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「出口までお持ちします」アレルギーを克服した日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:江口雅枝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
来るぞ、もうすぐ来るぞ、あのセリフ。
 
会計を済ませたレジで、にこにこ笑顔の店員さんから、購入した商品を受け取ろうとすると、必ずやってくるあのセリフ。
 
 
「出口までお持ちします」
 
 
ほら来たー!
 
出口までの、ほんの数メートル、店員さんと並んで歩いたほうが良いのか、自分が先を行ったほうが良いのか、ポジションが分からないまま進む、数十秒のぎこちない瞬間。
 
 
洋服を買う時、デパートでもセレクトショップでも、店員さんに声をかけられると、落ち着かなくて緊張してしまう。今日は予算的にキビシイから、ちょっと見るだけ見たい時でも「何かお探しですか?」とか「それ、私も即買いしました!」など、声かけされるとプレッシャーで「あ、大丈夫です……」と店を出てしまうことも多い。
 
だからこそ勇気を出して、試着までたどり着き、気に入った服を買えた時の満足感はやっぱり気持ちいい。けれど、会計を済ませて安心したのもつかの間、あのセリフを言われることに、どうしても身構えてしまう。
 
たいした金額でもない買い物だったり、重くもないシャツ1枚が入ったショップの紙袋を、わざわざ持ってもらうことの申し訳なさと、面倒くささ。何よりも、目の前ほんの数メートルの出口まで微妙な空気感と距離感を保ちながら歩くあの瞬間、なんだか気持ちがザワザワしてしまうのだ。
 
 
店員さんの立場からすれば、購入してくれたお客さんに対する感謝の気持ちや、おもてなしの表現であることは、理解できる。接客マニュアルのひとつになっているのかもしれないし、他店が行っていることを、やらないという選択もリスクを感じるだろう。いつからかクレーム社会と言われるようになった今の時代、暑苦しいくらいのサービスの心を表現しておくことも、危機管理のひとつだ。
 
「おもてなし」という名の過剰サービスは、商品を何重にも梱包する無料ラッピングや、時間指定なのに不在で無料の再配達をする配送サービス、コンビニでガム1つ買っただけで丁寧におじぎをして感謝される。あまりにも身近にあふれていて、麻痺しているようにも思える。
 
「出口までお持ちします」と言う店員さんも、もちろん心から気持ちを込めて言ってくれている人もいれば、小さな疑問を感じながらも、立場上その店のスタイルに従っているケースもあるかもしれない。
 
 
日本の至れり尽くせりのサービスに慣れた状態で、たまに海外へ行くと、国によっては店員の「放置プレイ」に驚くことがある。
数年前、イタリアはローマの下町、雑貨や革製品、洋服など、様々な専門店が立ち並び、観光客も多く訪れる場所でのこと。お土産を選ぶために何件もハシゴして買い物をしたが、どの店でも日本のような声かけは一切されず、笑顔をかわして「チャオ」と軽く挨拶する程度で、全く接客しない。
ちょっとは仕事しようよ! とツッコミたくなるくらい、販売員同士や、たまたま立ち寄った近所の人と、おしゃべりしているだけ。客の方から、必要な時に声をかければ、ちゃんと商品の説明はしてくれるが、過剰にすすめられることもない。
入り口にガードマンがいるようなハイブランドは別として、庶民的な店の、肩の力が抜けた陽気な雰囲気は、これがイタリアなのかなぁと、拍子抜けしながらも実に心地よかった。
 
 
そんな放置プレイによって、過剰サービスのデトックスを経験してから、日本のお店で買い物をする時に、不必要に身構えずに、店員さんと友達になるような感覚で入ってみるようになった。
 
 
「何かお探しですか?」と聞かれる前に、
「わ〜! きれいな色〜!」とか、独り言のように勝手にしゃべる。そうすると、「秋の新色なんです」などと当然声かけが返ってくるが、最初の第一声が自分から始まっていると、会話の主導権を持ちやすい。
じっと黙ってアレコレ見ているよりも、服を見た感想を声に出してしまうと、常に自分のペースで選びやすくなるのだ。
 
さらに、会計後の、あのセリフ
「出口までお持ちします」
と言われたら、それこそチャンス!
 
高そうで手が出なくてじっくり見られなかった服や、いつか着てみたくて気になっている服、そういう服をぐるりと見て回りながら、出口に向かうのだ。
 
もうすでに、何かしら購入しているわけで、会計も済ませ、帰るだけだから、他の服を手に取って見ても「素敵ですね〜、また今度見に来よ〜っと!」と言うのも自然だ。すでに購入済みである満足感と安心感と、小さな自信が、心に余裕を生み出す。店員さんにとっても、買い物をしたお客さんが、ゆっくりと店内や出口付近でうれしそうな様子を見せることは、他の買い物客へのさりげないアピールにもなるはずだ。
そして店員さんの両手は、自分の購入した商品を抱えてくれているので、ふさがっている。つまり、過剰に他の商品を持ってきてすすめたり、ということもされにくい。
 
 
レジから出口までの数メートル、胸のあたりがゾワッとしてアレルギー反応を起こしていたあのセリフが、お待ちかねの時間に変化した。
 
過剰サービスだ! けしからん! これだから日本は!
そう批判するのは簡単だ。
 
しかし、自分の受け止め方や、声のかけ方、すこしでもお互いが心地よい方を目指したいと願えば、言葉も考え方も、行動も変わる。
 
 
そう気づかせてくれたセリフなのかもしれない。

 
 
***

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2018-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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