ミサちゃんが見つけさせてくれた「将来の夢」
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記事:植松真理子 (ライティング・ゼミ 日曜コース)
年の離れた友達ができた。名前はミサちゃんという。
私が彼女と出会ったのは、町内会のイベントの手伝いで私がお子様係になった時だ。子供と接することに慣れていない私は、子供との接し方なんて全くわからず、からかわれて四苦八苦していたのだが、彼女はなぜかそんな私を気に入ってくれたのだ。
「マリちゃん。お友達カードを交換しようよ」
「わぁ、うれしい!」
ミサちゃんは小学2年生だ。
私の子供の頃にもお友達カードはあった。自分のプロフィールを書いて、仲のいい友達同士で交換するのだ。今の小学2年生でもお友達カードの交換があるのはちょっと驚きだったし、また本気でお友達カードの交換ができるのはうれしかった。
普通は相手に渡すお友達カードは自分で用意するものなのだが、私はお友達カードをもっていない。「じゃあ、わたしのを1枚あげる。これに書いてね」と、薄い緑色のきれいなカードを大切そうに取り出して、渡してくれた。そのカードには、ミサちゃんの字で、お友達カードに書く項目が書いてあった。
なまえ、けつえきがた、すきなたべもの……と順調にかいていく。
次の項目は、しょうらいのゆめ。ん? 将来の夢? えーっ! 将来の夢なんて、最近全く考えることがなくなっていた。何を書けばいいのかわからなくて、鉛筆が動かせなくなってしまった。
「ミサちゃん、わからないところがあるんだけど」
「どこ?」
「将来の夢ってところ」
「これからなりたいものを、書けばいいんだよ」
そ、そうか。そういう意味じゃなかったんだけど、ちょっと考えてみようか。
えーと、子供の頃は看護婦さんになりたい、とよく言っていた気がする。もうちょっと大きくなってからは航空管制官になりたい、なんて思っていたなぁ。そんなことを書けばいいのかな?
「ミサちゃんは何て書いたの? ちょっと見せてくれない?」
「だめ。人のはどうでもいいんだよ。自分で考えるのでいいんだよ」
う……、正論すぎて反論できない。
考えてみれば、私も今まで「将来の夢」を書く機会は何回もあった。小学生時代は、作文の課題などで書いた。でもその都度内容は色々で、それでその時の課題が提出できればOKと考えていた気がする。今思うと、なんてもったいないことをしたんだろう!
就職や転職活動時にも将来の希望を書くことはあったが、その時は面接を通りやすい内容を創作とまではいわないが、内容を選んで書いていたので、純粋に自分の将来の夢を考えていたわけではなかった。
「これからなりたいもの、は、自分がそれになったときのことを想像すると、うれしい気持ちになるものだよ」
ミサちゃんがヒントをくれた。そこで想像してみた。
例えば子供の頃の夢だった看護婦さんに私がなって、みんなに優しくしている自分を想像すると、今でもうれしい気持ちになる。また、航空管制官になって大きな飛行機へコースなどの指示を伝えている自分を想像しても誇らしくてうれしい気持ちになる。
でも、年齢的に人生の半分以上を過ぎた今からそんな職業につけるとは到底思えない。そんな職業につくために勉強をする時間がもうないし、体力もない。なにより年齢的に採用もしてもらえないだろう。実現できないと思いながら想像するのは将来の夢ではなく、憧れが捨てきれない、というヤツだろう。
と、すると私にはもう将来の夢はないのかなぁ。歳をとるってつまらないというのってこういうことなんだな、などと思って机の上に両手をついてしまった。
でも、ミサちゃんは自分のカードを書き終わって、私が書き終わるのを待っている。私は、もう降参しようと思っていってみた。
「将来の夢は、お仕事の名前を書くんだよね? マリちゃんは、もうお仕事しちゃっているんだよねぇ」
「お仕事じゃなくていいんだよ。ミサのも違うよ」
ミサちゃんは、きちんと答えてくれた。相変わらず前向きなアドバイスだ。私を友達として扱ってくれている感じもする。私もきちんと考えよう、と思い直した。
アラフィフになった今と子供の頃との大きな違いは、人生の残り時間の量だ。だから子供の頃と同じ時間感覚で、将来を考えることはできない。
今の私が、将来の自分に期待することは何だろう? ザックリといえば、自分の人生に納得できることではないかと思う。
では、何があると納得できるのだろう? 納得かどうかはわからないが、少なくともこれまでの自分の生き方を自分で否定したくない。では、否定したくない部分って何だろう? それを追求することが、将来の夢といえるのではないだろうか?
ようやく私は自分の将来の夢を書き込んだ。
「ミサちゃん、書いた。これでいいかなぁ?」
ミサちゃんは、わたしのカードをみて
「いいよ」
といってくれた。私は「せいぎのみかた」と書いた。ミサちゃんの将来の夢は「びじん」だった。
ありがとう、ミサちゃん。私の将来の夢がわかった気がする。私達二人とも、将来の夢が叶えられるといいね。
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