自分らしく 母親らしく
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は、母親に向いていない。と思う、多分。
そんな私も、今年で母親歴16年。
何とかなるもんだな~。
母親に向いていないとは思うけれど、母親をしない訳ではない。
なんていうのかな。無理をしない母親?
「お母さんらしく」を目指したこともあったけど、なんだかしんどくなってきて、気がついたら娘に当たっていることがあった。
それって、よく考えたら本末転倒?
なので「お母さんらしく」よりも「自分らしく」やることにした。
「あなたのために」じゃなくて「私がやりたいから」やることにした。
そうしたら、すごく楽チンで自由になって「母親」をやるのも面白いかもしれないな~なんんて思うことが多くなってきた。
もしも娘が、そんな私のせいで迷惑を被っていたとしたら、それは致し方ない。
いや、間違った。申し訳ないことをしたかもしれない。
そういえば、娘がまだ保育園児だったころ。
時々気が向くと、娘と一緒に川の中にある飛び石を飛びながら、河川敷を通って保育園へ行っていた。
とても暑かった夏のある日、私はすごく良いことを閃いてしまった。
川の向こう岸までは、だいたい30メートルくらい。
そうだ、せっかくだから川の中を歩いて行ってみたらどう? 絶対、気持ちいいはず!
閃くと、実行せずにはいられない。
娘に聞いてみると「川の中を歩く!」
シメシメ。乗ってきた!
娘の着替えを多めに準備して、ビーチサンダルを履かせて準備完了。
さあ、いつもよりも早めに出発だ~。
到着したら、早速娘は川の中へジャブジャブ。
私は、飛び石の上を娘と手を繋ぎながら移動。
そう、私は川へは入らない。仕事前に濡れるとか、面倒臭いし。
意外に水かさが深くて流れが速いのが気になったけれど、お構いなしにキャッキャッとはしゃぎながら楽しそうに歩く娘。ほら、やっぱり楽しいやん。
と思った瞬間、急な流れに娘が足を取られた。
危ない!
危機一髪、繋いでいた手を引っ張って何とか娘を飛び石の上に乗せた途端、ギャ~ッと突然大泣きが始まった。
何事? ケガでもしたかと慌てて見ると、ビーチサンダルが一つ無くなっている。
川の方を見ると、赤いビーチサンダルがプカプカと流されていくのが見えた。
「お母さん、取って来て~!!」
大声で泣きながら、娘が叫ぶ。
ゲッ、マジで? いやいや、無理やし。
その日の私は、長ズボンに革靴という格好。しかもストッキング履いてますけど。
「いいやん、もう諦め。お母さん、取りに行くのは無理やわ」
そう言う私に、尚も大泣きしながら食い下がる娘。
「いやや~。取って来て~!」
だ~か~ら~、無理やって。
飛び石の上で一悶着を繰り返している間にも、どんどんビーチサンダルは流されていく。
そして娘は泣き止まない。
ダメだ。段々イライラしてきた。楽しいはずの時間が、あっと言う間にイヤな雰囲気に変わっていく。
バシャン!
と、突然一匹の犬が川に飛び込んだ。
そして、ビーチサンダルの方へ向かって、どんどん泳ぎ始める。
大泣きしていた娘も、すっかり泣き止んで犬に釘付けになっている。
「ガンバレ~! ガンバレ~!」
いつの間にか、二人で犬に向かって声援を送り始めた。
が、なかなか犬は追いつけない。流れはどんどん速くなり、ビーチサンダルはみるみる小さくなっていく。
あ~、やっぱりダメか……
バシャン!
その時突然、対岸から見知らぬおじさんが川に飛び降りた。
そして、バシャバシャと音を立てながらビーチサンダルの方に向かって歩いて行く。
ついに、おじさんが追いついた!
「わ~! ヤッタ~!」
娘と二人で大興奮。
ビーチサンダルを手に持ったおじさんと犬が、岸に向かって歩き出すのを見て、私は娘を抱きかかえると、慌てて飛び石を渡っておじさん達のところまで走って行った。
「すみません。ありがとうございます!」
あ~、なんてこった。おじさんも犬も、ビショ濡れだ。
「いや~、散歩してたら子どもが大泣きしてるでしょ? 何事かとよく見たら、サンダルが流されてるのが見えたからさ。犬に取りに行かせようと思ったけど、うまくいかなかったね~」
身体を揺すって水しぶきを飛ばす犬を見ながら、おじさんが言う。
「ずぶ濡れになってしまって、本当にすみません」
そう言って、娘と一緒に頭を下げた。
「いや~、暑かったから、ちょうど良かったですよ。こんなの、歩いてたらすぐに乾くから。それより、追いつかないかとヒヤヒヤしたけど、間に合って良かったわ」
そう言うと、おじさんと犬はあっという間に立ち去ってしまった。
あっという間の出来事。もはや一体、何が母親らしくない行動だったのか? それすらもよくわからない。普通に保育園に行けばいいのに、ややこしいことが起こるきっかけを作る母親は、もしかすると娘に取っては迷惑な存在だったかもしれない。
でも、この日の保育園までの道のりは、私たち親子に取って忘れられない思い出になった。
「あのおじさん、優しかったね~」
「犬さん、すごかったよね~」
興奮してしゃべりながら歩く景色は、今でもすぐに頭に浮かんでくる。
もしも「母親らしく」通園していたら、きっとこんな出来事には出会えなかった。
もしかすると、娘との思い出のほとんどは、母親らしくないことばっかりだったのかもしれない。
でも、どの思い出も間違いなく「私らしい」思い出なのだ。そして、そのほとんどが、今でも私と娘の笑い話のネタになっている。
私は、母親に向いていないのかもしれない。
じゃあ、母親に向いている人って、どんな人なのだろう?
実は、今でもよくわからない。
でも、子どもを産んだ瞬間から母親になることは間違いない。
「母親らしく」してもしなくても、やっぱり母親には違いないのだ。
じゃあ、私は自分らしい母親でいいか。
「お母さんは、別にそれでいいんとちゃう? 毎日、楽しそうやん」
最近、生意気にもそんなことを言う娘。
う~ん、さすが。よくわかってらっしゃる!
そうやね、色々考えても仕方がない。
これが、あなたのお母さんなのです。
だから、まだまだこれから色々あると思うけど、どうぞよろしくお願いいたします!
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