露することになった。
 
私が歌っている時、A先生がピクっと反応するのが見えた。
 
1週間後「太田くん、部活が終わったら、教室に来なさい」と言われた。
 
 
何か怒られるのかと思ってビクビクして教室で待っていると、A先生は教室に入ってきて「音楽室に行くわよ」と言って私を音楽室に連れて行った。
 
怒られるかと思ったら、違った。歌の練習であった。
 
A先生は普段から私の低音の声を聞いて、「この子の低音を育てたい」と思っていた。
 
そして、歌のテストを聴いて、音程が取れないのを見て、「音程がきちんと取れるようになったら、この子はすごく感動させる歌が歌えるようになる」と確信された。
そうすれば自信もつき性格も明るい子になると思い、音楽を特訓することを決めた。
 
 
A先生とマンツーマンの1時間の特訓。
音楽教室ならお金を払うことになるが、別にお金を払っているわけではない。
先生は完全に奉仕である。
 
だんだん音程が取れるようになってきた。声がお腹からでるようになり通る声が出るようになってきた。
 
変声期前だったので、A先生から裏声で歌うことを勧められた。
 
そうすれば、6年生になり変声期を迎えたら、よりうまく歌えるとのことだった。
 
自分でもだんだん歌えるようになっていくのが、分かった。
 
6年生もそのまま持ち上がってA先生がクラス担任になった。そして特訓は続いた。
 
 
ある時、A先生に「太田くん、前に出なさい」と言われた。
前に出ると、教室にあるオルガンで先生と特訓した歌をみんなの前で歌った。
 
歌い終わって、みんなから大拍手をもらった。
 
すごくうれしかった。歌えた。みんなの前で歌って拍手をもらった。自分では信じられなかった。
 
 
そこから、私は音楽が大好きになった。楽譜は読めないのだが、歌だけでなく楽器も好きになり練習するようになった。
 
音楽に対して積極的になった。
 
謝恩会では先生や父兄の前で、クラスで歌を披露するのだが、その時、A先生は私にソロのパートを作ってくれた。
 
2小節だけど、ソロで歌えた。母も見ている前で、1年生の時の担任の先生も見ている前で……
 
そして、通知表の音楽のところに「A」をつけてくれた。
 
 
中学に上がって部活に吹奏楽部を選んだのも、間違いなくA先生の影響である。
 
音楽が大嫌いだった私が、吹奏楽部でみんなの前で音楽を披露する部活を選んだ。
 
 
音楽が大好きな気持ちは今でも強く、今でもボーカルスクールに行ったり、コンピュータミュージックを習ったりしている。
 
A先生がいなかったら、おそらくずっと音楽嫌い、カラオケにも行かなかっただろう……
 
A先生には今でも感謝している。
 
ありがとうございました。
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2018-10-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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