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大企業出身の優秀な転職希望者が、面接で落とされた理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:杉本織恵(ライティング・ゼミ平日コース)

「優秀な人材のようだねえ」
「この人は、期待できるかもしれないね」

履歴書と職務経歴書を読みながら、社長は言った。
その優秀な経歴の持ち主Aさんは、一流大学出身、大手企業で活躍していた人材。自身の幅を広げるため、更なるスキルアップ、給料アップを求めて転職活動をしているようだった。

当時、私はある外資系企業B社で人事課長を務めていて、中途で優秀な人材を採用すべく、複数の人材紹介会社に仲介をお願いしていた。部長職を担ってくれる人材を、一人だけ採用したかったのだ。

募集を開始すると、一人の枠に対して、人材紹介会社からは、百人を超える候補者の履歴書と職務経歴書が送られてくる。人材紹介会社のスタンスとして、クライアントが求める人材条件と7割程度合致すれば、書類選考にかけてみる、というような感じだった。

人事担当としても、それで特に問題は無かった。求める条件が厳しい中で、100%合致する人物を要求するのは現実的では無かったし、会社側も、ある程度は入社してから習得してもらえれば構わない、というスタンスだった。

大量に選考書類に目を通すようになると、書類の読み方が上手くなる。目が効くようになるのだ。送られてきた書類を隅から隅まで読まなくても、ざっと目を通すと「アリ」か「ナシ」か「要検討」か、といった、ある程度の判別がつくようになる。
職務経歴や実績以外にも、書類の作り方、文章の書き方、構成、言葉の選び方、書類の枚数、などをヒントに読み解いていく。もちろん、その判別が正しいかどうかは議論の余地があると思うが、書類からは、その人物の「仕事のやり方」や「性格」が見えてくるような感じがあったのだ。

誤解の無いように言っておくと、私の経験上、人数の限られた中途採用は、実績も見るが、企業風土や求めるポジションに合うか合わないか、周りの人と上手くやっていける人物かどうか、に重点をおくことが多い。
同時期に、大量に、様々な人材を採用する新卒採用と違って、企業側が求める「こういう人物」に近い人を探していく形だ。自分が転職活動をした時にも感じたし、人事仲間でも、似たような見解が多かったと思う。

冒頭のAさんは、人材会社から何十人と送られてきた書類の中で、社長が目を惹くほど優秀で、期待されていた人物だった。文章も簡潔で、落ち着いた感じを受け、社長も私もAさんに会うのを楽しみにしていた。

B社の面接は長かった。

1回の面接で、1時間から2時間かけてじっくり話した。社長と向かい合い、これまでの経験や実績、B社側の求める職務や人物像など、かなり込み入ったところまで話を進めていた。

転職というのは、その人の人生やご家族に少なからず影響を与えることになる。大きな決断をして転職したのに、いざ入社したら「合わなかった」「見込み違いだ」となって不本意な形で会社を去るのは、転職者にとっても、企業側にとっても避けたい。たかが数時間の面接で何がわかるのか、と言ってしまえばそれまでだが、お互いが納得するまで対話をしたい、という社長の姿勢がB社の長い長い面接時間に現れていたように思う。

面接時、私は社長の脇に座って、候補者の方を観察したり、たまに質問を挟んだり、事務的な説明をしたりしていた。

「見てるだけ」というのは、意外に面白い。その人のしぐさや癖、間合い、言葉の使い方、目の動き、話しかたや声のトーンを自分なりに分析したり、書類から感じた印象を見比べたりしていた。

Aさんは、堂々とした人だった。ご自身の実績にも自信があるように見受けられたし、社長に対しても臆することなく自分の意見を伝えていて、一見、外資系のB社には相性が良さそうなタイプに見えた。

だが、結果、Aさんは不採用と決まった。

Aさんには、B社とは相容れない、決定的な特徴を持っていたのだ。それは、Aさんの言葉に表れていた。

「普通は……」「当然……」

Aさんは、この言葉を多用した。だが、Aさんの言うところの「普通」「当然」は、B社にとっては「普通」でも「当然」でも無かったのだ。

つまりAさんは、長年所属してきた大手企業で培った「普通」「当然」が、世の中全体、業界全体の「普通」「当然」だと思い込んでいたのだった。面接中に、何度も社長が「それは当社では違って……」と伝えても、最後までご自身の意見を曲げることはなかった。

このような思い込みは、誰もが持っている。私も、Aさんのことを笑えない。
Aさんは優秀な方だったので、他社でAさんに合った職を得ただろうと思うが、私自身に置き換えてみると、自分が「普通」だと思っていたことが、一歩外に出たら全く通用しなかったことは何度もある。実家の家庭内ルールは、友達に笑われたし、日本の社会常識と思っていたものはオーストラリアでは全く通用しなかった。初めて転職した時、社員の考え方や働き方があまりにも違って、理不尽に感じて、会社に対して強い反発を覚えたことも記憶している。

国であれ、企業であれ、友人グループであれ、ひとつの文化に浸りきっていると、その中の常識が、世の中全体の常識であるかのように錯覚してしまうのはよくあることかもしれない。だが、これからの世の中、いままで以上に変化が大きく、また、変化のスピードが増していくと言われている。
一度手に入れた「普通」をいつまでも握りしめていては、新しい環境に対応することは難しくなるだろう。今自分が持っている「普通」を、いつ覆されてもいいように心の準備はしておきたい。

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2018-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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