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メディアグランプリ

美人じゃないことは辛いが、美人じゃないことで壊れる世界に住んでいることはもっと辛い。


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記事:水峰愛(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
親友が、整形した。
その日彼女は大きなサングラスをかけて、駅前に現れた。目を二重にしたそうだ。一瞬サングラスを外してくれた。美しかった切れ長の瞼は、真っ赤に腫れて、くっきりと切り込んだような線がつけられていた。
きっかけは失恋だった。
付き合っていた恋人に浮気の果てに振られ、「美人になって見返したい」と、思ったそうだ。
「相談してくれれば良かったのに」
痛々しい手術痕を見て、私はそう思わずにはいられなかった。
女性が失恋をきっかけに美容整形をするというのは、もしかすると都会ではありふれた話なのかもしれない。でも、自分の親友が、となると話は別だ。傷ついた彼女が、自分の顔にメスを入れる決意して、美容外科の門をくぐるまでに、一体どれだけの自己否定を重ねたのか。
「親に貰った顔に傷をつけるのは良くない」なんてことを言う気は、私はさらさらない。誰に貰おうが、与えられた以上は自分のものだ。自分という人間を映し出す重要なパーツとして、責任を持って自分の顔をどう扱うかの方が遥かに大切だと思う。だからこそ、その動機となった彼女の苦しみを想像すると、胸が苦しかったのだ。
あなたが失恋した理由は、目が一重だったからじゃない。断じてない。
そう言ってあげたかった。
そりゃ、ちょっと尽くしすぎたとか、彼の都合に合わせすぎて浮気する隙を与えてしまったとか、恋愛のスキルに関する問題はあったかもしれない。でも、その恋愛が失敗に終わったのは、あなたが美しくなかったからじゃないよ。実際、私から見れば、あなたはとても美しいし。
私なら、はっきりそう言ってあげられたのに。思えば思うほど歯がゆかった。
 
現に、彼女は美人だった。
透き通るような白い肌に、バービー人形のようなスタイルは、野暮ったい制服を着ていた10年以上前から際立つものがあった。
そして彼女が否定した黒水晶のように涼しげで意志的な瞳は、上品な顔の造形と完璧に調和していた。
 
でも、私がここまで彼女を手放しに肯定してあげられるのは、私が他人だからだ。
 
本当は私には、彼女の気持ちが、死ぬほどわかる。
 
世の中は、女性の容姿に対する批評で溢れている。
メディアは、美しい女性が成功を手にするというロールモデルを当たり前のように垂れ流し続ける。ゆえに、「美人かそうでないか」という線引きの問題は、いつも情け容赦ない批評と共にある。ネット上には、女性の容姿に対するひどい言葉が日々蛇口をひねるように書き込まれているし、美人じゃない女性の容姿をコンテンツ化してお金を儲ける人もいる。
女の子の多くは、幼い頃から、「美しく育つよう」願を掛けられ(なぜなら親も同じ洗脳を受けているから)、メディアの後押しもあって、思春期になる頃にはすっかり女の子たちの「美人至上主義思想」は完成している。そして、少しでも可愛くなる努力をして、挫折を経験するのだ。
思うに、女性の自分さがしは、そこからスタートするのではあるまいか。
言い換えれば、「自分はそこまで美人じゃない」と悟ったところから、「美人じゃないと勝てない」世の中を生き抜く為の、そしてたった一人の自分を愛する為の戦いが始まる。そう言ってもいいかもしれない。
 
実は私にも、美容整形を検討した過去がある。美容外科に相談のメールまで送った。
低くて野暮ったい鼻を、なんとかしたかったのだ。
きっかけは失恋ではなかったが、美人になれば自分を愛せると思っていた。
なぜ私がそれを思いとどまったのかと言えば、素敵な男性が現れて、「君の低い鼻が素敵だ」と言ってくれたわけでは決してなくて、美人じゃなくては生きられない世界を勝手に作っているのは自分だと思い至ったからだ。
 
周りを見渡せば、魅力的な女性がたくさんいる。
そして、彼女たちの全員が、世間で言われる美人であるとは限らない。
さらに当たり前のことだけれど、その魅力的な人々が、美人じゃない自分を無価値に感じているかと言われば、答えはNOだ。
なぜなら、彼女たちの魅力に惹きつけられる人々もまた、「美人じゃなくては生きられない」世界の住人ではないから。
魅力的な女性たちに共通する唯一のことは、美人か否かではなく、自分自身に価値を感じているか否かなのだと、私はある時に気が付いたのだ。
 
美人至上主義の洗脳を受け続けた以上、美人じゃないことは辛い。
しかし、美人じゃないことで壊れる世界に住んでいることはもっと辛い。
どれほど絶世の美女でも、必ず容色が衰える日がやってくる。だから、他者評価や時代に左右される自己像よりも、少なくとも自分だけは自分のことを全力で愛せること。
本当の意味での強さとは、その為に自分自身を絶えず見つめ、人間的豊かさを培ってゆくひたむきさなのかもしれない。
 
とは言え、少し太れば慌てふためき、肌が荒れれば憂鬱になって、老化に抗う為に2万円の美容液を買いに走る私である。
美人至上主義を完全に抜け出すには、まだ時間が必要だ。
でもいつかは、自分の瞼が一重でも二重でも気にしなくなった友人と共に、「あんな頃もあったね」って笑い合いたい。
その時の私たちたちは、今よりも歳をとっていて、そして今よりも魅力的なはずだ。
 
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2018-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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