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同じ趣味のおじさん集団、健康のために次々死にかける


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:國藤弘展(ライティング・ゼミ 平日コース)

私はもうすぐ40歳になる。
一般的に肉体の成長は20代がピークというが、私の場合はそこを過ぎても成長は止まらず、年に2kgずつ規則正しく成長してきた。そのせいか、ここ最近では健康診断を受けるたび、毎年規則正しくお医者さんに叱られるようになった。鈍感さには自信があるが、流石に認めなくてはならないようだ。「自分が太っている」という事実を。

健康診断についての詳細は伏せるが、どうやら痩せればお医者さんに叱られないようになるらしい。調べたところ、痩せるには有酸素運動が良いようだ。
正直に言えば、ある程度の体重になった頃から、うっすらと危機感は感じていて、しばらくランニングをしたこともある。しかし、早々に足が悲鳴をあげた。肉離れという奴だ。既に重すぎるという訳で、長続きしなかった。

スポーツジムに入会していた時期もあった。しかし今度は、共働きで子育てをしているうちに時間を作れなくなってしまい、これも数ヶ月で退会した。その後も一度諦めた道に戻る勇気がなかなか出てこない。

仕方ないので、お金と化学の力を借りることにした。もはやプールか自転車くらいしか選択肢が残されていなかったが、流石にこの体で競泳用水着を着て人前に出るのも気が引ける。おじさんは変なところで敏感な生き物なのだ。

そんなある日、子供の自転車を修理しに自転車屋に行ったら、白くて、何もかも細身でシュッとした、スポーツタイプの自転車が目につき、一目惚れしてしまった。それはクロモリと呼ばれる細身の鉄フレームのクロスバイクで、ハンドルの付け根からサドルの付け根をつなぐトップチューブが地面と平行な「ホリゾンタル」と呼ばれる、クラシカルなフレーム形状だった。いかにも軽やかに走りそうで、私を知らないどこかに連れていってくれそうな予感がした。

スポーツタイプの自転車というものに乗るのは、これが初めてだった。
初めは10km、次の週には20kmと、サイクリングロード中心に少しずつ遠くまで自転車で走ってみたのだが、思っていた以上に疲れず、汗もかかない。後で知ったのだが、実は汗はかいているが、走ることで受ける風のおかげで、汗はすぐに乾いてしまようだ。
この「風を切って走る」感じが本当に爽快で、すっかりスポーツ自転車にハマってしまった。始めてから1月もしないうちに、平日は毎日20kmほど、夜のサイクリングロードを走るようになっていた。週平均で100km走るのを1月ほど続け、その翌月には週平均が150kmになっていた。

体重はすぐに落ちなかったが、筋肉は順調についているようで、体脂肪率は徐々に下がり、健康診断からずっと経過観察していた「問題の数値」も、すぐに下がった。

こんなに気持ちよく健康が手に入るなら!と、どんどんのめり込んで行くのだが「もっと早く!もっと遠くへ!」という衝動から、装備の工夫や、自転車そのものの改造が気になりだし、以前ロードバイクの実業団選手だったという同僚に、あれこれアドバイスしてもらうようになり、ついには半年も経たないうちにカーボン製のロードバイクを買ってしまった。
靴もスニーカーからビンディングシューズという、ペダルと足が固定されるものに変わり、サイクルジャージにビブショーツという、ピタピタの全身タイツみたいな変態じみた格好で空気抵抗を抑えて、それなりの速度で走るようになっていた。もう立派な「自転車バカ」といえる状態だ。

その次は、そんな「自転車バカ」丸出しの格好で往復30km程度の距離を自転車通勤し始めた。
どうやらその姿は、社内で大変目立っていたらしく
「実は俺もロードバイク持ってるけど、なかなか乗れてないんだ」
とか
「実はロードバイクが欲しいと思ってた。一緒にやろう」
なんて声がかかってきて、あっという間に会社に総勢5名の自転車部が結成されてしまった。全員が30歳過ぎのおじさんで、動機は「健康になりたいから」で統一されていた。

週末に5人集まって都内から江ノ島まで往復したり、三浦半島を一周したり、高尾山から大垂水峠を登ってみたりしているうちに、すっかり全員が自転車大好きの「自転車バカ」になっていた。

「男子ってホントにバカね」というセリフ、誰でも一度は言ったり、聞いたことがあるのではなかろうか。
ある程度時間とお金が自由になったおじさんが集まると、なんだか青春がもう一度やってきたみたいで、バカな男子に戻ってしまうようだ。それだけなら可愛いものだが、行動力と経済力が備わっているので、もう手が付けられない、大変タチの悪いバカになってしまうのだ。

それぞれが大変タチの悪いバカなのに、集まると感覚がマヒするのか、更にバカが加速してしまうらしく
「俺は今週300km走ったぜ!」
「今週末、ソロで○○峠をやっつけてくる」
などと、走行距離や、急斜面の坂道を登り切ったことの自慢大会が始まってしまう。これがまた最高に楽しいのだ。

しかし走行距離に応じて高まるリスクというものがある。そう、事故と故障だ。

なんと我ら自転車部は、結成からわずか半年の間に5人のうち3人が一時的にリタイアした。
1人は車に当てられて軽傷だったが自転車は廃車、1人が転んで大怪我、1名が聞いたこともない病気にかかった。
大怪我をしたのは何を隠そうこの私で、台風の上陸中にどうしても自転車に乗りたくなり、雨を避けたコース設計をして無理やり峠を攻めたところ、やっぱり土砂降りに見舞われ、スリップして転び、骨折した。もう、どうしようもなくバカである。

「聞いたこともないの病気」のメンバーは、筋肉痛が治らないと言いながら、相変わらず毎日自転車に乗りまくっていた。ある日、突然太ももに激痛が走ってしばらく動けなくなり、病院で検査したところ、「横紋筋融解症」という、筋肉が溶ける病気だと診断された。
もう少し医者にかかるのが遅ければ、溶けた筋肉の成分が血管をかけ巡り、腎臓を詰まらせていたそうだ。最悪の場合死んでしまうし、透析が必要になることもあるという。
それを聞いた時はメンバー全員「そんな病気あるの?」と、本当に驚いたものだ。

調べたところオーバーワーク、つまり肉体への負荷を休まずかけすぎた事が原因で稀に起こる病気らしい。かかったメンバーに聞けば、なんと毎週400kmは走っていたという。

骨折も病気も、どう考えても「やり過ぎ」が原因だ。

仕事にも穴も開けてしまい、社会人としてあるまじき姿を見せてしまったし、病気も他人ごととは思えない。骨折でしばらく控えていたが、そうでなければきっと彼と同じか、それ以上走っていただろう。……ということで、同じ趣味のおじさん集団は、バカが加速して、健康のために死にかける(こともある)のだ。

笑い話で済んでいるのは、メンバー全員でつい先週の都内のライドイベントに出場できるほど回復したからだ。冗談で済む程度に収まって本当に良かった。もういい年をした「おじさん」なのだから、これからは自分の体としっかり対話して、趣味は無理のない範囲で長く楽しむべきなんだ……と思い知るいいキッカケになったと思う。

皆さんも趣味を楽しむ際は、決して「加速するバカの集団」にならないように、注意して欲しい。

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2018-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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